2015年01月05日

100VISIONS.

とりあえず張り付けてみましたが・・・修正しきれませ~ん・・しかも今、久々に少し読んだら、これは校正前の原文ですね。
でも、いまこれしまないんですよ。このままにしておきます。お許しください。
岡林幸助・・・・読めば面白いんですよ・・ホントに・・
目次
第一章 言葉 ................................... 1
第二章 希望Ⅰ ................................. 5
第三章 マザー ................................10
第四章 三国同盟 ..............................40
第亓章 宇宙王争奪戦 ...........................89

第一章 言葉
今から50兆年程前、宇宙とは呼べない暗い闇に、言葉と呼べる程では無い最初の意思が生まれた。その意思は自由に飛び交う素粒子達を自分の周りに集めたいと思った。素粒子達は集まったり離れたりしていたが、ある時その意思の周りで渦を巻き始め、やがて小さな「素粒子爆発」が起きた。 素粒子は爆発の度に数を増やし爆発の度に新しい意思が生まれていった。爆発は成長し大規模に成り終に物が生まれる「物爆発」が起きた。その中で物は引き合い、やがて渦を巻き、生命の星を生むビッグバンが活発に起きた。ビッグバンは物宇宙の拡大と共に徐々に起きにくく成ったが、宇宙の中心で新しい「物爆発」が起きた。 宇宙に生まれた意思と意思の間で単純な意思の伝達が起き、やがて言葉に成長し、意思は言葉で思考し、自由に意思の伝達ができる「宇宙精神」[Space mind]に進化した。 こうして宇宙に生まれる宇宙精神達は宇宙と生命の星の繰り返しを眺めて時を過ごした。 一方、地球の様な人生命の星では、大気から水が生まれ、生物が生まれ、動物、人へと進化し、人と人の間で単純な意思の伝達が起きた。意思の伝達は言葉に成長し、人が言葉を使い、「宇宙精神」に非常によく似た「人精神」[People mind] が大量に生まれた。宇宙は最終的に物と精神が融合した人を生む。 人は人社会を創り、その数を爆発的に増やし、自然環境を破壊し、物の廃墟に至り消えて行くことを繰り返した。宇宙全体に人社会が同時存在する数は2~3個しかないが、宇宙が始まってから今日までに1000程の人社会が同じ生涯を遂げ消えて行った。 この50兆年の間に生まれた十万程の宇宙精神達は宇宙とはそんなものだと思い込み、そこに留まり続けることに疑問を持たなかった。精神宇宙[Mental space]は肥大化し宇宙の年代により5層の界で隔てられた巨大な体系を作り出していた。
そして、地球の周りに生まれた若い宇宙精神達は人々から神々と呼ばれ崇められた。神達は自分達が生まれる以前を知る由も無く自分達が宇宙最古の精神だと思い込み、同様にそこへ留まり地球だけを眺めて
2
過ごした。 人は死ぬと純粋な宇宙精神に成り、その中の優位な者達は人へ生まれ変わらず、神々の最下位へ仲間入りをする事に快感を覚え、同様にそこに留まった。そして、人も人社会で楽な生活を手にした者達はその立場に留まった。こうして宇宙は変化の無い悪循環を繰り返し、宇宙に生まれた人生命の星は、その自然環境の寿命をまっとうすること無く人によって破壊され、地球もその時を迎えていた。 素粒子爆発が成長する段階に二つに分かれる爆発が存在し、この為に基本宇宙は二つ存在している。この双子宇宙は全く重なっているとも言えるし、全く遠く離れているとも言える。物の運動の規則性から向こう側の宇宙と私達の宇宙は対称に同じような時に同じような生命の星が生まれた。 向こう側宇宙に「希望」と「希望Ⅱ」、こちら側宇宙に、「マザー」と「地球」と呼ばれる生命の星が在った。今から3000年ほど前、向こう側宇宙に「サイクル」と「自由」と名乗る精神がいた。

サイクル「私達が生まれてから何年たった?」
自由「50兆年程か、物が生まれてからは20~30兆年だろう。話をしないと言葉を忘れそうだ。」
サイクル「宇宙は醜さを繰り返す物だ、見飽きた!それに退屈だ。」 「どうだ。暇つぶしに生命の星を美しくしに行かんか?」
自由「誰でもそう思う。しかし現実は手に負えん。だから50兆年が過ぎたんだろう。」 「過去に数名の理屈屋が人へ生まれて行 っ たが戻っていない。」
サイクル「ならば、クローンに生まれたらどうだ?」 「クローンには性欲、金欲、名声欲が無い。脳もデカイ。それに人社会の中枢へ入り込める。」

自由「宇宙の無限の可能性とは人が作る社会の可能性だ。不自然なクローンが楽園を作れば私達は不 要に成る。この宇宙が醜い原因は私達と人との問題でクローンは別の問題だ。一緒にするな。」
サイクル「あのな・・お前は自分が理屈っぽい事を認識していないな。」 「クローンは人が生みだすんだから自然なものだ。」 「それに、ここに居続けて何が変わる。自己の苦が軽くなるのか?」 「どうだ、お前のプランを試してみないか?」
自由「お前は、クローンを使った循環精神宇宙を作ろうとするお前のアイデアを試すために、私を利 用しようと考えていないか?」
サイクル「聞こえが悪い。協力を求めていると言って欲しい。」 「それに、お前のプランがどんなに素晴らしいものでも、一人では何もできんだろう。協力しよう!」
自由「しかし、お金や健康や環境も要る。時間も短い。タイミングも非常に重要だ。」
サイクル「タイミングとは何時だ?」
自由「大環境異変、すなわち人への自然淘汰が開始する直前しかないだろう。」
サイクル「ならば「希望」の星がある。」

二人ががそんな話を際限なく繰り返していた時、彼らの足元にぼんやりと別の宇宙精神達が話し合う光景が浮かび上がった。それは、地球側宇宙の10兆年精神宇宙で「自然界」を名乗る若者達が8名で話し合っている姿だった。そしてその若者達も自由とサイクルと同じような話し合いを繰り返した。彼らは4名の精神がマザーと呼ばれる星へ出かけ、残った4名がサポートと帰りを待つことで話がまとまり、彼らのマザ
3
ーへのトライが始まった。 マザーは地球と非常によく似た星で、全表面積に対する地上面積の割合は約20%、星人口約51億、国家に当たるブロック数約140、自由経済、石油を中心とした科学力は進んでいて人口抑制もできていた。人々の生活ぶりは大変豊かで自然破壊が進み始めてからは石油の消費量制限もできていたが、それでも石油の大規模精製から300年程で大環境異変が開始した。 大環境異変は長雤と水害は20年程続き、食糧不足による餓死で星人口は30億弱まで減り経済は衰退した。しかしこれでも通常の大環境異変から比べればその被害は小さく納まった方だと思えた。 マザーの大環境異変が開始した頃、新しい未来VISIONを作り出そうとする若者達が活動を開始したが、瞑想を好むという若者達の集まりでは無く、理論的に未来を考えようとする若者達だった。その若者達は未来VISIONNを世界から集め、それを基に「自然範囲内経済」という仕組みを作りあげた。 その仕組みは自然の範囲内の経済、平等な収入、急がない、豊かな時間を大切に考える。 状況が好転するまで開発を禁止する。ビジネスは環境を犯さない条件をクリアした者のみに許可を与えるというもので、開始から5年程で定着した。以前のような乱開発、急ぎ開発というものは無くなり人々の心も直ぐに美しく成りマザーに未来への希望が満ちた。 サイクル「あいつらはどうだ。やり抜けるか?」 自由「通貨統合はしたが貨幣を残した。貨幣が有れば人は集める。そしてビジネスの権利が個人にも 在り、いずれコントロールができなくなると思う。」 「星VISIONは在るが、政治の下に成っている。それに、ピープルセレクションと不要なブロックを制圧する仕組みと、力が無い。」 「固定された仕組みでは、それがどんなに優れた仕組みでも、人はその欠点へ付け込み、自分だけの楽を求め腐敗が始まる。タイミングは非常に良かったがプランが未熟だと思う。」 「私は、やり抜くのは難しいと思う。」 サイクル「それにしても俺達に向こう側宇宙が見えたことが不思議だなあ。」 「どうだ、一緒に希望へ出ないか?良い女が居るぞ!」 自由「出るのは良いが、お前はクローンを使って、宇宙精神の循環体系を作ろうと考えている。」 サイクル「宇宙精神が何をした?現実を無視した理屈をこね回し、自分は優れた精神だと思い込んでいる。」 「私とお前もおんなじだ。」 「それでも留まり続けるのか?」 自由「クローンは人と宇宙精神の中間で、彼らは何もしない私達と、欲望に翻弄される人の両方を愚 かだと思っている。そしてクローンは人より能力的に優れ美しいと言えるが思考範囲はそこま でだ。宇宙全体を見る目が無い。」 「もし、お前がクローン達のリーダーとして、彼らを人社会の楽園を作る道具として使えば、楽 園は作れると思うが、それもお前の結果だけを求めた小さな行為と言える。」 「それでは宇宙が美しくなったとは言えん。愚かな私達と人が、美しく成ろうと努力して楽園を 作る事に精神の進化と美がある。」 サイクル「他に手があるか?無いからぐずぐずしているんだろうが。」
4
自由「人と宇宙精神が力を合わせてやれば良い。」 サイクル「どうやってだ?」 「お前の人間への期待は分からんでも無い。しかし甘ったるい。」 「この20兆年の間、人精神は全く進化しなかったんだぞ。」 自由「優れたプランが無かったからだ。プランを置いてやれば、後は人々の力仕事だと思う。」 サイクル「どうやってプランを置く?」 「クローン達は、後で労われば良い。とにかく結果を出して戻る。それをやって見せれば宇宙精 神の馬鹿ども動くかもしれん。今回だけだ。クローン達を使うのでは無い。協力を求める。」 自由「人精神の進化が、宇宙精神へ影響を与え、宇宙精神の循環が始まらなければ精神宇宙は腐敗と 肥大を続ける。安易な結果だけでは宇宙は変わらん。いずれ腐れが湧きあがる。」 サイクル「え~い、難しい奴だな!」 「今回だけだ。まず一つの結果が必要だ。やらねば始まらん。」 自由「確かにお前しか居ない。クローン達を利用するのは今回だけだぞ。」 サイクル「分かった。約束する。する。する。」 自由「ああ、これで宇宙と自分からしばらく解放される。先に出る。20年遅れて出てくれ。」 こうして自由とサイクルの旅が始まった。
5
第二章 希望Ⅰ
向こう側宇宙の「希望Ⅰ」と呼ばれる星は地表率23%、星人口約60億、ブロック数170、自由経済、科学は地球よりやや進んでいて、人クローンが社会で活躍し核兵器も在った。人社会の経済格差は地球ほど大きくは無く、人口抑制、石油消費制限等の環境対策には真面目に取り組んでいた。それでも環境破壊は進行し大気の温暖化と海面上昇等が現れ気候変動は始まっていた。 自由「お疲れさま!」 サイクル「戻ったぞー!」 MERIA「お疲れ様でした!」 サイクル「ちょっと、いい気分だな。クローンもやればできるんだ。」 「自由、お前はどうだ?」 自由「確かにクローン達の未来への献身と自己犠牲は人の域をはるかにしのぐものがある。お前とク ローン達の希望Ⅰへの貢献度は非常に大きかった。その上で不自然な不要なものだ。私の考え に変わりはない。未来は宇宙が自然に生みだした宇宙精神と人で作ることに無限の可能性が在 ると考えている。」 サイクル「お前は相変わらず、理屈っぽいな! 」 MERIA「止めて。」自由はMERIAを無視して続けた。 自由「そう言いながらクローンの未来に大きな不安を持っていないか?そしてお前はクローン達の本 当の苦しみを知っていない。私はクローン精神を否定してはいない。この星のクローンは特に 美しかった。しかし私は人の若者達の可能性こそが美しい未来の時を奏でるものだと知ってい る。 クローンが美しい未来を作り続ければ私達と人は不要なものになり、特に人は自然破壊を起こ す為だけの生命となる。人の無限の可能性と宇宙の希望は同じものだ。」 「人はクローンを利用し、お前は美しい未来を作るためにクローンを利用する。人の堕落とクローン達の犠牲とが美しい未来を作るのは悲しい。」 MERIA「悲しくなるのはあなたたちよ!今戻ったばかりでしょう!今言い合うの。」 「苦労を労う時じゃないの。」メリアは泣き崩れた。 サイクルが戻って10年程の時が流れた。 サイクル「あと2000年程でこっち側の希望Ⅱと向こう側の地球という星が自然淘汰を迎えるだろう。わしは希望Ⅱにも、地球にもクローンを置くべきだと考えている。」 自由「人でできる。クローンは必要ない。」 サイクル「循環宇宙精神の体系を作るためにはクローンは不可欠だ。」 自由「お前はクローン無しでは新しい未来が作れ無いと考えているのか。」 サイクル「できれば人でやりたい。しかし、人は金が好きだしな。」 自由「楽をして楽園が作れるのか?いずれ腐れの原因になる。おまえも人も自分の都合でクローンを作り利用し捨てる。そんなずるい考えで宇宙が美しくなるか。」 サイクル「ずるいかもしれん。しかし結果が出せる。」
6
「クローンによる循環精神体系が確立すれば宇宙自体が楽園に成る。留まり続ける宇宙精神など放っておけば良い。人などサルの仲間だ。」 「結果だ。その為に生まれた。おまえもその為に出たんだろ。美しい循環宇宙の体系を作ろう。」 自由「お前は、醜い宇宙精神と醜い人を無視して、宇宙に流れを作ろうとしている。」 「お前も人々もクローンを奴隷のように使って楽をしようとしているだけだ。おまえは腐れ始めている。」 「マザーではクローンが問題を起こし生産が中止された。」 サイクル「クローンを粗末に扱ったからだ。労わり合う関係を作ればいい。」 「人は問題を起こさんのか?人が起こす問題は当然で、クローンが問題を一つ起こせば大問題にする。そのことの方が問題だ。」 自由「リスクは考えているのか?」 サイクル「リスクは承知だ。クローンを使えば確実に宇宙の全てを楽園にできる。」 「100VSが軌道に乗り自然環境が回復したら、製造をやめればいい。」 自由「一回だけの約束だったはずだ。」 サイクル「お前は特別だ。若い者達は人の三欲にやられ帰ってこないどころか落ちぶれている。」 「いきなり人へ生まれさせたのでは循環精神の体系を作ることが難しくなる。」 「一回目はクローンへ生まれさせ、戻ってきたら2度目は人へ生まれさせる。自信と実績が循環精神達を人から無事に戻す。」 「分かってくれ。わしは未来へもクローンを置き、循環精神を育て循環宇宙を作りたい。人では難しいと言わざるを得ない。」 自由「お前には君臨欲が生まれている。」 サイクル「その通りだ。私には君臨欲がある。人の世を美しくし、留まるだけの精神宇宙に流れを作り、美しい宇宙を作った者が宇宙に君臨して何が悪い。」 自由「分かった。好きにしろ。もう、お前とは働けない。私はマザー行く。」 サイクル「マザーは無理だ!」 「マザーの結果を見ただろう。誰も戻ってはいない。向こう側ではサポートが出来ない。向こうは古い精神達が君臨していて循環精神の考え方すら理解していない。自然界達がやったことを眺めてはいたが加勢もしなかった。何の協力も無く一人で向こう側へ乗り込むことは自殺行為だ。おまえもそう言って私と一緒に生まれた。」 自由「おまえは腐った結果とやらを出せ。」 サイクル「自由、冷静になれ。希望Ⅰを変えられたのはお前一人の力では無い。思い上がっているとしか思えん。」 自由「醜い星は他にもある。だから行く。」 サイクル「お前は循環精神のヒーローだ。そしておまえがマザーへ行くことは美しいが、チャンスは大環境異変しか無いと言ったのはお前だぞ。」 「お前がマザーへ向かえば真似のできない美を残す。そしてお前が無事に戻れれば向こうにも美が生まれ宇宙の未来の可能性がさらに広がる。しかし、それは戻った場合だ。」
自由「私は美を残したいとは思っていない。人に希望というバトンを手渡したいだけだ。希望Ⅰで沢山の人の若者達が育った。そういう宇宙精神の流れをマザーへ運ぶ。それが循環の考え方だ。私達が全
7
てをするんじゃない。人がしてこそ美しい宇宙だ!」 サイクル「私はお前の後を追わんぞ。戻れる確率が低すぎる。」 自由「宇宙の無限の可能性とは人の進化の可能性の事だ。クローンの可能性を拡大することでは無い。」 「お前の目的こそ何なんだ?お前は結果が全てでやり遂げることのみに心を奪われ筋道を見失っている。金で筋道を見失う人と同じだよ。」 サイクル「・・・分かった。無事に戻ることを祈っている。おまえも結果を出せ。そして戻ってくれ。」 「約束だ。おまえが戻ったらわしがそっちへ出る。その代わりお前はこっちのクローンを始末してくれ。」 自由「ふざけるな!いい加減目を覚ませ!」自由は終に大声を張り上げ、その声は精神宇宙に轟いた。 サイクル「自由、良いか。もう一度言う。わしが望むものも、お前が望むもの結果は同じだぞ。」 自由「同じように見えるだけだ。宇宙の希望と未来の可能性が全く違う。良く考えろ。」 自由はサイクルの強引な行為能力の大きさと、希望Ⅰの星を救った自信を知っていた。このままでは全ての生命の星がクローンによって楽園化される。人は大環境異変を起こすだけの生命として、今より更に軽視されるのを黙って見ていることはできなかった。 地球は大環境異変には時期が早く、自由はマザーへ向かい人の力で楽園を作り、人の可能性を証明するしか無いと考えた。自由には手立ても確信も無かったが、このまま留まっていれば自由が望まない未来を作ることへ利用されてしまう。自由はMERIAと最後の話をする事になった。 自由 「MERIA話がある。」 MERIA「なに?」 自由 「サイクルも戻ったし希望Ⅰはもう大丈夫だと思うんだ。」 MERIA「うん。それで?」 自由 「希望Ⅰにはもう私がすることは無いと思うんだよ。人の若者達が100VSで楽園を探し作り続ける。問題は起きるだろうけど、それも人が対策を探すことに未来があると思う。」 MERIA「どうしたの?何が言いたいの?」 自由 「向こう側の宇宙にマザーという楽園作りに一度、失敗した星があるんだ。そこへ行こうと思っている。」 MERIA「そんなことしてたら、きりが無くない?」 自由 「すまない。しばらく待っていてくれないか?」 MERIA「大丈夫よ!私も一緒に行くから。」 自由 「それは無理だよ。マザーは別宇宙だよ。消息は完全に消える。クローンの生産は中止されクローンが居ないんだよ。記憶も完全に消滅する。出会えるかどうかも・・自己を回復できるかどうかも分からない。上からのサポートは一切無い所なんだよ。」 「もし君が僕と一緒にマザーへ向かったとする。僕の最大の願いは君に出会う事になってしまう。僕も行くからには成果を上げたいんだ。無駄死にはしたくない。待っていてほしい。」 MERIA「いや!もう沢山。自分を捨ててこれだけ働いた精神達の最後は自殺行為なの?あなたは報われるべきだわ。あなたは精神の最後を蝶かトンビに生まれて過ごしたいと思っている。でも私は嫌。私もあなたと行くわ!」
8
自由 「自殺するつもりなんか無いよ。」 「MERIAいいかい。人へ生まれるのとクローンへ生まれるのでは訳が違う。おまえが私達循環精神を愛し、その執念と化した「美しい未来の実現」という願いを支えようとして人へ生まれたとしても、おまえが宿る人の胎児の脳は未熟だ。おまえの願いの中の私を求める愛情の破片しか留めることはできないと思う。人の子宮は恐ろしいほど安らかで、更に記憶を消されて行く。その上に人には性欲と金欲と名声欲があり生活にはお金が必要でお金の為に働くことになる。」 「お前は対象の無い強い愛を求めて落ちぶれる。」 「仮に僕に出会ったとしても、その時のお前は自分の渇いた愛情を満たそうとするよ。」 「マザーで人として生きることは、暮らしだけでも大変なんだよ。無理なんだ。不可能なんだよ。」 MERIA「やってみないと分からないでしょ。私にはあなたを支えた自信があるわ!」 自由 「悪いけど、そんな類の意志じゃ歯が立ちもしないよ。」 MERIA「そんな言い方はあんまりだわ!私が何も分かって無いみたいな言い方ね。」自由はMERIAを説得することはできないと感じた。 自由 「・・・分かったよ。じゃあ君のマザーでの名前は何にする?」 MERIA「ワーイ!一緒に行っていいのね!楽しみだわ!」 「あなたはプルメリアが好きだからやっぱりMERIA。」 「絶対に気づいてね。」 自由 「分かった。」 自由はそう言い残しMERIAを置いて一人こっそりとマザー側精神宇宙へ入った。
マザー側精神宇宙
自由はマザー側精神宇宙の一番上から下りて行った。 そこはまだ5層もの界で閉された守り一色の体系で、おそらく十万の精神がいただろうと思えた。そして50兆年を超える古い精神達がその体系を守ろうとしてただ留まっていた。 自由は美しい精神ほど人へ生まれ、現実の人々の暮らしを美しいものにすべきで、美しい精神とは美しい現実が作れる精神では無いかと話した。自分はこれから人へ生まれてそれを試してみたいと伝えた。既に名も無く任も無く言葉を発することさえ忘れているような精神達が過去の記憶を抱きしめ自己の始末に苦しんでいた。上層界の精神達はサイクルと同様の知識を持っていて自由が言う事は水が落ちるように彼らに理解され、彼らは快く協力をすることを約束した。そして反対に、宇宙の新しい形を作って欲しいと言われた。 しかし、彼らはもう長く留まり過ぎて人に生まれ出るタイミングとその自信を失っていて自ら動こうとは思ってもいないようだった。すべての精神は安易な楽へ向かい留まる性質があった。 自由はこの時、自分が他の宇宙から来たこと、そしてそこには既に精神の循環が始まっていることを伝えなかった。外から来たものが精神のまま他を自由にすることは間違っていると考えたからで、人へ生まれ、 舞い戻った時には発言する権利があり、それを示すことができると思った。
自由は、界層を順に降り、30兆年宇宙、10兆年宇宙、1兆年宇宙のそれぞれのトップ達と話をしていった。その精神達は自分達が宇宙の最古神だと思っていて更に広い古い宇宙があることを知らなかった。この繰り返しに対しても自由は上の界の存在についても知らせなかった。界は新しく生まれた精神達には、
9
それ以前の宇宙が見えない事を利用して安定に強固に守られていた。界を破れるのは人精神が下から這い上がって来て、その人精神の魅力に魅せられた上の界の精神が話しかけた時に、その人を通した会話から、上の界の存在を知り、界が破れたと成る。自由は自分がそれをしなければならないと感じた。 そして自由は、最後の45億年のマザー精神世界まで下り、太陽と月の大神に挨拶と協力を求めた。太陽と月は1兆年精神宇宙の存在を微かに知っていた。これは過去に人精神がそこまで這い上がった証であることに自由は微かな希望を感じて人へ生まれていった。 自由がマザーへ旅立ってから1500年程が何の連絡もなく過ぎ、自由の帰りを待ち続けるMERIAの自由への愛は今や執念と化していた。 MERIA「サイクル、助けに出て。」 サイクル「またその話か・・もう、うんざりだ。勘弁してくれ。こんなことならわしが向こう側へ出るん だった・・」 MERIA「見捨てる気?」 サイクル「あいつが、自分の意思で出て行ったんだ。」 MERIA「あなたが追い出したのよ。」 「助けに出て。親友でしょ。二人で始めたんでしょ。あなたを助けたのよ。あなた一人でできたの?こっちにはもう若い循環精神達が沢山いるわ。」 サイクル「あれから1500年が過ぎた。もう遅い。自由はおそらく落ちぶれ出会っても分からんと思う。」 「もう尐しで希望Ⅱが大環境異変を迎える。この星を無事に楽園にできれば循環体系は確立する。」 MERIA「分かったわ。もう貴方には頼まないわ。くそったれ!」 MERIAは自由を助けようと一人でマザーへ、人として生まれて行った。それから4~5百年が過ぎて も二人の消息は不明で、二人は人に消えたと思われていた。
10
第三章マザー
創造5年、マザーの「自然範囲内経済」は、大環境異変の悲惨な体験から新しい未来を求める人々に問題無く受け入れられ、わずか5年程で定着した。以前のような乱開発、急ぎ開発というものは無くなり人々の心も直ぐに美しく成った。 創造30年、自然環境は70%~80%まで回復しマザーの人社会に未来への希望が満ち溢れた。 創造50年、 人々の環境再生努力が形に成り、自然環境は僅か50年程で90%程まで回復したと思えた。しかしこの頃から一部の国で、より自然に優しく高性能な物の開発を認める法律が政治から生まれ、徐々に経済活動に活気が蘇り始めた。そして、大環境異変を知らない若者達が求める物の生産が闇で再開し自然環境がまた破壊され始めていた。 創造1950年、自然範囲内経済が開始して約2000年が経過したマザーでは、闇ビジネスの取り締まりが行き届かない状況だった。闇経済活動が盛んな国の力が強く成り、自然環境ぎりぎりまで経済を再開する国が増え、自然環境は大環境異変前の50%状態に戻っていた。 闇の商品は表の商品の2倍から3倍の高値が付いていたが売行きは良く、人々は、昼間は表の仕事を、夜には一般家庭でも闇ビジネスをすることが暗黙の了解となっていた。マザー政府は違法ビジネスを取り締まり、自然環境の回復と闇ビジネスの淘汰を図り続けるものの、闇経済が一般化し、罪悪感の無い人の心に再燃した欲望の火を消す事は難しかった。 そんな中、闇経済が最も進んでいたPALDINAという国があった。PALDINAはもともと、その隣国であるPELDINA、POLDINAと一つの国家だったが、100ブロックスにより人口1億以下の3国に分割されていた。PALDINAは、世界的な闇商品のブランド国で闇経済社会のお金が表の国家が発行する赤字国債の80%以上を握っていて、事実上闇世界に支配された国と言えた。 マザー政府はそんな状況のPALDINAに対し世界的な経済封鎖を行った。しかし、すでにPALDINAの世界闇ルートは完成し、闇ビジネスを行う世界中の人々によって支えられていてマザー政府の力の無さを世界に見せつけた結果で終わった。しかも、マザー政府がオフィスビルを構えていたHOPE CITY は、このPALDINAが国境を接するもう一つの国であるHOLANDにあった。さらにHOLANDはPALDINAに接する為に工業が発展せずバイオ技術が進んだ農業大国として政経を立てていて、その農産物をPALDINAがどこよりも高く買い取っていた。
自由経済が一旦再開されると、遅れを取ると致命的なリスクに成る事は明白な事実であり、各国は正直なところ岐路の選択を迫られていた。しかし、ほとんどの国はこれ以上の環境崩壊を恐れPALDINAの経済封鎖に協力した。そして一旦は廃止されていたクローン生産が、未来環境不安からの宇宙基地ビジネスが背景となって製造が再開されていた。そんな状況にもかかわらず、過去の体験からか人口抑制政策だけは社会に問題無く受け入れられ、星人口は30億強で安定していた。自然環境は生命の種が多く消滅した為か回復を見せず停滞していて、もう一度大環境異変が始まれば回復は不可能だろうと予測されていた為か、未来への期待感が薄く、社会には稼いだお金は直ぐ使い、足りなければ闇ビジネスで稼げばい良いという
11
気風が在り、結果として景気は良かった。 ALOHAは地方の小さな農村に生まれ、細身で身長があり甘い顔立ちでスポーツと自然が好きなごく平凡な青年だった。しかしALOHAはこんな状況と社会概念に付き合う事にひどく疲れた。 ALOHAの仕事関係の仲間達全ては、世の中とはこんなものだと思い込んでいた。または考えているふりを装い闇の世界から賄賂をあさる小さな政治家達、組織に群がり甘い汁を吸い続け様とする人達に囲まれ、役所関係のコンピュタープログラマーとして生計を立てていた。 ALOHAは29歳の時に人生観を変える旅がしたいと世界一周の旅に出て、瞑想から神々の存在に出会った。彼は自信満々で帰国し生活の為に元の職に復帰した。ところが彼が瞑想で得た言葉の山は日々の暮らしには何の役にも立たず、精神世界の言葉で頭でっかちに成った若僧は、お金儲けの為に時間を急ぐ職場から冷たく迎えられたた。 結果としてALOHAは旅に出る前よりも毎日の生活を続けることに苦しみ、重度の自律神経失調症の症状に悩まされることに成った。そんなある日、「クローンの父親に成りませんか?」という新聞の求人広告がALOHAの目に飛び込んだ。結局、ALOHAはHOPE CITYにあったクローン養成学校の職員に転職することができた。 この頃のマザーには約2000体のB型クローンが居て、毎年50体のクローンが生産されていた。最終培養の終わったクローン達は一年間幼稚園の様な施設で過ごし言葉を習得した後、5年間クローンの専門学校へ行き一般教育を受け社会へ就職していた。教育の内容は、数学、電子工学、生命医学、物理学が主な柱ではあったが、人が大学で学ぶような内容は全てあった。その授業はすべてPCにストックされていて自主学習と自主実験による学習スタイルで、人との接点が無くても高い知識を短期間に習得した。彼らが養成学校を卒業するころには全ての部門で人の大学教授並みの知識を身に付け、中でも組織培養と宇宙物理学、複数言語力、PCソフトプログラムに関しては人が追従できる域を遥かに超えていた。さらに、この事はあまり知られてはいないがB型クローンには、相手の地位や知識量や言葉使いに惑わされない、人を見抜く洞察力がある。 ALOHAの仕事は簡単にいえば悩みを持つ生徒達の相談役と、クローン達に愛情を持って辛抱強く接し続ける、クローン達の父親の役目だった。彼には精神的に悩み苦しんだ時期があり世界旅行もしていて瞑想体験もあり、クローン達からしてみれば数尐ない話の出来る人として重宝された。ALOHAは止めていたスポーツを再開し32歳でやっと水を得た。 生産されたクローンは、生後3年程は人に非常によく懐くが、その頃から人はチンパンジーが尐し進化した動物で、大きな金欲と性欲と名声欲が有り、自分達の都合でクローンを作り出し、自分達に出来ない事をさせようとしていることに気付くと、人から知識を得ようとは思わなくなる傾向が見られた。クローンには人の金欲、名声欲、性欲が無い為に、欲望に翻弄されるヒトという動物を見下し、極端に軽視した考えを持つケースもあった。 ALOHAには、クローンが人に従順で与えられた使命を完遂出来る冷静な博士タイプに仕上げることが求められた。
ALOHAは、クローンの未熟児で体が特別小さく性格も子供っぽく就職先が決まらなかったローレルを自宅に引き取った。ローレルは、体は小さいが言語力に長け、耳が悪く複数言語が苦手なALOHAの弱点を補
12
い強力なパートナーと成っていた。 ALOHAのアパートは鉄筋コンクリート造平屋のテラスハウスで、4人で暮らすには多尐狭いが二人で暮らすには十分だった。隣のROBの家は幼子がいるから同様に物は多いものの、几帳面な主婦LEOがいるから整頓されていた。 ローレルが初めてこの2軒の家の前に立った時、工具や農具、それに玩具が片付けられたROBの家のガレージを見て微笑み、錆びたオープンカーとモトクロスバイク、サーフボードが無理に詰め込まれたALOHAのガレージを見て溜息をついた。ただし、裏庭だけは良く似ていた。どちらもよく手入れがされていて、この2軒を仕切る垣根の一部が獣道の様に途切れていた。
いつもの朝
ローレル「ALOHA起きて!朝だよ!」 ローレルはALOHAの掛け布団を剥ぎ右の太ももを軽く叩くが反忚が無くALOHAの股間を軽くたたく。ALOHAは小さなうめき声を上げて両手で股間を抑え込み、向こうむきに横になって、また寝ようとする。ローレルは両手の人差し指を揃えALOHAの肛門めがけて軽くヒットさせる。 ALOHAはのけぞって右手で肛門を抑え、やむなく起き上がり左手で頭をかきながら大きな欠伸をしてベッドを下りトイレへ向かう。 ALOHAがテラスのテーブルで新聞を読みながら朝食を取り出勤して行くと、ローレルは隣の家へ行き二人の幼い女の子を預かって帰って来る。昼までを家の掃除と洗濯や菜園やで過ごし、午後から子供達の家庭教師を務め、夕方5時頃に二人の子供を送り返す。そして、お隣から食材を胸一杯抱えて戻り、夕食の準備をする。そしてALOHAはいつものように生徒たちとの時間を過ごし6時ごろ帰宅する。 ALOHA「今日は豪華だな。お隣か?」 ローレル「決まってるだろ。君の15マニーは君のおもちゃに全部使っちゃうんだから、こんな食事が出来 ることに僕とお隣さんに感謝して欲しいね!」 ALOHA「お隣は最近景気がよさそうだな。」 ローレル「ナイトビジネスに夢中みたいだね。」 ALOHA「・・・」 何時もの海へ向かう休日の朝、ローレルが助手席に座り、隣の子供のLIANとMERYは錆びだらけの古いオープンカーの狭い後部席に満載のカイトサーフィンの機材の間に埋もれている。生き先は風の強さと、向きと、潮加減で決まるのだが、3か所の決まったビーチへ向かう事がほとんどだ。車が到着するとローレルとLIANとMERYは直ぐに飛び降り波打ち際まで走って行き、しばらくは戻っては来ない。ALOHAはウエットスーツに着替え、仲間たちと一日カイトサーフィンを楽しむ。殆どの場合三人が先に飽きて、車でALOHAが戻るのを待つ。家路に着くころにはローレルもLIANもMERYもカイトを枕に口を開けて寝ている。家に着くとALOHAが先に降り機材をそのままに、力が抜けて重くなった下のMERYを抱きかかえて隣へ連れて行く。海遊びの後の仮眠ほど心地の良いものはない。ローレルとLIANはそのまま起きるまで、潮だらけの車に放置される。 夕食後ALOHAとローレルは同じデスクに並んで座りピースゲームの仕上げに入っていた。ローレルはALOHAが作ったホームページを多国語に翻訳し意見を交わしながら作り上げていた。
13
ピースゲーム失敗
ローレル「おはよー!起きて!」 今朝のALOHAは全く反忚しない。ALOHAには何度かの挫折体験があり立ち直りの速さには自信を持っていた。しかし、昨夜ピースゲームが失敗に終わってから一言も口を利いていない。ショックなのはローレルとて同じだったが、ローレルは何時もと変わらない朝を迎えたかった。 ALOHAは29歳の時から瞑想を続けていて、ピースゲームの制作に取り掛かった頃から神々との交信が増えていた。ALOHAは神々に従順というより信じきり、頼り切った生活を続けていた。ピースゲームが失敗に終わった昨夜、「お前はもう自由だ。好きなことをして暮らすが良い」と言われ交信が途絶えた。ALOHAは幾つかのことを学んだ。神々とはこんなものであること。自分の実力が不足したこと。時期を間違えていたこと。そして神々を信じきって疑うという事をせず自分の上に置き据えていて、これ以上成長できる要因も本物の自己を確立するための自信も、実は持っていなかったことを認めた。数日してALOHAは幼い頃から自分を守り続けてくれた小さな守り神との交信だけを残して、全ての神々を捨て、自分を「自由」と名乗るようになった。 自由はピースゲームを失敗した自分に出来る次のことを探し、マザーダンスパーティーのアイデアに辿り着き、マザーダンスパーティーの絵本を書き上げたのは41歳だった。そして、これも売れなかったが自由は挫折の乗り切り方も要領を得ていた。「一日は失望状態にあることを認め、次の日からは歩き始めた方が楽だ。」「考えていても何も始まらん。実力が不足したから失敗した。実力をつける方向へ歩く、その方が楽だ。」いまや自由の口癖になっていた。 LIANは16に成り美しく女らしくなったが相変わらず男勝りの闊達な性格で、MERYは14歳だったが綺麗な顔立ちで奥ゆかしいところがあり言葉尐なめな性格で、全てを見抜いているのでは無いかと思わせる事がよくあった。 何時もの休日の、何時もの海に着くとLIANと自由は海に、ローレルとMERYはビーチを散歩しながらビーチコーミングや木陰で読書をして過ごした。LIANは12歳から自由にカイトサーフィンを習っていて、今ではプロレベルの技を決めるようになっていた。自由はLIANをこのまま世界的なカイトサーファーに育てたかった。ビーチから100mほど沖合で自由がLIANに新しいトリックの説明をしていた。 LIAN「ねえ、自由。キスしてくれないかな?」 自由「話を聞いていなかったのか?」 LIAN「友達はほとんどキスの経験があるのに私には無いの。キスだけで良いから。」 自由「そういう友達は居ないのか?」 LIAN「いない事も無いけど好きな人としたいでしょ。」 自由「あのな、私は41だ。お前の両親の世話にもなっているから無理だ。気持ちは分からんでも無いが他の相手を探した方が良い。」 LIAN「キスしてくれないならカイトやめるからね!」 自由「お前は人の弱みを突くのか!・・・キスだけだぞ。」自由は右に、LIANは左にカイトを傾けライアンの唇に軽くキスをした。
14
LIAN「ありがとう。」 二人は直ぐに練習を始め、ローレルとMERIYはその様子を偶然眺めていたが何も言葉にはしなかった。 何事も無かったかのように何時ものように程良い疲労感と共に車を家路に走らせた。サングラスを 掛けたLIANの髪が、オレンジ色の夕方の風になびいた。
豪華な携帯事件
自由「ただいま!」 三人「お帰りなさーい!」 自由「LIAN、胸が大きくなってきたな。」 ローレル「自由失礼だぞ!謝れ!」 LIAN「ローレル大丈夫よ。私は自由が好きだから。」 LIANはローレルをハグし、額に軽くキスをした。」 MERY「ローレルにキスしないで!」三人はMERYに視線を奪われた。 自由「どうしたその携帯は?」 LIAN「学校の年間成績が一番だったからお父さんが買ってくれたの。」 自由「見せてみろ。」 「これはPALDINAの主力商品で8マニーするはずだ、こんな高価な物は今のお前に必要無いだろう。」 LIAN「クラスでは何人か持ってるよ。PALDINA製はやっぱり良いね!」 自由「お前は、闇マーケットが自然環境の回復の障害であることは分かっているのか?」 「お前は何の為に勉強しているんだ。」 「ローレル、おまえは何を教えて来たんだ!」 ローレル「そんなことは言われなくても教えてるよ。」 自由「ROBに返してこい!」 LIAN「いやだよ!あなただって、毎晩闇マーケット食材を受け取っているじゃない!」 自由「だったら、もう食材は要らない。」 「返してこないならローレルの授業は今日で終わりだ。」 LIAN「分かったわ。もう良いわ。」 LIANは出て行き、メリーは後ろを振り向きながらLIANの後を追った。 ローレル「お前の15マニーじゃ、カイトサーフィンやパラグライディング、モトクロスをしながら僕たち 二人が食べることはできないだろう。現実的に考えてくれ。」 自由「だったら野菜を一生懸命作れば良い。」 ローレル「卵と魚はどうする。」 自由「鶏を飼え。」 ローレル「魚は?」 自由「生め!」 ローレル「生め?」ローレルは自分の股間を見つめた。 ローレル「謝ってくるからな。頭を冷やしておけ!」
15
ローレルはそう言ってリビングから出て行った。 自由はテーブルの上に有ったティッシュケースをテラス窓に投げつけると格子のガラスが一枚割れ、自分で驚いて肩をすくめた。 しばらくしてROBとLEOが先頭になって皆がリビングへ入って来てソファーにかけた。ROBは体格が良くお腹が尐し出ていてナイトビジネスを成功させるだけの商才とそれなりの人間性を兼ね備えている男だ。しかし娘達のこととなると人の良い頼りがいのある教育熱心な父親に変身した。自由との付き合いは14年程に成り互いに気心は知れていた。 ROB「私は自分が正しいなどとは思っていないよ。自分が間違っていることも分かっている。しかしだ、いまどき闇マーケットの商品を買わない家庭なんて、まず無いと思う。私は社会の流れに自然に無理なく流されているだけだ。この2000年の間ナイトビジネスを取り締まることは誰にもできなかった。そしてお金持ちたちは宇宙ステーションの開発にお金を注ぎ、マザーを脱出する準備をしているらしい。未来に希望が持てれば努力もできる。希望が持てないのならば、せめて家族には笑顔で過ごしてほしいと願うのは間違っているのか?お前だっておもちゃ遊びしていられるのは食材の御かげのはずだ。」 自由「まず、食材はデイマーケット商品で十分だよ。そして、お前はなぜ子供達に高等教育を受けさせようとする?希望じゃないのか?希望を捨てれば未来は無くなる。希望はつないでゆくものだろ。できる範囲の最大の努力はするべきだよ。」 ROB「お前は、言う事も、することも見事だよ。私には到底真似は出来ん。私達は互いに現実的立場で 持ちつ持たれつ支え合って来た。私は良い関係だと思っていた。食材にしても新鮮なものは闇マーケットに出る。みんなお金が欲しいからな。子供達に新鮮な物を食べさせたい。その為に働いている。豪華と新鮮は違う。」 自由「現実的には、社会の仕組みから逃れることは誰にもできない。みんな自分が悪いことをしていることは分かっていてもナイトビジネスに手を染める。しかし社会の仕組みが間違っているなら新しく作り変えようとする願いと意志と覚悟を持って立ち向かったらどうなんだ。それが子供に対して見せる親の最大の教育じゃないのか。」 「親が子に、たとえ間違っていても現実のお金を優先しろと教えたのでは、地獄の未来しか訪れない。子どもたちには、たとえ貧しくても美しい自分と美しい未来を優先することを教えるべきだ。お前たち家族は自然破壊に協力しないでほしい。」 ROB 「過去2000年にできなかったことがお前に出来るのか?人々はマザーも生き物なんだから何時か終わると思っている。お前にそんな人たちの考え方を変えられるのか?」 自由「そのつもりだ。マザーには1億年以上の寿命がある。そのマザーを殺そうとしている者達が正しいとでも言うつもりか。私は美しいマザーの未来の為に最善を尽くす。」 「人は欲望へ流れ、そこに留まろうとする力と、自分を美しく進化させようとする両方の力を持っている。社会にどんなに素晴らしい公平な仕組みが生まれても、そこに住む人が醜ければ2000年前の悲劇を繰り返す。大切なのは醜い社会に流されない事だ。」 「若者達が腐れば未来もそうなる。美しい若者達を育てれば未来もそうなる。」
ROB 「確かに私は子供達にそんな人になってほしいと願っている。美しい大自然の中で安らかにその子供たちと過ごしてほしいと願っている。お前の言う事は理解している。だからここに住み、お前に協
16
力して来たつもりだ。しかし、デイマーケットの粗悪品で子供を育てなければいけないのか?」 自由「へ理屈だ。闇マーケットの商品が欲しい。そのエネルギーが闇ビジネスを支え育て続けている。だから自然環境とデイマーケットが弱まり、こんな社会いが出来る。闇マーケットを支えているのは人の欲望だ。お前たち家族に大きな罪はないと思うが、それでも、できる範囲の努力はするべきだ。」 「しかし私はお前たち家族が好きだ。だから私に良い提案がある。」 「ローレルをお前たちの家族で面倒みれば済む。」 自由はそう言うとリビングを出て、リビングに残った5人は話し合った。 話しあいは深夜まで続き、自由の提案通りやってみることになりローレルは自由のアパートに暮らし、自由の面倒を見ながら隣で勉強を教えた。 ローレル「こっちへ食べに来いよ。」 自由「私は大丈夫だ。私はパートナーを得るようにする。闇マーケットの世話にはならん。」
100VISIONSを書き始める
自由は追い込まれたギリギリな状況の時ほどアイデアというものは浮かぶものだという事を知っていた。だから良いチャンスだと思った。自由は100VISIONSのアイデアを完成させる為に自分を更に追い込んだ。頭の中で繰り返し練り、ローレルと、LIANとMERYとクローン達に話し、書き、捨てる。そしてまた錬る。書き始めてから3年が経過し、貨幣の無い社会が実現可能な仕組みであることに確信を持ち始めていた。
サイクル
自由がクローン学校を出ようとしていた時、後ろから声をかけられた。 サイクル「先生良いですか?」 自由「先生じゃない。自由だ。私はお前達の父親だ。」 サイクル「じゃあ自由。話を聞いてくれませんか。」 自由「もちろんだ。そこのベンチで良いか?」自由は左耳が不自由で、サイクルは自由の右側に腰を下ろし話し始めた。 サイクル「単刀直入にお話します。」 自由「いいだろう。」 サイクル「マザーダンスパーティーを読みました。」 自由「ありがとう。」 サイクル「100VISIONSを書いていませんか?」自由は眉間にしわを寄せた。 自由「・・・」 サイクル「あなたは、自由と言う名の宇宙精神です。」 自由「おいおい、そういう話なら聴きたくない。」 サイクル「じゃあ、何かあなたから私に質問してください。私がそれにこたえます。」 自由「そうか、じゃあ聞こう。私が100VSを書いていることを誰に聞いた。ローレルか?」 サイクル「ローレルさんとは、まだお会いしていません。」 「あなたの100VSはこうです。」
17
「世界の若者達からマザーの具体的な未来ビジョンを100集め本にします。ピープルセレクショ ンで10VISIONSを選び、さらにⅢVISIONSを選びます。 各ブロックはⅢVISIONSの範囲内でブロックVISIONSを選出し、政治はそれを処理する方向での み行うというものです。」 「あなたには他に100ブロックスというアイデアがあります。」 「どうですか?」 自由「だから、誰から聞いた。」 サイクル「もうひとつ。あなたは貨幣の無い社会の仕組みを考えていませんか?」 「そういう星が既にあります。」 自由「どこにだ!どんな星だ!」自由はそう聞き返してしまった。 サイクル「希望Ⅰと呼ばれる星で、この宇宙の反対側に有ります。希望はこのマザーに該当する星で、今 から2000年ほど前に100VSが始まり、現在はすでに楽園に成り、自然環境も回復しています。」 「あなたと私が希望Ⅰを楽園にしました。」 「そしてあなたは、トンビか蝶に生まれたいと思っていませんか?」自由は言葉に詰った。 自由「・・・良いだろう、ならば、その星の現在の様子を詳しく話してみてくれ。その内容が具体的で信用できるものだったら、お前の言う事を信じても良い。」 サイクル「望むところだ。良いだろう。」サイクルは対等に言葉を発し始めた。 「まず仕組みから行こう。」 「お前の云う100VISIONSは存在している。希望では10年おきに繰り返されている。」 「人々は10年に一度、星VSとブロックVSを新しく選び据え、そこへ向かうように努める。」 「星単位の中に80~100のブロックがあり、それぞれは基本的に自由だ。」 「ブロックには不要ブロックを選ぶピープルセレクションがあり、選ばれれば即解散、他へ吸収 され、分配と成る。その為に星軍隊がある。」 自由「新しいブロックができることは無いのか?」 サイクル 「一つを目指しているので基本的には無いが星VSで選ばれればありうる可能性は残されている。」 自由「お金の格差は?」 サイクル「無い。公平だ。お金はあるが貨幣が無い。同じ量を使う事が出来、教育、医療は制限下で無料 だ。」 「年齢に忚じた金額が毎月送金される仕組みだ。」 自由「文化レベルは?」 サイクル「PC、液晶テレビ、携帯電話、テレビ電話、電気自動車が一般化している。エネルギーは、風力、 水力、地下熱、波、その他の自然エネルギー電力で十分まかなえている。」 自由「ゴミは?」 サイクル「無い。無駄を徹底的に省いている。」 自由「石油は無いのか?」 サイクル「利用はされているが最小限だと言える。」 自由「食は?」 サイクル「配給だ。決まった量が各ゾーンに配られる。」
18
「農家は全量を出す。横流しは無く自分達も配給を受ける。」 「全てがそうだ。」 自由「旅行は?」 サイクル「ある。これも配給でホテルでとる。ホテルに安定な客分がある。」 自由「レジャーは?」 サイクル「そういったものは、すべてはブロックが営む。」 自由「結婚は?」 サイクル「結婚という仕組みは無い。パートナーという仕組みがあり、お前たちの結婚に似ている。生涯 添い遂げるものでも無く、自由にある。」 自由「離婚は?」 サイクル「そこだ。パートナー解消は双方の意思によって成立するが慰謝料の請求は無い。パートナーチ ェンジとなり、14歳未満の子供は女性側が連れて行く。」 「次のパートナーとなる男は、その子供達と一緒に暮らし面倒をみる。」 自由「男の存在は何をもって主張する?」 サイクル「和みだ。和やかな男がもてる。」 「経済力は関係ないが、知性や知性職は信頼も人気もあり、PENSの資格を持っているだけでもも てる。100VSに選ばれ、10VS、ⅢVSなどは星のホープだ。」 自由「もめ事は?」 サイクル「沢山ある。」 自由「土地は?」 サイクル「共有。」 自由「仕事日数は?」 サイクル「場合によって変わるが週に4~5日で、年に2回のバケーションがある。同時では無く順 番に取る。」 自由「自然は?」 サイクル「これが難しい。どこまでが自然と考えるかは、毎回のVSの焦点とも言える。」 自由「個人経営は?」 サイクル「無い。」 自由「不満は?」 サイクル「無い。」 自由「仕事と余暇は?」 サイクル「皆、したい仕事を一日4時間、能力によってする。それ以外は自由で役所、学校、病院全 て4時間だが開いている時間が違う。仕事の無いものには自然を労わる仕事がある。基本 的に開発は無い。ブロックが営む集中施設が沢山あり、中でもスポーツ施設が充実していて、好きなスポーツやボランティアをして過ごす。」 自由「軍隊、警察、法は?」 サイクル「法は非常に厳しく死刑も自殺刑もある。 曖昧な法と詳細な2種類の法で成り立ちVISIONSが適忚されている。
基本的に世の中のすべてはⅢVISIONSによって決まる。政治の力はそれをこなす方向でのみでき、
19
ブロックにも同様なVSがあり、各単位にもある、だから10年に一度の見直しで上から順次やって行く。不要なブロックに選ばれた場合は即刻、分散手続きへ入る。この時の為に星軍隊が存在しているが、普段は実習は無く、求める者のみに2年間の調教がなされる。武器はここのみにあり一般にはピストルなどは無い。核も無くした。」 自由「人口は?」 サイクル「これも星VSと、ブロックVSによって決めている。」 自由「子供達と教育は?」 サイクル「子供達は学校と家を往復する。たとえば3か月の所もあり、1週間、1年、3年というのも ある。基本的に同じ愛情で育てようとしているが、家庭分は自由になっている。」 「教育内容の半分は星単位で、残りの半分はブロックの自由に成っている。システムは3- 6-6制で、そこまでが義務教育で、そこから先は自由だが基本的に3年の職業訓練校が 多い。多くの職を持っていれば移動が出来る。」 「それ以上を学びたいものはブロックの施設へ入り一日4時間働きながら学ぶ。これが知性職で競争率がある。」 自由「SEXは?」 サイクル「これも自由だが、パートナーのあるものは解除しなければ他とSEXできない。パートナー を求め、解除を求めることになるが問題はさほどと言える。」 自由「パートナーの無い男は?」 サイクル「これも自由でそういう宿に進んで働く女性達が居る。」 自由「運用できているか?」 サイクル「まあまあというところかな、分相忚な職かもしれん。2時間だけで良い。お前のような男に 重宝されている。このあたりの問題はどうしようもない。」 自由「犯罪は?」 サイクル「極めて尐ないがある。その都度召集されるので警察はいくらでも居る。その調教は軍と兼ねて いて法が整備されている。」 自由「どれくらいの時間がかかった?」 サイクル「自然淘汰開始から約20年で1回目。今は約200回と言っている。」 自由「自然淘汰は?」 サイクル「激しいものだったそうだ。死者は1/3~1/2程だそうで飢え死にがほとんどだったそうだ。」 自由「課題は?」 サイクル「100VSのニューモデルを考えようとする考えと、このままで良い考えがある。きりがない。」 自由「社会保障は?」 サイクル「年齢によるお金の支給があるので、社会保障はない。」 自由「管理職は?」 サイクル「小単位VSで決めるが、2年が任期となっている所が多い。」 自由「不正は?」 サイクル「何時でも、誰でも追求できるが尐ない。法が厳しい。」 自由「どんな空気だ?」 サイクル「むろん楽園というからには楽しい。何度でも生まれられる。」
20
自由「お前は?」 サイクル「むろんだ。」 自由「その任期は?」 サイクル「さあな。下が決める。わしが嫌になればそう言う。」 自由「長いのか?」 サイクル「いや、お前ほどでは無い。おまえはヒーローとして戻る。次はわしの番だ。お前の真似が したい。」 自由「他の宇宙が見えるのか?」 サイクル「何故か見える。」 自由「どこも同じか?」 サイクル「一つの星が楽園になれば次からは全てそうなる。向こう側の宇宙に希望Ⅰの星の次の星が あり私達は希望Ⅱと呼んでいる。その星に対忚する地球という星がこっち側にあり、向こ う側の希望Ⅱはすでに終わった。」 自由「終わった?」 サイクル「そうだ。希望Ⅰと同じやり方で既に楽園に成った。そして私はマザーへ生まれた。」 自由「PENSはどんな人達だ?」 サイクル「まず、学生とそのグループが多い。次に、大学教授などの知識者だ。30代~40代の一般職PENS が尐ないが、この者達のVISIONは現実的で難しく無く、人々の生活の立場に立ったものが生ま れている。」 自由「その他の人生命の星は?」 サイクル「今、高度な人社会がある生命の星はその4つだ。」 「もうひとつ伝えねばならん事がある。MERIAという女性精神が500年ほど前にお前を助ける為にマザーに生まれた。彼女はあの世での私の娘で、お前の妻だった。彼女は自分の意思で生まれ、おそらく落ちぶれ愛情の執念と化していると思うが出会えば分かると思う。彼女の体はお前の好みのはずだ。知的センスも運動センスも。女としての好みもだ。彼女はおそらくそれを知っている。心当たりは有るか?」 自由「無い。」自由には返す言葉が無かった。 サイクル「私達は生命の星の現実に重きを置く。それがどうだ、私達にとって何だ?」 「お前はそこで自分の未来を考えたのだろう。そしてトンビや蝶が出てきたのだろう。」 「戻ってもまた出る。そのうちに落ちぶれてしまう。」 「最後はどうなればよいのだ。」 「私もお前のように自由になりたい。」 「お前は女達の力を借りる。その力もお前の力と成っている。私は女達の力を求めん。おまえに は愛があり、その温もりもある。」 「お前に比べれば私には何も無い。」 「そしてお前は希望の星の未来を若者達へ渡しマザーへ出た。」 「確かに美しい。だが、やはり落ちぶれた。そして2000年が過ぎ戻ってきた。この事も美しい。」 「お前は自分たちさえ良ければという気持ちを私達に気付かせてくれたヒーローだ。」
21
「そしてお前は戻り、また悩む。」 「自分をそれからどうするかだ。留まればまた精神宇宙が拡大しもとに戻ってしまう。」 「MERIAはお前の愛を受取りそこからどうする?私達などトンビか蝶になって消えれば良いだけ なのか?」 「ならば新しい宇宙でも作るか?」 「MERIAに出会ったら伝えてほしい。お前を愛している。もとに戻ったお前と話がしたい。お前 たちはとにかく戻ってくれ。精神の最後を見せてくれ。おまえは一つの道を示せ、私は別の道 を探してやる。」 「私達にとって娘が戻ることには大きな意味がある。」 「クローンとして生き、人として他の宇宙で生き、そこに美しい未来を置き、戻る。」 「最後まで育ててやってほしい。人としての喜びを体験させてやってほしい。人の素晴らしさを伝えられる女になって戻してほしい。」 自由「それは、話としては聞いておくがお前の夢物語には付き合えない。例え事実だとしても私は過去に支配されることに成る。悪いがごめんだ。」 「宇宙の起源は?」 サイクル「これは、きりの無い話になるが私の知っている限りで話す。物が生まれたのは20~30兆年前だ。」 「初めの一個と名乗る精神から聞いた話に成るが、言葉では無く意思があったそうだ。その意思 が素粒子を集めたいと思ったそうだ。素粒子が集まったり離れたりを繰り返し、ある時渦を巻 き始め最初の素粒子爆発が起きた。なぜかその爆発の度に素粒子が増えたそうだ。そして最初 の物が生まれる爆発が起きた。物も完全な均一では無くどうしてもまた物が集まる所が出来て しまい、そしてまた渦を巻く。その繰り返しだ。こうして物宇宙ができた。」 「双子宇宙には規則性がありほぼ同じ時期に同じ星が生まれる。生命の星が生まれる宇宙爆発が活発に起きているのがこの宇宙だ。この宇宙もいずれビッグバンが起きにくくなるが、その内側に新しい宇宙が同じ活動を繰り返している。」 自由「なぜ今になってこの話をする。」 サイクル「おまえはもう直ぐ100VSを出版する。その助けになればと考えた。おまえは筋道を置く。そし て私はお前の後始末をする。私達はそういうパートナーとして生きてきた。」 「戦争は覚悟しろ。」 自由「無血でやる。ダメならそれまでだ。後はこの星の若者達が決めることだ。」 サイクル「お前らしいが甘いと言える。チャンスは大環境異変前後しかないと言ったのはお前だ。私達は そうやって希望Ⅰで成した。それしか無い。」 自由「もう良い。お前の話は聴いた。」 「未来の為に最善を尽くして生きるのが私の考え方だ。お前の話が事実であったとしても過去の為に生きる気は無い。しかし、正直に言って、面白い話だったし心強いものを感じたことは確かだ。私も瞑想はしたことがあるが、こんな面白い話をしたのはお前が初めてだ。その時が来たらお前の実力を見せてもらうよ。お前の事はそれからだ。」 サイクル「言われるまでも無い。まずはお前からの信頼を現実の行為で得る。そして楽園を実現する。そ の為に生まれてきた。分からん事があったら何なりと聞いてくれ。わしの事もよろしく頼む。」
22
自由「私こそ、よろしく頼む。」 「最後に一つ聞きたい。私は何の為に生まれたと思う。」 サイクル「お前には人の可能性を信じようとするところがあった。おそらくこの星でその可能性を証明し ようとしたのだと思っている。」 その夜、自由は何時ものガーデンチェアーに座し、背筋を伸ばしタバコを大きく吸い込んで細長く 下に吹き出す事を繰り返したが、頭の中は収まるどころか渦を巻き始めた。 自由「ローレル。ちょっと来い!」 ローレル「どうした。怖い顔をして。」 自由「何か知っているのか?」 ローレル「何をだ?」 自由「サイクルのことだ。」 ローレル「何のことだ?どうした?」 自由「私の過去だ。」 ローレル「・・・無理もない。毎日現実離れした未来のことばかり考え続けてきたら混乱しているんだろ う。尐し休んで旅でもしてきたらどうだ。LIANでも誘ってみたらどうだ。きっと喜ぶと思うぞ。 お酒を尐し飲んでみるか?」 「実は・・内緒にしていたけど、お隣からもらった良いワインがあるぞ!」 自由「・・・そうだな。」自由の頭の中で同時に3つの思考が動くのが分かったがコントロールができず狂うと思った。ローレルが冷えたワインを持ってきて自由はワインをグラスに一杯飲んだ。酒を全く飲まない自由には十分な量で、頭の中の思考が緩み始めるのが分かった。自由は助かったと思った。自由は時間をかけて現実で行こうと自分に言い聞かせた。 ローレル「自由!起きろ!朝だ!!」自由は股間と肛門を押さえ横を向いた。 サイクルとの話で100VSのアイデアの自信が持ち切れなかった部分に自信と確信が持てるようには成った。しかし本は全く書けなかった。自由にもローレルにも他にしたい事も無かったし、自由はクローン養成学校を辞職し100VSの執筆に専念した。それから3年で「100VISIONSマザーの未来」が完成し、本は自由とローレルが食べて行ける程度には売れた。自由は45歳になっていた。 自由はやるべきことはやった、何時死んでも良いと思った。何時ものガーデンチェアーで胸の透く煙草を吸った。肌寒さが心地よい月夜だった。 LIAN「おめでとう!終に出版できたのね。座っても良い?」 自由「どうぞ。」 LIAN「尐し寒いな。そっちへ行って良い?」 自由「どうぞ。」LIANは自由に寄り添うと焦点の合わない自由の顔を眺めた。自由は自分の肌掛けを右手でライアンに掛けた。 LIAN「お願いがあるの。」 自由「うん、今日は何でも聞いてやれる気がする。」 LIAN「抱いて欲しいの。」 自由「それは迷惑だ。」
23
LIAN「私は真剣よ。」 自由「子供にしか見えんよ。」 LIAN「私はもう20歳よ。十分大人だわ。」 自由「ただのさかりの付いた猫だよ。」 LIAN「私はあなたの為にバージンを守って来たのよ。この年までバージンをキープするのは結構大変 なんだから。」 自由「それはお前の勝手だ。私は45だ。お前の恋の対象じゃない。性欲は他で処理してくれ。」 LIAN「恋に年齢は関係ないわ。あなたには性欲は無いの。」 自由「そりゃあ有るさ。」 LIAN「それだけでも良いから、バージンが重いの。今晩だけで良いから。」 自由「私にとってお前は若くて魅力的で、お前を愛してしまったら、マザーの未来とお前が天秤に乗ってしまう。」 LIAN「あなたはマザーの未来の為なら何でも犠牲にして来たわ。でも人が出来る範囲の最善を尽くせ ば十分じゃないの。あなたも人でしょ。私も人なの。」 自由「何とでも言うな・・」 LIAN「何とでも言うわよ。私だってあなたを支えてきたんだから・・」 自由「う~ん。そう来るか・・・しかしROBの顔が目に浮かぶ。」 LIAN「目をつむってすれば良い。」 自由「・・・それは良いアイデアだな!最後だからな。」 LIAN「ホントに!やったー!」LIANは左手を自由の首にまわし力いっぱい自由にしがみついた。 ローレル「起きろ!!紳士の決闘だ!刀を取れ!」ローレルは寝ている自由に短い箒を投げ付け、いきなり長い箒で自由の顔をコツンと叩いた。自由は短い箒を手に取りドアまで逃げ、後ろからの攻撃に備え短い箒を頭の上に横に構えた。 ローレルはニコッと笑い自由の左手をピシッと一撃した。 自由はたまらず庭まで逃げ、振り向き構えた。 自由「汝は何故に私との決闘を望む?」 ローレル「えーい。自分の胸に聞け!」ローレルは自由の頭めがけて箒を振り下ろし、自由はそれを頭の上で箒を横にし受け止め。 自由「お主、なかなかやるな。」自由はローレルの箒の先を左手で掴み、右手の箒でローレルの向う脛をコツンとやった。 ローレルたまらず脛をなでながら、 ローレル「お主も、なかなか・・」ローレルは油断を誘い、自由の足元に一撃、自由はひらりと舞い上がり降りたところにローレルがまた、足元めがけて一撃。 自由「まいった!」 ローレル「チョロイものよ・・」 隣からメリーが騒ぎに駆け付けた。 MERY「何してるの!」 ローレル「決闘・・いやいや武術の練習を・・」
24
自由「隙あり!」自由はローレルの後ろからローレルの頭めがけて箒を構えた。ローレルは頭の上に箒を横に構えた。自由はにやりと笑ってローレルの左手をコツン。 ローレル「あうっつ!」自由は何事も無かったかのように箒を置きトイレへ行った。 MERY「まあ、自由様は後ろから卑怯だわ!」 「あら、血が出てる。」 MERYはローレルにばんそうこうを持って来てローレルのおでこと脛に張った。 MERY「お姉ちゃんを奪い合ってるんでしょ?」 ローレル「冗談だよ。僕はクローンだから人を好きになることは無いんだよ。」 MERY「私はローレルが好き。」 ローレル「・・・」 MERYは18歳の美しい娘で、その娘はうつむき加減で頬を尐し赤らめていた。
マザー連合
「100VISIONSマザーの未来」が出版されて3年程が過ぎ世界から未来VIJIONが20程集まった頃、自由はマザー政府内の100VSチームで活動を続けることになった。マザー政府からは、ローレルも一緒にという申し出だった。ローレルはMERYが大学を卒業するまでは今のままを望んだ為に、自由だけがマザー政府のお世話になる事になった。 マザー政府はナイトビジネスの取り締まりに実質的な限界を感じていて、人々のマザー政府への信用が形骸化し世界的な統率力をなくそうとしていた。そんな時、100VISIONS が若者達の関心を引いていることをマザー連合総長にアピールし、利用してみたらどうだと進めた男がいた。サイクルだった。サイクルは連合総長の秘書に成っていた。 自由が総長に案内されたところは大部屋の隅っこの狭い空間で、5つのデスクと会議用丸テーブル、事務機、自由が注文していた上下2段に分かれた大きなホワイトボードと、そして二人のベテランの職員が居た。男性職員のSHINと女性のMERISAは共に連合大学出のエリートでSHINは身長が185程でスポーツもしているらしく、がっちりした体形で口数が尐なく沈着冷静なタイプに見えた。MERISAは赤の鋭い感じの眼鏡を掛けていて、見るからに切れ者事務員という感じがしたが、共にこの新しい課へ志願したということだった。挨拶が終わり総長は分からない事は何でも二人に尋ねると良いと言い残し退席した。デスクは5つだから後二人は自由が選ぶのかと思っていると総長が後ろにサイクルを連れて戻って来た。 総長「クローン養成学校を首席で卒業したサイクルだ。優秀なので私の秘書にしていたがどうしてもと言うので私が手放すことにした。頼りになるぞ。そしてもう一人、今年連合大学を首席で卒業した・・」 サイクルの背後から若い女性が飛び出した。「ジャーン!LIANでーす!」何とLIANが現れ自由はあっけにとられてLIANの顔を見直した。 総長「彼女もここを志願して来たので、知り合いだという事もあってお前が動きやすいだろうと思い私が任命した。どうだ都合が悪かったか?」 自由「ありがとうございます。最強メンバーだと思います。」 総長「さあ、自由にやってくれ。期待している。それから、今晩私に尐し付きあってくれるか?」 自由「分かりました。5時頃連絡します。」 自由は嬉しかった。全てが嬉しかった。支えてくれる仲間が居ることが嬉しかった。諦めずに続け
25
てきて良かったと思った。自分の願いは十分叶った、後は若者達がやれば良いと思った。 自由がふと横を見ると、SHINとサイクルが胸を張り合わせて自由の右サイドの椅子を取り合う姿勢を見せていた。そして自由の後ろではMERISAとLIANがそれに刺激されたのか、同様に胸を張り合わせて自由の左側の椅子を奪い合っていた。自由はSHINとMERISAを隣に座らせた。 自由「早速だが仕事を割り振る。ここに今日までに集まったVISIONSがあるので、MERISAとLIANはマザー語に翻訳し、互いにチェックしてくれ。それが終わったら100VISIONSの選考基準と選考方法を二人で話し合い、会議資料として提出してくれ。もう一つ、それぞれが100VSのコマーシャルを考えて同様に会議資料として提出してほしい。」 「SHINとサイクルはそれぞれが工程表を作ってみてくれ。最初のミーティングは来週の今日という事で始めよう。それから来年ローレルという小さいのがこのチームに来ることになると思う。今日まで一緒に100VSを進めてきた私のパートナーだ。以上だ。」 SHIN「工程表とはどのようなものでしょうか?」 自由「とりあえず、何の制約も無しに工程表を考え始めてみてほしい。私達は何の為にここに居て、どこに向かおうとしているのか?そのゴールとは何なのか?その為には今何をすればよいのか?どんな作業が必要なのか?誰の協力が必要なのか?どれぐらいの時間と作業量と作業種があるのか?そんなことから考え始めてミーティングで、的を絞って行こうと考えている。 工程表はこのホワイトボード2枚にそれぞれの考え方をまとめてほしい。PCでは無く、絶えず皆の眼にさらし、何度も書き替えながら時間をかけて完成させ、このフロアの壁に掛け上げ、全ての職員の目に留まるようにしたい。「100VISIONチーム」がこの部署で何をしようとしているのか、そして現在どこまで進んでいるのかが一目で全職員に分かるものが良いと考えている。そしてその後も修正や変更を加えることが出来るものがBESTだと考えている。」 「それともうひとつ。これは今すぐでは無いが、私は100VSに着いてこう考えるという君達の考え方や要望を私に話せるように準備しておくように。以上だ。」 一週間後、初のミーティングが行われ、女性陣は翻訳も選考基準もコマーシャルのバラエティーなアイデアも面白く良いムードが生まれる気配があった。SHINとサイクルの工程表はMERISAとLIANに質問されただけであっさりと答弁できなくなる始末で、工程表に関しては毎週のミーティング課題となり、それ以後SHINとサイクルが話し合う場面が多くみられるようになり二人の信頼関係が築かれていった。 その夜 LIAN「月が綺麗だわ。あんな穢れの無い女になりたい。私はあなたと、あなたの夢を支えられる女に 成るわ。成ってみせる。だから今日は抱いて!」 自由「そう来ると思ったよ。前も言ったけど私はマザーの未来を愛している。」 LIAN「馴れ馴れしくするつもりは無いよ。私はまだ何もできないし、これから自分を育てる。だから、 そのけじめが欲しいの。」 自由「何とでも言うな。どうしても僕じゃないといけないのか?」 LIAN「どうして他の男じゃないといけないの?」 自由「お前は25歳年下の部下だ。スキャンダルだよ。」
26
LIAN「誰にも知れないわ。」 自由「家族には分かるよ。誰にも絶対に知れない手があるものなら、そうしたいと思うよ。ただ、それが嫌なんだ。私達は悪いことをするわけでは無い。何故、隠れてしなければならない。」 「要するに私達にはそういう無理があるんだよ。それが年齢差というものだ。もうひとつある。世間は私が超有名人なら許すかもしれない。そして君が本当にその能力と実績があれば許すかもしれない。その両方とも私達には無い。これが現実と言うもので現実は人々の価値感が作っている。正しいとか間違っているとかじゃない。無理があり、しない方が良いと思えることをしてしまうのが若さで、私にはそういう若さは、もう無い。君が25歳になっても気持ちが変わらなければ、そしてその時に君にそれだけの力があれば、僕からお願いするよ。」 LIAN「分かったわ。でも今夜はあなたのベッドで休むの。それをけじめにするから。」 自由「・・・」 一年後MERYとローレルが100VSチームに配属されて来た。ちょうどそのころ工程表から全てのブロックの理解と協力の取り付けと、 世界の軍隊を一つにまとめるという不可能と思える作業が必要な事が浮かび上がって来た。各ブロックへの理解と協力を求める挨拶回りをSHINが、そして軍隊をまとめる作業をサイクル が担当し、互いに協調し同時に進める計画を作り上げた。 そしてSHINとLIANは140ブロックをカードマネー実現まで廻り続ける計画を作り出張が始まり、サイクルは名前だけのマザー連合軍へ移籍していった。 コマーシャルが当たり、順調に100VSが集まり始めた。そして「100VISIONS」が出版され、100VSチームのデスク数は5~50へ増え、自由は50歳に、LIANは25歳になっていた。 LIANが20歳の夜に着ていた同じ白い寝間着で自由の部屋に現れ、自由のベッドへ潜り込んだ。 LIAN「25歳になったわ。」 自由「こんなおじさんに惚れるとは、お前も男運が悪い。しかし今晩が最後だ。それで良いんだな。」 LIAN「努力する。」 「あなたは私とSINをパートナーにしようと考えているけど、それは大きなお世話よ。」 「私の人生は私が決めるもので貴方のものじゃないのよ。」
ROBとLEO
風の無い休日、自由とローレルとLIANとMARYは麦わら帽子をかぶり、首にタオルを巻いて自由の家の家庭菜園で過ごした。自由が野菜の虫をLIANの首筋に付け、LIANはキャーキャーと声を上げ菜園を踏み荒らして逃げ回り、その隣のテラスでROBとLEOがお茶を飲んでいた。 ROB「私は孫の顔を見ることが出来んのか?」 LEO「その代りマザーの美しい未来を見ることができるわ。」 ROB「その頃には死んどる。」 LEO「これから生まれてくる全ての子供達は喜ぶわ。」 ROB「あの子たちの為に必死で働いて、どんな学費でも支払ってきた。みんなあの子たちの為にだ。」 LEO「女はね、それがどんな形だろうと好きな人と一緒に生きて行きたいと思う生き物なの。」 ROB「私の孫を抱きたいという気持ちは間違ってはいないと思う。自然な願いだ。」
27
LEO「その代わり、あの子たちが幸せに暮らせるわ。私達もマザーの未来を願い、彼女たちを支えるべきだわ。私はそれで十分幸せ。あなたとあの子たちの為に生きてこられた。あの4人は昼も夜もマザーの未来を考え、未来の子供達の為に美しい自然環境を回復させようと努力してる。そして、これからもそう働くと思うの。私達は私達の為に働いた。あの子たちはマザーの未来の為に働いてる。それが間違ってる?」 ROB「間違ってるもんか。本当に美しい娘たちだと思っている。私ではあんな美しい娘たちを育てることはできなかった。感謝はしてるし頭では理解している。しかし孫が抱きたい。自由は子供を欲しがっていない。そしてローレルは良いやつだよ。頭も良い。気立ても良い。しかし人間じゃない!」 LEO「あなたはそう言いながら今日まであの子たちを自由にさせたわ。あなたはあの子たちを信じてる。 そして、あなたは理解しようとして苦しんでる。私はそんな貴方が好き。」 ROB「自由が私と同じ年だから私に遠慮している。娘さんを下さいと頭を下げてこん。」 LEO「私達があと20年支え続けたら、あの子たちはマザーを楽園にするのよ。楽しくない?私はそん な未来を想像するのよ。希望に輝いているわ!」 ROB「お前は女だから。私も頭では分かってはいるんだよ、私もお前と一緒にあいつらを支えて行くんだと。孫の顔も見せてもらわずにだ!」 LEO「そうね・・」LEOは笑いながら言った。 その年の冬、LEOがインフルエンザに感染した。この頃のマザーでは度々新種のインフルエンザが流行した。普通は低所得者層には免疫があるために感染しないのだが、ここ数年LEOは外出することも尐なくなり窓を閉め切ってエアークリーナーの中で生活していた。そして家庭菜園を耕さなくなり綺麗な野菜や肉を食べていて、免疫力が低下していたのだろうという診断だった。LEOは直ぐに闇マーケットの最新ワクチンや最高治療を受け、事無きを得ると思われた。2日後、症状が悪化し入院することになった。入院して二日目の夜中に病院から電話がありROBとLIANとMERYは病院へ行った。明け方LIANから自由に電話があり、自由とローレルは病院へ急いだ。病室のドアの前で女性の泣き声が聞こえ、自由はローレルと顔を見合わせドアを開けると、ベッドに横たわるLEOにLIANとMERYが覆い被さって泣いていてROBはその側で立ったまま鼻水を垂らしていた。LIANは自由に気付くと、飛び付きしがみ付いて泣いた。 医者が全員の検査を今直ぐにした方が良いという事で全員が検査を受けたが、検査結果は全員免疫力が高く問題は無かった。このインフルエンザは流行し始めてから変質したらしくワクチンが効かなかったタイミングに感染したお金持ちたちを中心に死者が多数出た。直ぐに闇世界で新しいワクチンが開発され御金持達は先を争い買いあさった為に世界中で超高額な値段が付く事となり、闇のインフルエンザビジネスが更に勢いを増す結果となった。 ROBは周囲の反対を押し切りLEOのお墓をガーデンに置き、テラスの窓を出来る限り開け放して生活する様に成った。ナイトビジネスを縮小し、家庭菜園で野菜を作る時間が増え、ローレルが100VSチームを辞職し、ROB家の主婦になった。
この事件がきっかけに成り食材について抵抗力や免疫力の上がるものがテレビで連日放送され、健康意識だけが異常に高まった。野菜は美しいものより路地で無農薬で栽培され、過酷な環境で育った物の方が栄養価と免疫力が高くベターだと分かり、御金持達は路地野菜と最新のワクチンと最新のエアークリーナーを闇マーケットに求め、物価が更に上がった。インフルエンザ以外にも新種の病気が発生し世界的に流行することは今や茶飯事で、食と健康をライフスタイルから見直そうとする考え方が社会的に広まり、結
28
果として環境意識が高まり100VISIONSにとっては追い風と成った。
ピープルセレクション&10VISIONS
創造1998年、ピープルセレクションが実施され10VISIONSが選出され出版されたが自由は安心してはいなかった。むしろ不安の中に居た。 ローレルは隣で過ごすことが多くなり、自由はLIANとガーデンで過ごすことが多くなっていた。LIANは29歳、MERYは27歳になった。 ローレル「いい夜だね。」 自由「ああ。」 ローレル「終に10VISIONSまで来たね。」 自由「ああ。」 ローレル「もうちょっとだね。何か用事はあるかな?」 自由「いや、今のところ無い。」 ローレル「隣に行って来て良いかな?」 自由「ああ、ローレル。NERYは良い娘だ。家族を持って子供を育てることが出来る。」 ローレル「分かってる。」 ローレルは庭にできてしまった通路を通って隣へ消え、その通路からLIANが肩に白いショールを掛け現れた。 LIAN「座っても良い?」 自由「ああ。」 LIAN「ねえ、SHINと二人でブロックを回るの、止めさせてほしいの・・」 自由「・・・」 LIAN「SHINにプロポーズされているの。他の人に代えてもらえないかな・・」 「お父さんは孫を欲しがっているわ。」 自由「私とお前がパートナーを組むことは無い。」 LIAN「お父さんは私とあなたのことを認めているわ。」 自由「同じことだ。子供は欲しくない。死ぬことが怖く成る。」 LIAN「あのね、私はまだ子供だわ。でもね。あなたのことを好きなの。何の問題も無いわ。むしろ貴 方が怖がり過ぎてる。愛し合う二人に歳の差は関係ないわ。」 自由「具体的に考えてみてごらん。マザーⅢVISIONSが選ばれ社会がその方向へ動き出したとする。反対する者達と戦争に成る可能性が高い。その相手に私達のスキャンダルをわざわざ与えるのか?もし私達のスキャンダルが原因で100VSが水の泡になったら、お前はどうする。」 LIAN「じゃあ、あなたの言うとおりに私がSHINとパートナーを契約したとするわ。反対する相手にと って、これだってスキャンダルの種に出来るのよ。ましてや私はあなたを愛していたとなれば、 スキャンダルは膨らむわ。」 自由「そうだとしてもまだ若い。後1年、30になってもお前の気持が変わらなければその時に考える。」 LIAN「何故30歳にこだわるの?」
自由「生まれた赤ん坊に覚えるなと言っても赤ん坊は周りの全てを覚え吸収しようとする。そして誰でも
29
死ぬ前は覚えようとしても何も覚えられない。その中間が30歳と言える。人は30歳を過ぎると拒否が始まり固まって行く。30歳は吸収と拒否のバランスが良い時期で、お前に冷静に判断してほしいからだよ。」 LIAN「分かったわ。どうせ後1年だわ。私は変わらないからね。でもブロック回りは外して。」 自由「SHINは今やマザーVISIONの顔で、外すことはできん。SHINを支えながらマザーVISIONの顔として回れるのは、君以外ではMERYしかいないだろうな。」 LIAN「ローレルとの間に距離を置かせるの?」 自由「MERYとローレルのことは、できれば忚援してやりたい。二人は純真で何の罪もない。でも、こればかりはどうしようも無い。違う動物だから。」 「私はお前とパートナーを組んだとしても子供は作らない。MERYには子供を産んでほしい。」 LIAN「どういうこと?もう不能になっちゃったの?まあ大変。じゃあさっそく頑張らないと!」 自由「お前は、その事しか考えないのか?」 LIAN「お言葉ですけど、私は人生で3回しかSEXをしたことが無いんですよ。それも下手くそな。」 自由「下手・・・」 LIAN「大丈夫、私がキープしてみせるから。さあ、頑張らなくっちゃ!」
MARY&ローレル
MERYとSHINのブロック回りが始まり、数か月が過ぎたある日。 MERY「ローレル。ちょっとお話があるの。」 ローレル「うん。なんだい。」 MERY「あのね。昨日ね、SHINから10VSの本をもらって、マザーの自然環境を回復させるのを手伝ってほしいと言われた。でも迷っているの。」 ローレル「プロポーズされたんだ、おめでとう。君はそのプロポーズを受けるべきだよ。」 MERY「あなたは、それで良いの?」 ローレル「祝福するよ。君には幸せになって欲しい。」 「人には恋がある。とても厄介でとても魅力的なものだよ。でもホルモンの分泌が背後にある性的な遺伝子的な作用でもある。長続きはしない。そして人には尊敬と信頼と感謝から生まれる意思の愛があり、労わり合う関係というものがある。僕にとっても自由にとっても君にとっても、これから生まれてくる全ての子供達にとって自然環境が回復していることが最大の幸せと言える。僕たちクローンもその犠牲になって来た。クローンの居ない美しい社会を作って欲しい。」 MARY「あなたへの私の思いは時の感情じゃないのよ。もう10年以上たっているのよ。信頼と感謝 だと思う。あなたには私への労わりがあるわ。それでも駄目なの?」 ローレル「残念だけど、だめだ。」 「僕と自由が自分と戦い続けてきたのは、現実の具体的な未来の仕組みを作るためなんだよ。人々 がその仕組みを自分たちで作り、そこに自らを納めようとする努力からしか楽園は生まれないん だ。」
「その仕組みに納まるように努める時に程度の差こそあれ誰にも自己犠牲は伴う。僕達のような立場にあるものは、なおさら自分の立場を主張するべきでは無いんだよ。僕達にあるのは現実の楽園を作った時にある達成感だけなんだよ。悪いけど僕は君にも同じ犠牲を求める。その時僕達は離れて
30
いても同じ道を歩き、同じ喜びを分かち合える。」 MARY「じゃあ、お姉ちゃんと自由様はいいの?」 ローレル「二人の問題は年齢差だけだよ。大した問題とは言えない。」 「僕は人じゃないだろ。」 MARY「分かるように説明して、納得できなければプロポーズは受けられないわ。理屈なら私も分かっ ているつもり。中途半端な気持ちでSHINを支え続けることはできない。これからもあなたはこ の家に居るんだから、これからも会うのよ。クローンを愛しちゃいけないの?」 ローレル「僕だって君を愛している。クローンだって愛する感情を持とうと思えば持てるよ。独占欲だっ て、持とうと思えば支配欲だって。悲しむことも、恨むこともできる。」 「生命とは宇宙環境が自然に作るもので人の都合で作るものじゃない。作ろうと思えばどんな生命でもいくらでも作れる。その影響は必ず無理と成って現れる。自然とは無理の無いものなんだよ。」 「人は自分達の言いなりになって作業してくれる高等知能生物が欲しかった。だからクローンを作った。僕達の気持など全く考えてはいない。僕たちは自然を無視した人の欲望が生んだ奴隷と言える。僕たちクローンは人より優れていると思っている。そして言葉だけで人に生まれようとしない神々など無いに等しいと思っている。その両方が僕たちを利用している。稀にクローンに生まれる偉大な宇宙精神が居る。それは目的の為に最大許されてはいるが、筋を通すならクローンを利用せずに人へ生まれるべきだ。自由はそういう精神なんだよ。僕はあいつの為に生きようと決めたんだよ。」 MERY「それと私があなたを愛していることとは別問題だと思うわ。」 「なぜクローンを愛しちゃいけないの?」 ローレル「僕も君とパートナーを組み安らかな生を送りたいという気持ちがある。その気になれば僕は僕 と君の子供を作ることができる。人がクローンを作って良いのなら、クローンが人を作って何 が悪い。」 「でもそれはしてはいけない事なんだよ。人はクローンの研究段階で沢山のクローンを生産し、失敗作を始末して来た。その中に、人に恨みを持つクローン精神が生産され、それが宇宙の歴史と共に宇宙に蓄積している。」 「実は僕はそういうクローン精神だった。そして自由に悪意目的で近づいた。そして、人への恨みを晴らしたところでクローンの宇宙の根柢の問題の解決にはならない事を教えられた。あいつはクローンが生産されない社会を目指しているんだよ。君はSHINと力を合わせクローンの居ない、自然環境の豊かな楽園を作って欲しい。分かって欲しい。感情の後始末じゃ未来は作れない。未来を作れるのは人の意思なんだよ。」 「君を心から愛している。」ローレルはたまらず涙を浮かべた。 メリー「・・・」 メリーはSHINのプロポーズを受けた。
創造1999年、ⅢVIIONS選出
MERYとSHINが結婚した翌年の、創造1999年にⅢVISIONSを選ぶピープルセレクションが行われた。投票は8月7日に締め切られた。ALOHAが世界一周の旅に出てから25年、自由55歳の年、終に「ⅢVISIONS」が誕生した。同年、MERYとSHINの間に男の子が生まれ、ROBに「HOPE」と名付けられた。100VISIONチームのデスク数は100に成った。
31
LIAN30歳の誕生日
LIAN「おはよ~! 良い朝ね!今日は何の日か知ってる?」と言いながら何時もの庭の通路からやって来た。 自由「日曜日だ。」 LIAN「SEXが下手なだけじゃけじゃ無いのね。いやになりそう。」LIANはガーデンチェアーに寝ころび何時もの休日の朝を過ごしている自由の側に不機嫌な顔で腕を組んで立ったが、直ぐに穏やかな顔に戻り周りを見回した。 LIAN「何時もより庭がきれいに掃除してない?掃除したの?みんなも居ないわ、何かあるの?」 自由「さあ。」 LIANも何時もの席に寝ころんで何時もの休日の朝になった。 自由はLIANを無視するように黙って起き上がり家に入り冷蔵庫から何かを持ってきた。 自由「LIAN立って。」 LIAN「なに?」 LIANは立ちあがって自由の方を向いた。自由は後ろからサンクスギビングのダブルのレイを出しLIANの首に掛けた。 自由「私のパートナーに成って頂けますか?」 LIAN「えっつ!ほんとに?」 「やったー!30歳の誕生日!最高!」LIANの目が一気にうるんだ。 「覚悟はできてるよ。私があなたの面倒をみてあげる!」LIANは自由の首に抱きついた。 自由「お前は男運が悪い。こんな男に惚れた。私は自分の残りの人生をカードマネー社会の発足の為に働かせよう思う。私の寿命は短いかもしれん。それでも良いんだな?」 LIAN「今日一日だけでも良いよ。私にできることは何でもする。その代わりマザーを楽園にして。」 二人は口づけをし、自由はLIANを抱き上げ振り回した。家の中からROBとローレルとMERYとSHINが同じサンクスギビングのレイを首に掛けてブーケとシャンパンとフルーツを持って「おめでとう!」と言いながら出て来た。 MERY「お姉さんおめでとう!」MERYは1歳になったばかりのHOPEを胸に抱きHOPEの手からサンクスギビングのブーケを手渡した。 ROB「元気な子供をいっぱい産んでくれ!!」ROBはオードブルのプレートを持ったままそう言いLIANの頬にキスをした。 ローレル「LIANおめでとう!こんな男の何処が良いのかね!」 SHIN「LIANおめでとう!お幸せに。」 LIAN「みんなありがとう!」 自由「明日、ナチュラルビーチへ新婚旅行に行く。お前の休暇届けはすでに出してある。」 LIAN「やったー!30歳の誕生日最高!」
ナチュラルビーチ
翌日二人はナチュラルビーチへ向かった。ここは新婚旅行で行きたい所NO1に選ばれたところで、マザー政府唯一の直営のリゾートだ。ナチュラルビーチは世界で最も自然が残っていたビーチを徹底的に保護し、サンゴを移植し海には天然の熱帯魚が泳いでいる政府自慢の一品である。
32
宿泊費は高額で庶民は新婚旅行くらいでしか来ることができない所だ。ナイトビジネスの利益をこんな形で回収し自然環境回復費に充てようという狙いが大当たりして、金持ちたちの一大リゾートと成っていた。マザー政府の世界的な信頼が形骸化していた中、このナチュラルビーチリゾートの大ヒットと100VISIONチームの活躍により、マザー政府への信頼は多尐は回復し、未来への期待感も尐しは高まって来ていた。今やマザー政府も人々のご機嫌取りでも何でもしなければならないところまで追い詰められていた現れでもあった。 ビーチに着いたのはすでに夕方近くでビーチで遊んでいた人はすでに海から上がって夕暮れを待つ感じになっていた。適度な風があり二人は夕日までの1時間だけでもと直ぐにカイトの準備をして海へ出た。太陽がビーチ前まで足を延ばしている中、誰も居ない海に出た二人はちょっとしたショーを出演するかの様な背景で二人同時にサーフボードトリックを数回やって見せた。 それを眺めていたビーチのカップルの中に自由の知り合いが居た。 REEN「気持ち良さそう!私ももっとカイト練習したいなー。あの女性もサーフボードであんな事が出来るなんて長いことやってるんでしょうね。」 YAN「彼が自由様だよ。」 REEN「ええ!自由様って、100VSの?知り合いだったの?」 YAN「ああ、カイトボーディングの世界大会で何度か会った。」 REEN「そうなんだ。あの人が。紹介して、お願い!」 YAN「邪魔しない方が良いと思うよ。それにしてもあんな若い女性と二人でここへ来るとは僕も意外だ よ。」 REEN「どういう関係?」 YAN「彼の仕事のパートナーはクローンのはずだよ。子どもでは無さそうだし、奥さんでも無いだろう。」 REEN「お話がしたいな・・。」 太陽が海に隠れガス灯の火が目に留る時間になって二人は海から上がってきた。LIANのカイトが着地した後、LIANが自由に口づけを求める仕草をし、自由はサーフボードを左脇に抱えたまま軽くキスをした。 REEN「キャー!素敵。私もあんな風にして欲しい。」 YAN「望むところだ。」 REEN「・・・」 その夜、自由とライアンはビーチサイドのヤシの木の下のビーチチェアーに寝そべって、お酒が飲めない自由がアルコール入りのトロピカルドリンクを注文した。 LIAN「大丈夫?」 自由「飲んでみないと分かりません。一生ここに居たいよ。」 LIAN「できれば私もそうしていたいけど、そんなあなたを好きでいられるかなー?」 自由「なるほど・・。僕は苦しんでいれば良い訳か・・。」 LIAN「苦しまなくても良いわよ。楽園にしてくれれば。」 自由「何度も言うけど、楽園を作るのは君たちなんだよ。」 LIAN「はいはい。」
33
自由「はいは、一回。」 LIAN「はいはい。」「はい。」 自由「先に言っておきますが、今日はできないと思いますよ。」 LIAN「はいはい。」 二人の足元の真っ白なビーチに、くっきりと映し出されたヤシの葉の月影が、穏やかな波と波音に繰り返し消されている。 自由が心地よい疲労感に沈み込もうとした時、二十歳くらいの薄化粧で素直な顔立ちをしたスタイルの良い女性が腰を低くして二人に話しかけてきた。」
REEN
REEN「こんな時に申し訳ないのですが、自由様でしょうか?」 自由「どなたですか?」 REEN「REENと申します。YANの友達です。」 自由「YANが来てるの?」 REEN「あそこのバーに。」自由は頭を持ち上げその方向を見て右手を軽く上げた。YANは手を上げ返したがこっちへ来る様子はなかった。」 REEN「お邪魔しない方が良いと言われたのですが、私達は明日の夕方までに仕事に戻らなければな らなりません。尐しでもお話ができればと思い、図々しくしてしまいました。ご本は全て10回 以上読ませていただきました。読む度に自分が綺麗に成る気がして。」 自由「そうですか、若いのに変わった方ですね。後5分もしたら夢の中でしたよ。どんな話が聞きたいのかな?」自由は軽く酔ってからかい半分に尋ねた。 REEN「私は宇宙のくだりが好きです。」 自由の足の指先から脳天に向かって冷たい恐怖が走り、自由は本能的にLIANに気付かれまいと、そ の仕草を隠そうとしたがLIANは自由の動揺に気付いた。 LIAN「あなたのお友達が退屈そうだけど、私がお相手して来て良いかしら?」 REEN「はい。ありがとうございます。お願いします。」 LIANは笑顔で立ちあがりYANの方へ歩いて行った。REENはLIANのビーチチェアーに自由の方を向 いて腰を下ろした。自由は疑いながら警戒しながら平静を装おうと努めた。 自由「YANとはどういう関係ですか?」 REEN「仕事の同僚です。」 自由「どんなお仕事ですか?YANは職業軍人だと聞いていますが。」 REEN「詳しくお話しすることができないのですが、ボスが同じです。」 自由「話が出来ないのなら、私もお話しすることはありませんよ。」 REEN「自由様にお目にかかれて、こうしてお話が出来ることは嬉しいのですが、全てをお話しすると軽蔑されてしまいます。私は綺麗な女ではありません。あそこに背の低い足の悪い男性がいますが、彼は私とYANを見張るためにあそこに居ます。彼も仕事仲間です。」 自由「何だかややこしそうですね。私は立場上、あまりややこしい方とお付き合いすることが怖いのですが大丈夫でしょうか?」
34
REEN「それも分かりません。」REENは今しか話す時が無いと思った。 「実は私は捨て子で、ストリート娼婦でした。14歳の時に今のボスに拾われ現在は大学へ行かせてもらっています。そして、そのボスの女です。私はボスに感謝しています。そして、YANも、あそこに居る足の悪いRONという男性も同じ境遇です。私達は3人でボスを支えられるように努めています。ボスは大金持ちたちの軍隊を率いています。」 自由「そうだったんですか。正直に申し上げます。どんな理由があろうとも私は大金持達の職業軍人が大嫌いです。分かって頂けるでしょうか?」 REEN「もちろん承知していますが、私達のBOSSは悪い人ではありません。BOSSは孤児院を自費運営しています。現在も50人以上の私達と同じ境遇の子供たちを養っています。決して悪い人ではありません。」 自由「聞けば聞くほど妙なお話ですね。YANとは何度か会って話をしましたが一度もそんな話を聞いたことがありませんでした。しかし彼は職業軍人でなければ素晴らしい青年ですね。付き合うならば彼の方が。」 REEN「はい、それも分かっていますが、いろいろあって彼と付き合う事が出来ません。こうして彼と ここへ来てカイトをしている時が一番幸せです。」 自由「あれあれ、聞けば聞くほど分からなくなってくる人ですね。ところで、どうして100VSに興味があるのですか?」 REEN「はい、捨て子の居ない楽園を作りたいのです。私達の様に苦しみ、恐ろしい体験を過去に持って育ち、生きて行かねばならない子供達のいない星に成ってくれれば、私は何でもします。本当です、命も体もどうなってもかまいません。私達のBOSSはお金の力を使ってそういう楽園を作ろうと考え、お金の為に軍人をしながら孤児院も運営しています。尊敬するところも沢山ある大きな人です。そしてBOSSも捨て子です。」 自由「目が覚めてしまいました。寝そべって聴く話ではなさそうですね。」 自由は置き上がりREENと対坐し、背筋を伸ばして見せた。 自由「良いでしょう。宇宙のお話を尐しだけさせていただきます。そうですね・・」 「誰も、宇宙と自分からは逃れられません。そして、宇宙に完璧は無く、完璧な精神などいません。ですから、どんな精神も自分の苦しみから逃れることはできません。」 「宇宙は変わり続ける物ですが、精神は自分の苦から逃れようと安易な楽を求め、そこに留り、未来をその犠牲にします。」 「人は、自分という物と、自分という精神から成っています。人は、自分の精神を育てることができ、そこに宇宙の公平と無限の可能性があります。」 「人の行為が自然環境を破壊するか共存するかによって、人社会の未来の長さが決まってきます。自分も人社会も作るもので、それを創造といいます。」 「どうやって自分を作るか?それは30歳が理想的なスタート地点といえます。二十歳では経験、知識、そして拒否する力が不足します。」 「自分が目指す自分像を描き、そこへ向かう行為を始めれば10年で自分を変えられ、20年続ければ固まり、続けた人は50歳前後に自己が確立します。」
「自己の確立は地位や容姿や言葉ではありません。何の為に何をするのか?その行為をする自分に自
35
信が持てることです。」 REENは前のめりになった。 自由「さて、どうでしょうか?他に何か聞きたい事はありますか?」 REEN「私のSEXは11歳の時に古い汚いビルの裏で見ず知らず男に強姦されたのが始まりです。私は、 男は醜い下等な生き物だと思っています。ところが今の私には、愛してもいない男性とのSEX と、その経済力と、精神的な保護を求めている自分がいます。そんな自分が嫌で成りません。」 自由「君は焦っていますが、30歳までの罪は、償いはいりますが許されると考えて良いです。」 RENN「私は今まで人を好きに成った事がありません。私はBOSSもYANも愛してはいないと思います。」「ただ一人だけ憧れる人がいます。」 自由「誘導尋問ですか?」 REEN「はい。あなたです。本当です。」 自由「あなたが私に一番聞きたかった事は感情の愛と、醜い自分の始末の仕方のようですね。」 「自分の醜さの全てを認めた所にあるものが真実といいます。しかし、自分の醜さ全てを認める と誰でも潰れます。その手前で自分を許し、先ほどお話した、自分作りを始めれば良いのです。 そしてあなたがここに留まるか、先へ進むかは貴方次第で、それが貴方の未来を決めます。」 「何かを自分の上に据えたり、自分で自分を何かに縛り付ければ、精神の成長は止まります。」 「努力なしにできる事など何もありません。30歳から先の時間は短いですから。」 REENは目を尐し細め、真剣な表情に変わった。 自由「あなたには、意思の愛についてもう尐しお話しします。」 「愛という言葉は感情を含む広い状態を大雑把に示す言葉で、曖昧で定義が未だに成されていない難しい言葉と言えます。他に、平和という言葉も曖昧で定義がしにくい難しい言葉といえます。ところが愛と平和を繰り返せば耳に美しい、穏やかな文章はできてしまいます。しかし、具体的な行為内容を定義することはできません。言葉に囚われるとその奥が見えなくなります。」 「楽園を作るには具体的なプランとその処理が必要です。愛という言葉に囚われても具体的な未来も、貴方も作れません。大切にする、癒す、労わる、支える、対等、尊敬、感謝等の言葉に置き変え、なお且つ、その方法や手段、程度を具体的にイメージできて初めてあなたの未来VISIONになります。程度はその行為の質と量になります。」 「何を愛し、何の為に何をするのか?それを精神範疇といいます。宇宙とその未来全体を愛することもできます。その時宇宙と自分が重なりますが、どんな愛を持っても自分の苦からは逃れられません。自分と誰か個人を愛する精神範疇は、それだけの事しかできません。」 「範疇とは、同じものの中の範囲をいいます。」 「私の妻の妹は4歳から28歳まで私の仕事のパートナーだったクローンを愛し、訳あって、現在は感情の愛の無いSHINという100VSチームのリーダーを支え、二人の間に1歳に成る子供がいます。私は彼女を、大きな意思を持った美しい女性だと感じます。」 「意思の愛は、個人を愛するより、子供達の未来を大切に考えることになるはずです。後はその範囲です。」 REEN「私は毎日、孤児院の子供達の面倒を見ています。感情の愛も意思の愛も分かります。しかし貴方の事も本当に好きです。どうすればいいですか。」 自由「意思ですか、感情ですか?」
36
REEN「感情だと思いますが、楽園を作ろうとなさっている貴方の精神が好きなのだと思います。」 自由「ならば貴方の私への愛の背景に、マザーの楽園を望む意思があります。あなたの愛はそこへ向けることでも報われるはずです。私と暮らしたいですか?」 REEN「いいえ、今の私では貴方を支えることはできません。振りまわすだけしかできないと思います。」 自由「私もあなたと一緒に暮らして、この星の楽園を目指す事はできません。しかし向かっている方向は同じで、私達は努力を続ければ同じ喜びを一緒に体験できるはずです。」 REEN「体が震えます。目が覚めたのがはっきり分かります。覚えられないのがとても残念です。直ぐに部屋に戻って書けるだけ書きます。ありがとうございました。」 「失礼を承知で申し上げます。キスしてもらえませんか?」 自由「いいでしょう。立って下さい。」 自由は立ちあがりREENをハグし、額にキスし、腕を緩めREENの顔を視て話した。 「大丈夫!いい娘だ。君から美しい未来を望む欲望がはっきり見えました。YANを支えられる女に成って、あなたの意思を形にしてください。」 REEN「唇にキスを・・」 自由「それはできません。」 REEN「やってみます。ありがとうございました。」 REENはYANとLIANに声もかけずに小走りで通り過ぎ、LIANが戻って来た。 LIAN「こんな事がまたあるのかな・・。」 自由「ありがとう。君が時間を作ってくれた。」 LIAN「あの娘は私が二十歳の時に無くしたものを持ってる。」 「あの娘への愛情がはっきり見えたわ。彼女がメリアなの?」 濡れたブルーとオレンジの二つのトロピカルドリンクのグラスにガス灯の火が揺れ、波音だけが過ぎた。 LIAN「どうするつもりなのかを聞いてるの。何も話さないのは、ずるくない?」 自由「メリアだと感じたよ。」 「彼女は20歳で、非常にチャーミングで、もと娼婦で、現在は闇世界の大物職業軍人の女だ。」 「君より100倍恐ろしい女性で、関われば間違いなく私は闇に消される。」 「サイクルの言った事が事実だとして。彼女は、過去に私を支え、1500年私の帰りを待ち、 助けようとしてマザーに生まれ、マザーを500年彷徨い、そして私に出会った。」 「ついさっき私は、彼女への愛情が一気に蘇り、感謝と、出会えた喜びと、希望と、恐怖と、絶望を同時に感じた。しかし彼女にはその記憶が無い。」 「正直に言って、今の私に、人生の目的が無ければ、私は彼女に走ったと思う。」 「正直に言って、サイクルの言葉を消そうとしても消えない。結局、サイクルに助けられた量と、苦しめられる量は同じだ。」 「精神世界はこれが恐ろしい。一旦頭を突っ込むと、過去と言葉が襲ってくる。どうしようもな い。」 「私は、彼女がメリアだった場合を考え、今の自分にできる最善を尽くそうとした。それだけだ。」 LIAN「キスは余計だわ。私はどうすれば良いの?」 自由「その通りだ。自分が情けないよ。」
37
「今の私は本当に情けない。彼女をあそこから救い出すことは不可能だろう。なのに私は彼女 に瞑想で得た言葉を上から話した。言葉だけで彼女の現実を救えたりしない。私は言葉だけの 精神世界を否定しながら、今、それを利用し都合よく使った。」 「私もサイクルと同じだ。後先を考えずに、軽率な言葉を発した。」 「私は、彼女に対して私ができる最善だと判断し行為した。許せないなら私から去れば良い。仕 方がない。」 LIAN「ずいぶんな自信だわね。」 自由「自信じゃ無い!君に去られても仕方の無い男だよ。私は彼女に惹かれた。そして、良いところ を見せ付け様と、知識を上から押し付けた。感情を優先したのは私だ。情けないよ。」 LIAN「あなたは私に、嘘をつかない、何でも話すわ。でも私はどうすればいいの?」 LIANは椅子に寝ころび、ガス灯の明かりで見えない真っ暗な空を見上げて自由の返事を待った。自 由は置き上がりLIANに向かって座り直し、LIANと目を合わせて話し始めた。」 自由「いいかい。サイクルが言った事が全て事実なら。私は2000年の間に何度か人を体験している。 その時に、今の君と同じような女性の支えを得たはずだ。彼女はその一人にすぎない。君と彼 女は全く同じ立場だ。」 「過去の記憶の無い彼女が、過去を引きずっている。」 「精神宇宙には50兆年の過去があり、過去でしか無く、彼らに未来は作れない。無視していい存 在だと言える。しかし、知識として学び未来に生かす事は必要だと思う。同じ繰り返しじゃ進 歩が無い。」 「その時に、精神宇宙は広く、古く、手強い敵と成って現れる。通り過ぎることが出来なければ捕まる。今、私達は過去と言葉に捕まりそうになっている。」 「今の僕は、サイクルと君とローレルと沢山の若者達を必要としている。この人生をやり遂げ、楽園を作りたい。」 LIAN「私より、サイクルが先に来るわけ?」 自由「ああ、仕方がない。あいつが居なければ100VSはここまで来なかったからね。」 「私達はⅢVISIONSまで辿り着いた。そのⅢVISIONS三つともに、貨幣の無い社会が書かれている。」 「そして、それに反対する3ブロックの態度が硬直化し軍隊の増強へ向かっている。その軍隊の 指揮官が、YANとREENのBOSSのマニーという男だ。」 「そんな状況の中で、私と総長で各ブロックを、ⅢVISIONSとカードマネー社会への協力依頼の為に回ろうと話した。この休暇が終わったらお前と3人でカードマネーが始まるまでマザーを回り続けることになると思った方が良い。その為の最後の休暇でもあった。今晩その話をするつもりだった。」 LIAN「面白そう!」 自由「そう来るか・・さすがだな。腰が抜けそうだ。」 「君は僕を信じきっている所がある。疑う事は大切だよ。僕は完璧じゃない。何時、REENに言い寄るかもしれない。」 LIAN「一度だけなら許してあげる。私がREENならそうしたいと思う。」 自由「・・君って・・何者?」
二人が新婚旅行から帰り、SHINとMERYとHOPEも加わった楽しい夕食が終わり、自由はテラスの椅子に
38
寝ころんだ。隣にワインが尐し入ったLIANが可愛い盛りのHOPEを胸に抱いて寝ころんだ。 LIAN「可愛いわね!可愛いでしょ。」 自由「可愛いな・・・でも、その手には乗らないよ。」
カードマネー社会への協力依頼の旅
翌朝、自由とLIANと総長はブロック周りの旅に出かけて行った。それから3日ほどが過ぎた夕方、LIANからローレルに電話があった。 ローレル「はーい!LIAN調子はどうだい!」 LIAN「ローレル!あなたの責任よ!自由様がこんなにだらしが無いのは、あなたが甘やかして来たか らよ!」 ローレル「おいおい、どうしたいきなり、怒鳴るなよ。」 LIAN「知ってて私に内緒にしていたんでしょ!」 ローレル「だから、何の話か分かるように話してくれ。」 LIAN「私も忙しいの、下着くらい自分でカバンから出せるでしょ!ほっといたら下着を替えないのよ!」 ローレル「そうだよ。自由の着替えは僕が何時も脱衣所へ準備していたよ。それくらい君にだってできる だろ。」 LIAN「それだけじゃないわ!お風呂だって、私が入ってって言わなければ入らないのよ。」 ローレル「そうだよ。自由は考え事を始めると風呂に入るのを忘れるから、そう言ってきたよ。」 LIAN「じゃあ言うわ。あの人は毎朝歯は磨くけど、顔を剃らないのよ。」 ローレル「そんなこと!自由は視力がとても良かったんだけど最近老眼がひどくて鏡を見ても髭が見えな いんだよ。眼鏡はパソコンの時にしか掛けないから、最近は僕が2日に一度は剃って来たよ。 それは僕が悪かったかもしれないけど、自由は考え始めると何もしなくなる。ベッドに寝転ん で2~3時間動か無いかと思うと突然パソコンを夢中で叩き出す。そんな時は気を使うよね。で も、誰にだって欠点の一つくらいあるだろう。止めさせれば良いだろう。」 「分かった!夜が不満なんだろう!」ローレルは軽くからかった。 LIAN「それは大丈夫。でも他にも変な癖もあるわ!」 ローレル「変な癖?」 LIAN「私は忙しいの、スケジュール管理に打ち合わせ、通訳、議事録、今日も後30分ほどで、打ち合 わせに向かわなくちゃいけないの。あなたが甘やかしたからこうなったのよ。あの人の面倒を 見ながら仕事をするのは無理!直ぐに来て!もう限界!あなたが面倒を見て!」 ローレル「そんな無茶苦茶な・・」 LIAN「あなたはクローンなんだからサイクルに電話してPANで送ってもらって!スカイパークホテル 1027、良いわね!分かった!切るわよ!」電話は切れた。 ローレルは、これは尋常では無いかも知れないと思った。ローレルは直ぐサイクルに電話した。 ローレル「やあサイクル、調子はどう!」 サイクル「忙しい、要件を言え。」 ローレル「LIANが仕事が忙しくて、自由の面倒を見るのに軽いノイローゼに成ってるみたいなんだよ。僕 に今から直ぐに来てくれって言うんだよ。」
39
サイクル「自由達は明日の南会議の準備で忙しいのだと思う。分かった、ちょうど用事もあるから5分後 にPANをお前の家に迎えに行かせる。しかし乗り心地は慣れないと大変らしいぞ。大丈夫か?」 ローレル「送ってもらえれば時間も短いし、よろしく頼むよ!」 サイクル「じゃあ、5分後だ。」電話は切れた。 ローレルは持ち物の準備に家の中をうろうろしたが、結局枕を一つを左脇に抱えて庭に出てPANを待った。隣の菜園でROBが草むしりをしている所へ、ま上からROBめがけてPANが急降下して来て、ROB は慌ててテラスへ駆け込んだ。 ローレル「ワー!ROBご免!サイクルが住所を間違えたみたいだね。ROB、今からLIANと自由の所へ行って くるから、後をお願いしまーす!」 そういうとローレルはPANへ乗り込み、PANは20km垂直上昇して消えた。ROBは麦わら帽子をかぶ り、手に小さなショベルを持ち、口をぽかんと開けてそれを見送った。 ローレルは20分後にスカイパークホテルの屋上に到着した。 ローレル「気持悪いー。ウェー!」 ローレルは左脇に枕を抱え、冴え無い顔色で部屋のドアをノックすると、LIANが出かける準備をしな がらドアを開けた。 LIAN「まあ、早かったわね!私は今から出掛けるから、後お願いね。彼はまだ寝てるから、午後1時 から会議だから12時にはここを送りだしてね!」 そう言うとLIANはそのまま出かけて行き、ローレルは抱えて来た枕をソファーに置き、枕に寝転がったが、直ぐに置き上がり自由を起こしに寝室へ行った。 ローレル「自由、起きて。」ローレルが元気無くそう言うと、自由は股間と肛門を手で押さえた。
40
第四章 三国同盟
創造1998年、PALDINAは隣国のPOLDINAとPELDINAを事実上経済吸収した。この3国の人口は創造元年には3憶弱だったが現在は6億を超えていて、事実上世界最高経済力、世界最高軍事力、世界最高人口の国家が誕生した。 さらにPALDINAは勢いに乗じてHOLANDのHOPE CITYに最も近い国境沿いにゲートシティーと呼ばれる経済特区を建設し、農産物の高値買い取りを続ける見返りとして、経済の一部自由化を求めて来た。 PALDINAにとってHOLANDを経済吸収することは、食糧生産地と、クローン培養の先進技術と、マザー政府ビルを手に入れることで、世界にその力を見せつけることができ、最終的に世界経済吸収とその安泰をもくろんでいた。 それに対し、HOLANDは経済の一部自由化を受け入れた。それは、要求を拒んでも次の手を打って来ることは予想できた。どうせ闇マーケット商品は流れ込んでいるわけで、一部自由化は国内の闇マーケットの拡大防止にも成ると考えた。それに闇マーケットで流出するお金を回収できる唯一の手段である農産物の輸出が止まることは、HOLANDの経済が衰退し、むしろ経済吸収が危ぶまれた。 HOLANDはPALDINAとの国境沿い5kmをグリーンベルトと称して、農業専用エリアとして建築物の建築と農業以外の立ち入りを禁止し、必死の抵抗を見せた。 世界の各国にとってHOLANDがPALDINAに経済吸収されることは、次は我が身を予測させた。結果としてPALDINAのこの策略は世界の団結力を促す結果となった。そして、その翌年の1999年、「ⅢVISIONS」が誕生していた。
創造2000年、マザー採択
創造2000年8月7日、マザー連合議会で自然環境回復の為に世界全体の経済活動量を更に抑える事を目的として「ⅢVISIONS」をマザーの未来VISIONSとする動議が賛成137、反対3で可決された。同時に世界年号創造2000年が「マザー元年」と改定された。後にこの採択は「マザー採択」と呼ばれた。 新経済システムの最終運用開始日は、9年後のマザー10年8月8日、午後0時と決められた。そして、この採択後、各ブロックは何時からでも新経済システムとブロックVISIONSを開始することが出来ると成った。また、その前夜祭としてマザー10年8月7日夜にマザーダンスパーティーの開催が同時に決まった。 新経済システムを開始する先着10ブロックについては、100VSチームが全面的にバックアップし、それ以降のブロックは先進10ブロックの実例を参考に自力で新経済システムを開始すると成った。 それに伴い100VSチームのデスク数が200へ拡大され、具体的作業へ入った。 各ブロックに在った武器とクローンはマザー連合が統治することに成り、全てのブロックはマザー連合軍に守られる仕組みが誕生した。世界的な軍縮が行われることに成り、その初代軍縮作業チームリーダーにサイクルが任命された。 対するPALDINA三国、は「三国同盟」を発表し、マニーという職業軍人を最高指揮官とする三国同盟軍を結成した。さらに三国同盟は高速増殖型原子力発電を再開し核兵器とクローンと「PAN」と呼ばれた小型宇宙船を武装し、その生産に入った。それに対してマザー連合は、全ての核兵器と毒ガス兵器を壊滅し、ⅢVISIONSの実践と自然環境の回復と団結力の強化に努めた。人々は三国同盟軍を「マニー軍」、マザー連合軍を「自由軍」と呼んだ。
41
世界戦争が起こる緊張が世界を駆け抜けたが、現在の自然環境下で戦争が起きればマザー自体が崩壊してしまうという危機感からか双方とも慎重で、大事に至ることは無く緊張は半年ほどで納まった。 緊張が納まり、100VSチームに総長が加わり慰労会がもたれ、当時非常に高価と成っていたビールが総長から全員にふるまわれた。その慰労会が終わりかけた頃だった。 サイクル「自由、相談がある。」 自由「どうした。お前でも悩むことがあるのか?」自由はサイクルをからかった。 サイクル「お前は俺のナイーブな心を理解しとらん。」自由は笑った。 自由「なんだ。」 サイクル「この軍服だ。何とかならんか?」 自由「抵抗があるのか?」 サイクル「できることなら着たくは無い。」 自由「その気持ちは分かるな。誰かアイデアは無いか?」 MERISA「そうですね。お気持ちは理解できます。どうでしょう連合軍の軍服をデザインし直すというのは。」 総長「構わんと思う。」 MERISA「柔らかい生地を使ったラフなスタイルというのはいかがでしょうか。」 総長「軍隊の風紀が緩むような事は困るな。」 SHIN「サイクルは特別なリーダーですからサイクルだけが違った服装で過ごす事は問題ないのではないでしょうか?」 自由「その方がいいだろう。サイクルが自分で好きな格好をすればそれで済むと思う。」 サイクル「じゃあ、どんな服が良いかお前たちで決めてくれ。この服以外なら何でも文句は言わん。」 MERISA「柔らかみと温もりが有り、シンプルなデザインで、なお且つ人々が認めるリーダーとしての風格も必要だと思います。サイクルだけが特別な服装をすれば目立ちますから。」 自由「難しそうだがその通りだ、外見からの印象というものは大きい。お前はマザーVISIONの顔の一人だからな。」 LIAN「自由様も同じ服装をなされば良いわ。そうすればサイクルが目立たなくなるわ。」 自由「良しいいだろう。明日にでもデザイナーを何人かオフィスに呼んでくれ。その後にみんなの投票で決めるのはどうだ。」 総長「任せる。」 数日後、自由とサイクルはマザーVISIONオフィスでファッションショーの様に何回も服を着替えさ せられては番号札を持ってオフィスの中を歩き仲間達から笑われたり貶されたり、他所の部門の人 達まで面白がって集まり和やかな時間が過ぎた。 そして翌日投票結果がショーとして発表されることに成り、自由とサイクルはステージの暗幕の後ろに控えた。幕が上がるとホールから歓声と拍手が沸き上がった。自由とサイクルのその服装は白のダブルのシーツを尐し加工して体に巻きつけただけの物だった。サイクルと自由が挨拶にマイクへ向かうと拍手は納まった。 サイクル「気に入っている。ありがとう。」
自由「みんなが私達にこの質素な服装を選んだ。でもポケットが一つも無い。だから、これを機会にタバ
42
コをやめようと思う。本当にありがとう。」また、拍手が沸き上がった。
マザー6年、総長とマニー
マザー6年、3つのブロックで、ブロックVISIONとカードマネーが開始した。自由と総長は三国同盟政府と会談を重ねたが、その話し合いは空を切った。三国同盟政府はTOP4と呼ばれる世界的な実力者に事実上支配されていて、三国同盟の経済と軍事上の首都はゲートシティーに移っていた。 自由は総長を連れて非公式にゲートシティーのマニー軍最高指揮官のマニーを訪ねた。二人が会議室に入り席に着くと、会議室奥のドアから若い娘4人を連れたマニーが現れた。 マニー「マニービルへようこそ。自由、調子はどうだ。」 自由「ああ、上々だ。こちらが総長だ。」 総長「はじめまして。名ばかりの総長です。今はSHINと言う若者が全てを仕切っていて私にはする事が無いのです。」 マニー「それは羨ましい限りですな。このマニービルはいかがですか?」 総長「何もかもが新しく美しく最先端で、私どもの事務所とは大違いでした。さらに、話には聞いていましたが美女4人をはべらせ、何もかもが羨ましい限りです。」 マニー「御褒めに頂いて光栄です。この娘達は私の老化防止と空気を軽くするために置いていますが、お 嫌ならば下げますが?」 総長「いいえ、目の保養にもなりますし、私も老化防止をあやからせていただきます。それに確かに空気は柔らかい。大戦争をするかもしれない相手と面会しておるわけですが、どうもそういう気になれんのが不思議な効果ですな。」 マニー「さて、ご挨拶が後になってしまいました。本日はようこそお越しくださいました。お互いの率直 な意見交換ができてこそ会議だと思います。有益な時間になることを望んでおります。」 総長「改めまして、総長です。本日はお招き頂きありがとうございました。マザー最強の軍隊の指揮 官と是非一度お話がしたいと願っておりました。自由から大方の話は伺っています。未来へ向 かってのお話ができればと考えています。」 マニー「総長のご年齢は?」 総長「65歳になってしまいました。」 マニー「そうですか、同じ歳ですか、ご家族は?」 総長「妻と二人の子供と孫が3人おります。」 マニー「それは羨ましい、理想的なご家族ですな。」 「自由は家族は?訊ねた事が無かったな。」 自由「クローンが一人と妻が一人だ。妻は仕事のパートナーでもある。」 マニー「どんな女だ。」 自由「知的で冷静で闊達で事務処理能力は高いし、腹が据わっている。女の感も鋭い。25歳離れているが年齢差を感じた事は無い。」 マニー「25か。お前もやるな。」 自由「お前ほどじゃ無い。押し切られた。4歳の頃から知ってる。30歳まで待ってくれた。もう拒む理由は無かった。今は感謝しか無い。」
43
マニー「美人か?興味がある、一度連れて来い。」 自由「分かった。妻も喜ぶと思う。」 「マニー、以前からお願いしているTOP4との非公式会談の件だが・・」 マニー「その件だが、昨夜TOP4から連絡があった。改めて日にちを連絡すると言っていた。」 自由「そうか、ありがとう!やっとだな・・」 総長「自由から話には聞いていましたが、お二人の関係はまるで友人のようですな。」 マニー「疑われるかもしれませんな。」マニーは尐し間を開けた。 「すでに私の話は総長に通っているようだ。遠慮なくはっきり言わせて頂きます。私はTOP4 達にお金で雇われている身です。私も楽園を望んでいますが、楽園を納めるには金と力が不可欠です。そして、今では三国同盟の方が圧倒的な軍事力を誇っています。貴方方は、どうやって新しい仕組みを運用なさる気なのか不思議に思っております。」 「あなた方には、この星を楽園にする力は無いのではと考えておりますが、いかがですかな?」 総長「ならば私も遠慮なく言わせて頂きます。マニーが求める楽園では人々は自由なのでしょうか?恐怖と金による支配ではないのでしょうか?人々は貴方が望む楽園を望んでいるのですか?」 「私達にはⅢVISIONS以上の提案はできません。私達は人々が求めたⅢVISIONSを実現するために最善を尽くすだけです。我々は、それが楽園というものではないかと考えています。」 マニー「確かに、貴方達が望む楽園は私が望む楽園より優れているのかもしれん。しかし、それは実現す ればの話で、人は自由の言うヒューマニズムや精神論で生活するのでは無いと考えております。」 総長「ⅢVISIONSは自由が書いたものではありません。世界の若者達が描き、人々が選び出した、人々 が望んだ未来です。自由の人と精神の無限の可能性の話は、100VSが生みだされた過程の筋道で あって、私達は現実的な具体的な生活の仕組み作りへ向かって着実に努力を重ねています。」 「既に3つのブロックでカードマネーとブロックVISIONSによる経済社会がスタートしています。そして2年後には別の3ブロックがカードマネーを開始する準備も進んでいます。そして4年後にはマザー全てがそんな楽園に成る。それが実現可能なところまで来ています。」 「マニー、貴方が私達と同じ道を歩いてくださればマザーの未来を楽園にできるとは考えないのですか?」 マニー「総長、何度も言いますが、私はTOP4達の操り人形に過ぎません。彼らは私が寝返れば私を殺し、 代りの新しい人形を据えます。それはYANかもしれません、他の者かもしれん。それが力という ものです。私一人が寝返って解決する問題では無いと思います。」 総長「そうかもしれませんが・・。」 マニー「確かに自由の事は信じられる男だと思っていますが、人々全てが自由と同じかどうかも疑問が 残ります。人という生き物は自分の事しか考えない愚かな醜い生き物かもしれません。あなたも・・」 「お互いの本音は見えたと思います。総長から新しい提案が無いのであればこれ以上話し合っても 無駄だと思います。本日は初顔合わせという事でこの辺で終わりにしましょう。」 「ただ私からも一つお願いがあります。」 総長「何でしょうか?何なりと。」 マニー「サイクルを連れて来て頂きたい、是非会っておきたいので。それと次回は具体的な提示をご持参 頂けることを願っています。それが無ければ何度話しても何も変わりはしません。」 自由「分かった。今度連れてこよう。喧嘩にならんと良いがな。」
44
「話は変わるが、明日、風が良さそうだから、久しぶりに家内とカイトへ行く。REEN、もし良か ったら一緒に行かないか?」 REEN「えっ!喜んで!」REENが背筋を伸ばし、明るい笑顔に変わった。 自由「マニー、どうだ?」 マニーは、両手を頭の後ろにまわした。 REEN「私はここへ来てから、一度も一人でお休みをもらった事が無いわ。マニー!お願い!」REENはマニーの顔を覗き込んだ。 マニー「お前がそんな笑顔を私に見せるのは何年ぶりだろう。良いだろう。楽しんで来い。確かにお前を閉じ込めている。外の空気を吸ってくると良い。」 REEN「ホント!やったー!」REENは立ち上がる時に、テーブルに足をぶつけた。 自由「じゃあREEN、明日朝9時に迎えに来るから!」 REEN「はい!サイズは?」 自由「9と12でいいだろう。」 自由は右手を軽く手を上げて会議室を後にした。REENは翌日、ローレルを含めた4人で一日を過ごした。
マザー8年、サイクルとマニー
既に6つのブロックが新経済システムをスタートさせ、その内の3ブロックは、それが観光資源と成り好調な滑り出しをしていた。それに対する三国同盟は確実に軍事力を増強し、今や軍事的、経済的な力の差は圧倒的だった。 そんな小春日和の夕暮れ時だった。 自由とサイクルはゲートシティーのマニービルへ向かって中央公園大通りを歩いていた。ゲートシティーは中心に一本の中央公園大通りが走っていて、それが高所得者住宅街と最先端技術を集めたオフィスビル街を二分している。そして住宅街、ビル街ともに国境に近い程、美しく機能的な建物だ。住宅街であれば富裕層の中でも飛び抜けた者が、オフィスビル街であれば収益の高い企業が国境間際に門を構えた。だからゲートシティーの住民は誰もが国境を目指した。 三国同盟の拠点であるマニービルは中央公園大通りのど真ん中の国境からそう離れていない所にそびえ建つランドマークタワーだ。中央駅でシャトルを降り歩きだすと真正面にマニービルと、その西側に超高層オフィスビルの壁面が突然姿を現す。誰もが思わず歓声を上げ、真上まで続くマニービルを仰いで立ち止まる。 マニービルのエントランスの前に立つと東側の通り沿いに孤児院が目に入る。中央公園大通りは住宅街より一段高くなっていて、二人は住宅街を一望できるデッキに立った。ここは国境にかなり近いから、孤児院を囲む住宅街はとてつもなくお金がかかっている。孤児院は芝生が敶き詰められた広々とした公園の様な中庭に、適度な日蔭を作る植栽が配され、平屋の施設がその中庭を囲んでいる。リゾートのコテージを思わせるテラスが付いた園長舎と思える建物が目に付いた。全体として非常にシンプルな作りで、見ためこそ美しく整えられてはいるものの、子供達とその世話をしている従業員達の姿からは質素な生活ぶりが伺えた。 サイクル「これがお前の話していた孤児院だな。シンプルで美しい。それにしてもここに孤児院とは、ち ょっと複雑な気分にさせるな。」
45
自由「ここから東側はマニーの楽園と住居区に成っていて、ゲートで仕切られ私達は立ち入りできない。」 「この孤児院の名はサンクスギビィングというそうだ。」 サイクル「感謝か?」 自由「いや、あのコテージの前に咲いている白い花の名だ。私の庭にもある。」 「ここには5歳から18歳までが収容されていて、望む者には大学教育の機会も与えられている。ここの職員達は、皆ここの卒業生でリーダーと呼ばれている。」 サイクル「ふーん。どんな男なのか楽しみに成って来た。」 自由「会えば分かるさ。今もマニーとYANが最上階から私達を見下ろしているはずだ。」 サイクルはデッキの手摺に体を預け、背後の黒いビルを見上げた。 マニービルから出てくる人々は、両手に荷物を持つか、満載のカートを押している。その皆が満足の笑顔で、その流れが切れ目なく続いた。ビルへ一歩入ると一気に華やかな胸躍る世界が目と心に飛び込み、思わず二度目の歓声が漏れる。 二人がビルに入るとMRI検査があり、肩にショットガンをかけた二人の軍人が詰め所からこっちに向かって歩み寄って来た。 サイクル「これが、PALDINAが経済の一部自由化を求めたショッピングモールか。じゃあこの人達はHOLAND人か?」 自由「PALDINA人も居るが、大部分がHOLAND人と外国人旅行者だ。これが地下1階から地上5階まである。その他には映画館、高級ホテル、高級レストラン、世界中の高級食材、高級衣料、車、要するに住宅以外は無いものが無い。」 二人は、光り輝くPALDINAの最新の製品とごった返す人ごみを横目にしながら、別の警護が並んだ最上階へ通ずる直通エレベーターホールへ案内された。最上階の99階には30秒程で到着した。そこはマニー軍のオフィスフロアで、ガラスで仕切られた向こう側で働く人々に目を向けながら左側のマニー軍会議室の、これもガラス張りの前室へ案内された。警護の二人の軍人が両サイドに分かれると会議室のドアが開いた。手前に10席の会議テーブルがあり、その奥に忚接ソファーが、更にその奥にマニーのデスクがあった。会議室の左奥に鏡張りのバーカウンターがありその上には8台のモニターが並んでいた。 窓側奥からYANが出迎えに現れ、軽い挨拶をし、二人をソファーへ案内した。その窓側からの眺望は低い雲の下に、緑に包まれた住宅街にちりばめられた様々な形の青いプールが光を反射している。サイクルは真下の孤児院をじっくり眺め、遠くにHOPE CITYを見つけた。 サイクル「美しい!」 「高さは?」 YAN「400mです。」 サイクル「高さ400mにこんな大きなフロアーを作る必要があるのかなあ。」 「この街の犯罪は?」 YAN「法律が非常に厳しい為、無いと云えます。」 サイクル「交通事故は?」 YAN「二輪車は自転車以外は通行できません。自転車が人にぶつかることはありますが、自動車は最新技術でぶつかることが有りません。」 サイクル「美しいが、どことなく不自然さを感じる。何故だろうな?」
46
YAN「さあ。」 カウンターの中にはタキシードの様な正装をしたRONがこちらへ視線を向けることも無くうつむき加減で何かの作業をしている。バーカウンターの入り口手前に小さな丸いガラスのテーブルがあり、そこに黒いドレスを着たREEMが立っていて自由に軽く会釈をした。自由とサイクルがソファーに着席するとREENも着席した。YANは窓際の定位置へ移動し、両手を後ろで軽く組んでこっちを向いて立った。YANの横には帽子とコート掛けがあり、そこにYANの物と思える軍人の帽子が一つだけきちんと掛けられていた。マニーのデスクの左端には幅5つ、高さ10段程の札束がきちんと積んでありマニー軍の名にふさわしい装飾の一つと思えた。 RONが視線を合わせることも無く飲み物の注文伺いに出てきて、注文を聞いてバーカウンターへ消えた。そこへ会議室の奥の黒っぽい透明のガラスで仕切られた部屋から、イブニングドレスを着て派手な化粧をした例の4人の若い女達と共にマニーが現れた。 ドアが開いた瞬間に見えた奥の部屋は生活感があり、大きなベッドや豪華なリラックスチェアーや服掛けなどが100㎡ほどの空間に配されているワンルームであることが見取れた。その部屋の壁も全面がガラス張りで分厚い飛行機の翼の断面の形をしたビルの最上階の北側の先端であることが分かった。 マニーは何も言わずに自分の椅子に着席し、4人の若い女達がマニーに付かず離れずその周りに立った。一人の女はマニーの首に腕を廻し、リラックスした様子でマニーの膝の上に腰を下ろした。マニーの右手はその女の腰にまわされ左手はその女の太ももあたりへ置かれた。 マニー「ようこそマニービルへ。」 サイクル「ずいぶん派手なお出ましだが、何時もこんな風なのか?」 マニー「この方が客がリラックスできると思っている。何なら下げてもかまわんが?」 サイクルは女達の視線を浴びた。 サイクル「非公式だ。構わん。」 自由「私が紹介しよう。言うまでも無く、これがマニーだ。」 「窓際に立っているのが参謀のYANで、カウンターの中がRON、あの女性はREENだ。」 「そしてこれがサイクルだ。」 マニー「聞いていた以上に大きいな。本当にクローンか?」 サイクル「どうもお前の事は好きにはなれそうもない。自由から聞いていた話と全く違う。お前が三国同 盟軍の指揮官ならもう勝ったも同然だ。」 マニー「はっは。良く言った。腹は据わっていそうだな。」マニーは本心からの笑顔を見せた。 マニー「まあ良い。初顔合わせだ気楽に行こう。」 「自由、何か変わった事はあったか?」 自由「特別に無いが初顔合わせだ。気楽に話ができればそれで良い。」 マニー「良かろう。サイクル君、何でも聞いてくれ。」 サイクル「いちいち気に障る奴だ。」 「この大テーブルにはどんなメンバーが据わる?」 マニー「ほー、さすが軍人だな、そこから来るか・・人の軍人5人とクローン軍人5名だ。私達は同じ扱 いをしている。」
47
サイクル「それは素晴らしいことだと思うが、お前はPANにビームを搭載したらしいな。おまえはPAN を 武装することの恐ろしさが分かっていない。軍人としても人としても未熟だと思うがな。」 マニー「私もそう思うがTOP4達の意思だ。それに、お前達が恐れている程、大した武装では無い。私達 とて馬鹿では無い。」 サイクル「それにしても1000機も作ったと聞いている。何時マザーが支配されてもおかしくない。」マニ ーの眉間に微かなしわが寄ったのをサイクルは見逃さなかった。 マニー「大丈夫だ。十分な手立ては打ってある。その為にYANが居る。」 サイクル「分からんのはYANもだ。おまえは自由の話し通りの若者に見える。どうしてこんなろくでなし の言いなりに成っている。私達やマザーの若者達と一緒に力を合わせ、美しい未来を作ろうと したらどうだ。」 YAN「私は捨て子です。マニーには大きな恩があります。それに力もです。楽園は理屈だけで作れるも のではありません。」 サイクル「その通りだ。お前とは話ができそうだ。しかし力にもいろいろある。武力と金だけが力でも無 い。」 「生命の星の最高権力者は人々でなけれならん。だからⅢVISIONSが最高権力だ。武装PANの攻撃 力が最高権力では楽園は訪れはせん。」 「確かに楽園が納まる為には武力は必要だ。しかし必要な質と量で良い。分かるか?」 YAN「おっしゃる通りかと思いますが、私とマニーは同盟軍の指揮を任されているだけで、同盟の最高 意思とは違います。」 サイクル「ならば、お前達の同盟の最高意思とは何だ?」 YAN「自由競争経済社会です。自由経済社会はそれを望む人達の意思で成り立ちます。」 サイクル「それで楽園は作れるのか?自然環境を回復できるのか?」 YAN「おっしゃる通りです。」 マニー「私はTOP4達の支援を受けて今の生活をしている。実は私も捨て子だったんだ。そして今の生活 に満足している。そしてここに居るRONもREENも同じ境遇の過去を持っている。私達は地獄を 知っている。お前の様なクローンに何が分かる。人の苦しみの分からん者と話をしても仕方が 無い。」 サイクル「人の苦しみか、分からんでも無い・・」 「クローンから見れば人は感情と欲望に翻弄される浅はかな行為能力のある知能の低い動物だ。」 「今度は私から尋ねる。お前達にクローンの苦しみが分かるか?」 「私達は何の為に作られた?私達は何の為に生きれば良い?」 「自分の立場だけを主張する者達が集まっても楽園は始まらん。自分の立場からマザーの未来に 何が出来るかを考えることが先に要る。それを思考範疇という。お前の様な小さなやつが社会 の上で力を得るからおかしくなる。今、マザーに必要な思考範疇はマザー自体とその未来だ。」 「余計なことにはなるが良いものを見せてやろう。」
サイクルはソファーから立ちあがりマニーのデスクの左側へ行き女達に向かって立ち、白い綿の衣の首のあたりに手をまわすと、その衣を解いて見せた。女達とマニー、YAN、REEN、自由までもがサイクルの股間に視線が釘付けに成った。マニーの女達は驚きと好奇な目で見ると、遠慮なくサイクルの一持つに近
48
寄り腰をかがめ手で触った。 サイクル「人という生き物は自分の興味と欲求で何でも作る。」 「物を作るのは容易い。何の為に何を作るかが難しい。そして出来上がってしまったものを始末することは遥かに難しい。」 「私達はマザーの楽園を作るためにⅢVISIONSを作った。」 「お前達はマニービルと沢山の物とクローンを作った。」 「科学者も軍人も、その作業の前に、生命は如何にあるべきかを考えねばならん。」 「クローンは人の身勝手で作られる悲しい生命だ。」 サイクルは衣をまとったが衣の中に一人残った女がサイクルの一物を口にくわえ、サイクルの体を軽く前後に揺らした。その女はサイクルに軽く蹴飛ばされハイヒールが引っ掛かり、後ろに手をついて足を広げて尻もちをついた。サイクルは衣を着直しながら着席し、ゆっくり話し始めた。 サイクル「どんな生命の星にも終わりがあり、今まで1000程の星が生まれ醜く消えていった。その星の殆 どでクローンは生産され、人が死んだ後も臓器培養を続け、僅かに残った自然環境の中で延命 に励みながら消えて行った。そしてクローンの開発段階で人に理不尽に扱われたクローン達の 精神が宇宙に蓄積していることを知っているか?」 マニー「すべては自由経済が自然に生みだしたのであって、私の責任では無い。」 「夕日の時間だ。せっかく来たんだ、眺めたらどうだ。」 サイクルは言われるままに窓側へ目をやり、立ちあがった。ゆっくり部屋の中央あたりの窓際へ移 動して手を後ろで軽く組み黙って夕日を眺めた。マニーと自由は、オレンジ色の壁面と逆光のサイクルの後ろ姿を眺めた。 サイクルは振り返らず、低い声で、また、ゆっくり話し始めた。 サイクル「マニー。私も、私の一物も、このビルも、そんな身勝手な人が作った余計な物だと思わんか。」 「お前は宇宙の捨て子を生産している。しかもだ、宇宙の過去に武装PANが生産された歴史は無 い。どんな危険がそこにあるかは、計り知れん。」 マニー「勘違いするな。私ではない」 「それにPANはお前達が恐れるほどの武装では無い。TOP4達の意向で、それを止めることは私の分では無い。」 サイクル「それがお前とYANの小ささだ。恩の返しの仕方は言いなりに成る事だけでは無い。お前に残る 金欲と君臨欲がお前を小さくしている。」 「私達の目の前に二つの扉がある。楽園と地獄の扉だ。私達は近い未来にどちらかの扉を開ける。」 マニー「その通りだ。私が生き延びれば短い経済的に豊かな時が、私が死ねばお前たちの楽園が始まるだ ろう。だから私を殺せば良い。ところが、お前たちは理屈だけで私を殺さん。だからお前たち には楽園は作れんと言っている。」 「この程度の話し合いと説得で戦争が回避できると思っている所がお前達の甘さだ。私は現実主義だ。TOP4は現在のマザーを支配しているし力もある。お前達に覆せる力は無い。お前たちは口だけで終わる。」 自由「確かに私には力は無いが、ⅢVISIONSにはその力がありお前たちは、ⅢVISIONSと貨幣の無い社 会を恐れ、核兵器と武装PANを増産している。」
49
「お前は、楽園は一部の人の力が治める。と考えているがそれは違う。」 「人自らが、自然環境の中に自らを納める。それが楽園だ。」 サイクル「マニーよ。マザーの次の星の話をしてやろう。」 「この星の次に、この星とほぼ同時に生まれた「地球」という星がある。その星は制限の無い自 由経済活動を続けクローンを生産する間もなく、もう直ぐ自然淘汰を迎える星だ。醜い人々が 物と金と便利と楽を求めている。そんな星にもチャンスが一度だけ平等に必ず訪れる。それが 自然淘汰というチャンスだ。」 「マニー、この星は宇宙が始まって初めて、二度目のチャンスの時を得ている。どう思う?」 マニー「それは認める。こんな時はもう二度と訪れんだろう。」 循環「ならばどっちの扉を開けたい?」 マニー「もちろん楽園のドアだ。そのドアの向こうで私達が楽をする。」 「お前がどんな男かは、分かった。」 「しかし、私はお前たちを殺すだろう。私達には、その定めと力がある。」 自由「そうかもしれんな・・私達が生きていては楽園のドアは開かんのかもしれん。」 女1「あのね・・あんた達は頭がおかしいよ。世の中お金なんだよ。お金があればどんな楽も出来る、 無ければみじめなもんだよ。」 サイクル「その通りだ。良く分かっているな。どうだ私と遊ぶか?」 女1「良いよ。お金があるなら。」 サイクル「そうかー、私にはお金が無かった。」 女1「じゃあだめだよ。」 マニー「どうだ一つ、三つ一緒でも良いぞ。」 サイクル「止めておく。するなら奥の女がいいが、どうだ。」 REEN「いやよ!あなただけは何があっても絶対にイヤ!」 サイクル「きついな。」 マニー「私もこの女には時々やられる。」 サイクル「マニー、面白かった。お前と私は似ている、また話そう。」 マニー「確かに似ていそうだが、いくら話しても溝は埋まらん。求めるものが同じでもだ。」 サイクル「定めか?」 マニー「そうだ。これが私達の配役だ。」 自由「それは違う。誰でも生い立ちに勝ち、自分の求める自分になることが出来る。それが宇宙に在るたった一つの公平で「自由」という。人は誰でもたった一回の生で、宇宙の始まりの頃に生まれた精神達を超えることができる。宇宙精神など留まり言葉をこね回しているだけのTOP4達と同じものだがな。」 「マニー、未来の半分は自分で作るもので決まってはおらんのだぞ。捨てればいいんだよ、今のお前を。割と簡単だぞ。みんな自分の人生を大切にする。だから自分に捕まり苦しむ。後は恩を返せば済む。恩を返すとは、未来を楽園にすれば足りる。」 マニー「自由、私達はお前の様に美しく生きて来たのでは無い。捨て子は、その過去を背負って生きている。償いきれない罪や恩というものもある。おまえには私の気持ちは理解できん。」
50
「今日はここまでだ。自由、新しい提示を持って来い。」 サイクル「マニー、また、いい女を世話してくれ、冥土の土産にぜひ一度やってみたいと思っている。」 マニー「分かった。」 「お前たちが並みの人ではない事は分かる。お前たちは神か?」 サイクル「神々とはこの星の周りに留まる精神達をいう。私と自由は向こう側宇宙の50兆年宇宙精神だ。 私と自由もそこに長く留まり何もしていなかった。今から2000年ほど前に私と自由は、人社会 を美しくするために旅へ出た。そしてこの宇宙の反対側にある、このマザーに対忚する希望Ⅰ という星と、地球に対忚する希望Ⅱという二つの星を宇宙で初めて楽園にした。貨幣の無い社 会はその二つの星で既に存在している。」 自由「サイクル。それはお前のおとぎ話だ。宇宙精神論では現実の楽園は作れん。私達は今、マザーの現実を話し合っている。」 「RONミルクティー今日もおいしかったよ!」 「REEN、また、カイトへ行こう?」 REEN「喜んで。何時でもお誘いください。」 自由「良し。分かった!。」 REENに笑顔がこぼれ、マニーとYANは目を見合わせ、サイクルは口を開け自由を見た。自由はREENに右手を上げてドアを出て行った。YANは二人がビルを出るのを最上階のガラス越しに見届けた。 マニーがデスクの札束を一つ手に取ると女たちが一列に並び、マニーは札束から10マニーずつを女達に渡すと女達はYANと会議室を後にした。マニーが残った60マニーを差し出すとREENが立ち上がりマニーに歩き寄り、バーカウンターからRONが付いて出てきた。REENはその金をマニーから受取りRONに渡すとRONは丁寧に「ありがとうございます。」と言い頭を下げ、バーカウンターに消えた。マニーはREENの手を取り奥の部屋へ入って行った。 部屋に入るとREENはマニーの上着を脱ぐのを手伝いハンガーに掛けると、マニーはREENの背後から両手をREENの腰に優しく回しREENの首筋に口づけをした。次の瞬間マニーはREENの黒いドレスを背中から引き裂いた。 マニー「同じドレスばかり着ているな。」 REENは一瞬体を尐し前屈みに硬くしたが、マニーはまた優しくREENの背後から腰へ、そして胸に両手を回し乳房をわし掴み、両方の乳首を軽く摘まんでいじってから、抱き上げるとREENも腕をマニーの首にまわし、ベッドへ運ばれる頃にはREENは女の笑顔になっていた。 女4人とYANはビルを出ると中央大通りを横切り住居地区へ降りるゲートを潜った。孤児院に在ったリゾートの平屋のコテージを思わせる建物が、YANとRONとREENの住居兼、園長室と成っていて、女達とYANは向かって右端のコテージ前庭から室内へ入った。室内はさほど広くは無い65㎡程のワンルームに成っていて、YANの部屋にはキングサイズのベッドとガラス張りの大きめなシャワールームがあり、孤児院の中庭に面して全面のガラス窓がある。
女達は部屋に入ると直ぐに服を脱ぐ者やYANの服を脱がせようとする者、冷蔵庫からビール出し飲む者など裸パーティーで、結局、全員で一緒にシャワールームへ入って声を上げて楽しそうにYANの体と互いの体を触り合う。中世の妃の様にセットされた髪に頭からシャワーが掛かるのもお構いなしで、さっそく
51
YANの股間にしがみ付き独り占めにしようとする女もいれば、自分だけきちんと丁寧に体を流す者もいる。YANはシャワールームを出るとバスローブを着てベッドへ寝ころんだ。そこへ一人がバスローブで体を軽く拭くと裸のままYANにまたがり、しばらくYANを独り占めにして始まり、2時間ほどで4人ともベッドの上で力無く、ぐったりとなる。 YANは一人でシャワーを浴び直し、バスローブで庭に出て夜風で火照った体を冷やし、女達は勝手に帰って行く。 その頃REENは裸の上に黒い毛皮のコート一枚をまとい胸元を右手で抑えながら、ビルから出てくる。REENは向かって一番左のコテージの入り口ドアの前で、毛布一枚で体をくるんだ5歳くらいの女の子を抱きかかえながら部屋に入る。REENは女の子を自分のベッドに寝かせ、シャワーを浴びてYANと同じバスローブをまとってYANの居るガーデンテーブルへ冷えた缶ビールを持って出る。中央のコテージの部屋の照明が付きカーテンが開き、RONがテラス窓のカーテンを開け、二人から注文を伺い、また、部屋へ入る。それを待っていたように8歳くらいの小さな男の子がうつむき加減で肩から毛布をかけ、毛布を引きずりながら中庭から歩いて来て、ベンチに座るYANの背中に黙って這い上がり、首に腕を回し抱きついた。 REEN「今日は面白かったわね。」 YAN「うん、他の客とは精神的な迫力が全く違う。」 「どうした、またやられたのか?」 男の子「・・・」 YAN「お前も男なんだから、力や体の大きさで勝てないなら相手の耳を食いちぎってやれ。」 男の子「そんなことしても良いの?」 YAN「相手が悪いなら、相手も文句は言えないだろう。構わん。やってやれ。弱い者を虐めるような奴には当然の天罰だ。」 男の子「分かった。ありがとう。」 YAN「今夜はもう寝ろ。」 男の子はYANの背中から一人で降り、また、毛布を引きずりながら途中まで歩き、振り向いて言った。 男の子「僕に出来ると思う?」 YAN「ああ。できるとも。簡単なことだ。考え過ぎるな。絶対離すな。食い千切れ!」 男の子「分かった。絶対、やってやる!」 男の子は毛布を手に取り、勇ましく大股で歩いて寄宿舎へ向かった。 夜空には大きさの違う二つの月が両方共満月で浮かんでいる夜だった。
マザー9年夏、マザーダンスパーティー会場
SHIN「パーティー会場の模型ができました。」 その模型は1Km四方程のスタジアムを、幅100m程のギャラリー席が囲み、北側の中央に巨大ステージ設備と巨大モニターが在り、中央の平らなグランドは100に区切られていて、そのメッシュのクロスポイントにトイレ、救護、警護施設が122か所在るものだった。 自由「こんなに大きいのか!こんな設備が必要なのか?」
SHIN「一次募集だけで80万人の忚募がありましたので100万人で計画しました。大きな野球スタジアムの約25倍、サーカーグラウンドが約100作れる大きさになっています。更に、ギャラリー席だけ
52
で20~30万人収容できますので最大130万人収容できます。」 自由「来年の8月7日に間に合うのか?費用は?」 SHIN「約150万マニー、工期は半年、この冬には工事が始まります。」 自由「何も無い原っぱでも良いんじゃないのか?」 SHIN「例え一晩限りでも100万人に対する最低の対忚を考えるとこうなります。」 自由「なぜ四角い。丸とか楕円の方が良いんじゃないのか?」 SHIN「丸いと子供の迷子が予想され安全性を考えこの形状が選ばれました。」 自由「費用はどうやって捻出する?」 SHIN「入場料一人1マニーです。中央ステージ周辺は2マニーです。他にテレビ局からの放映申し込みが世界中から寄せられています。音響、照明、モニター設備が120か所、報道、救護、警察、軍隊などのパーティースタッフの合計が3万人以上になります。一つの大都市を集約させた体勢で臨みます。100万人という規模を甘く考えない方が良いと思います。」 自由「分かった。私の考えが甘かったようだ。現在の忚募数は?」 SHIN「100万人で既に締め切られました。」 自由「分かった。」 SHIN「マザー連合とは無関係にインターネットで、パーティー開始1時間前の午後7時から8時まで、自然環境の回復を求める世界同時デモ行進が計画されています。場合によっては更に40~50万人の人々が会場周辺に集まる可能性があります。スタジアムの周囲に幅150m長さ3kmのスペースと、10か所の巨大モニターと、50か所のトイレを追加計画しましたが、いかがですか?」 自由「仕方がない。こうなったら十分な安全対策に努めた方がよさそうだな。さらに追加工事が出ても良いとは思うが、その後の施設の利用計画は有るのか?」 SHIN「現時点では自由軍の調教施設としての利用計画が上がっています。」 自由「それは止めた方がいいと思う。他の利用計画を考えてほしい。」 SHIN「私個人はスポーツ公園として利用してはと思っていますが。」 自由「ああ、その方がいいと思うな。木をもっと植えて欲しい。」 SHIN「ではその方向でもう一度計画してみます。」 自由「夢のある方向で頼む。」 SHIN「分かりました。思いっきり夢のある方向で、MERYとLIAN、ローレルさんの意見も聞いてみます。」 自由「ああ、良いだろう。」 「話は変わるが、今回の各ブロックの状況表だが、私は良く出来ていると思った。財政収支、自然環境の増減値、人々の満足度、マザーBANKからの利益分配額が一目で分かる。もう尐しだ。この調子で続けて欲しい。」 SHIN「はい。」 「後、1年ですが、戦争は回避できそうですか?」」 自由「うん、最善は尽くしてはいるが、まだ5分5分というところかな。マザーダンスパーティーは、戦争回避の最後のチャンスだからな。よろしく頼む。」 SHIN「はい。」 「関係無い話で申し訳ないのですが、ローレルさんは大丈夫でしょうか?」
自由「ああ、大丈夫だ心配は要らん。ローレルには別の大きな仕事がある。この仕事が無事に済んだら力
53
を貸してやってほしい。」 SHIN「望むところです。」
マザー9年秋、TOP4 公式会談
マニー「具体的とは?」 総長「軍縮だよ。分かっているだろう。私達は核を廃絶し自然環境の回復に努めて来た。今や原子力発電所すらない。それに比べお前達は増殖炉型原子力に頼り、核ミサイルを増強している。現在私達が把握しているだけで140程の核ミサイルが配備されている。いい加減にしろ。何と戦うつもりだ。マザーの自然環境が崩壊してしまうぞ。」 マニー「何度も言うが、私の意思では無い。そっちに聞け。」 TOP4-1「私達は話し合いで軍備を整えているだけです。総長、他の条件提示は無いのですか?」 総長「他の条件提示とは?」 TOP4-1「新経済システムの最終運用開始の期限ですよ。来年で無ければならない理由をお伺いしたい。それとお金で解決する方法もあるでしょう。」 総長「現在3ブロック同盟の人口6億人の内の、約半分が既にマニーカードの申請を済ませている。 その申請者の内の約半分が既にマニーカードを受け取っていて、残りの半分の申請者へも年内 にはカードが届く見込みだ。君達だけが戦争をしたがっているのじゃないのだろうか?人々の 自由亡命を先に認めるべきだと思う。」 TOP4-1「三国同盟内でカードを申請した者達が増えている事は承知していますが、その者達全てが今直ぐに引っ越しをしたがっていると思い込んでいませんか?彼らは両方の準備をしているだけですよ。我々の景気と治安は良い。何の問題も起きてはいません。」 「具体的な期限の延長と環境税の提示が無ければこれ以上話し合いを続けても、私達の方からは何の提示もできません。私達にも私達を支え続けてくれている人々が居るのです。」 総長「君達が軍縮計画を発表し、履行するならば新しい提示もできる。君達は軍備拡大の一色じゃな いか。」 TOP4-1「運用開始期限を延長しようとしないのはそちらです。」 TOP4-2「もう良いだろう。」 「進展は無かったが、互いに大戦争は避けたいと考えているようだ。互いに新しい条件提示が何かできるようになった時に次の会談を設けるというのはどうだろう。来年の8月7日までには、まだ日にちもある。」 総長「いいだろう。」 TOP4-2「ただ、分からん事が一つある。現在の力関係は軍事力的に私達が圧倒的だと思う。その事はお前たちも認めるところだと思うが、どうしてそんな強気でいられる。何か策を持っているのか?」 総長「弱気な対忚でマザーが救えるのか?お前達にあるのはTOP4の独裁政治だけだろう。」 「マザーはお前たちだけの物では無い。お前達は自分達の経済社会を絶対的に肯定している。お前たちが自分達の間違いに気付こうとしない限り、私達から新しい提案は何もできない。」 TOP4-2「私達は自分達が正しいとは考えてはいない。私達は自分達の社会と生活を守ろうとしているだけだ。支持者がいるから私達の社会は続いている事も忘れないでいただきたい。」 総長「お前たち4名が新経済システムをを認め、そう動けば三国同盟の人々はそれに従うだろう。
54
お前たちだけが戦争を望んでいる。」 TOP4-3「私達も戦争は望んではいない。総長は、私達の全てが間違っていると言いたいようだが、ほんの20年前まで貴方も私達と変わらない生活をしていた。そして、あなた達は闇ビジネスを取り締まる力が不足した。私達は私達のやり方で闇ビジネスを無くした。私達は人々によって支えられている。あなた方が取り締まれなかったのは私達では無く、人々の欲望だったのではないですか。」 「自然環境を破壊したのは2000年前の私達の祖先であって、私達は自然環境50%をキープして来た。今になって突然全てを捨てろと言われても無理があるでしょう。あなた方にも怠慢はあったはずだ。そこへ突然自由が現れ、来年全てが変わるという。だから時間をくれと言っている。変化には時間が必要だ。」 総長「10年の期間は既に与えた。期間もきりが無い。」 TOP4-3「ならば戦争は止むを得んでしょう。武力も一つの力ですからね。」 自由「人が人を殺す事はしてはいけない事だよ。」 マニー「誰が決めたんだ!」 自由「宇宙でもっとも価値のあるものは生命だと言える。それ以外に何かあるか?」 「金の方が大切だとでもいうのか。」 「人はどんな社会を作ることもできる。私達がこれからどんな社会を作ろうとするかだ。それが 人の無限の可能性だ。それが進化だろう。お前達がこのまま留まろうとすればマザーは滅ぶ。」 マニー「良いだろう。お互い戦争は避けたいと思っている。そして次の機会を作ろうとする意思があるこ とは分かった。」
マザー10年7月22日夜、マニー会議室
YAN「明日子供たちを連れてマニービーチへ行きます。これが最後になることもあり得ますので御休みを頂きたいと思います。」 マニー「良かろう。」 REEN「私も。」 マニー「だめだ。」 REEN「私はあなたの奴隷じゃないわ。私にも意思があるのよ。」 マニー「RON、お前も行け。」 RON「私にも意思がございます。」 マニーは突然銃で論の顔の両サイドのウイスキーの瓶を5本順番に割った。ウイスキー棚の背面のガラスが飛び散り、マニーの銃口はREENに向いた。 マニー「誰のお陰で育ててもらったと思っている。お前など、あそこで薄汚い男達に縛られ、おもちゃに され、エイズでのたれ死んでいたはずだ。恩は無いのか?」 REEN「あなたも小さいわね。撃てばいいわ。私は楽になるわ。」 マニーは銃口を下げた。 YAN「なぜ私に銃を向けないのですか?」 マニー「お前の代わりを育てるには時間がかかる。」 「・・・お前達の好きにしろ。私はお前たちには負けることが分かった。」 マニーはいつものように札束を一つ取り4人の娘たちに渡し残った60マニーをREENに差し出した。
55
REEN「今日は止めておくわ。ありがとうマニー。」 REENは金を受け取らずマニーに軽く口づけをしてYANと女達の後ろを歩いて会議室を出た。 RONはガラスの破片を片付けている。 マニー「RON、私は小さいのか?」 RON「いいえ、決して小さくはございませんが、私たちのマニーは完璧で在ってほしいのです。」 RONは後ろを向いたまま答えた。 マニー「完璧とは何だ?」 RON「最善を尽くすことにございます。」 マニー「なぜ私はお前たちに負ける?」 RON「家族だから、負けてくださったのでは・・・。」 マニー「・・・」マニーは寝室へ消えた。
7月23日、海
REEN「あー、海は良いなあ!ビーチは何でこんなに優しいのかな?」 「子供達もみんなストレス解消!」二人はビーチパラソルの下で、ビーチに寝ころんだ。 「ビーチの側で暮らしたいな。」 YAN「良いよ。」 REEN「あのね、あなたは、まだ、私と一緒に暮らせると思っているの?」 YAN「ああ、そう思っているよ。」 REEN「なぜ、こんな私を許せるの?」 YAN「どんな私だ?」 REEN「あのね、私の体はマニーの物。心は自由様のものよ。」 YAN「前半分は許せる。後ろ半分は許せない。」 REEN「・・・じゃあ、許してないじゃない。」 YAN「私が君を変えてみせる。」 REEN「あなたはどこまで馬鹿なの・・・ありがとう。努力はするけど、どうしてこんな私が自由様をこんなに好きなのか、自分でも分からないのよ。それにマニーには私が必要だわ。言葉だけで十分よ。本当にありがとう。」 YAN「言葉だけでは楽園は作れないよ。私が楽園を作ってみせる。」 REEN「作って!そしたら何でもしてあげる。でも今の私は、子供達とこうしていられるだけで十分。」 「今はマニーの支えで、いてあげたいの。許して。」 YAN「だからそれは許せる。」
8月6日、REEN
マニー「明日だな。」 YAN「はい。明日です。」 マニーは札束を一つ取り、何時もの様に女達に10マニーずつを渡し残りをREENに差し出した。 REEN「今日は止めておくわ。ありがとうマニー。」REENはマニーの頬に軽く口づけをしてYANの後ろを歩いて行く女達の後ろを歩いて会議室を出た。
56
コテージの前でYANは女たちを帰した。女達は一人ずつYANの右手を自分の左胸に当て口づけをし、礼を言い、帰って行った。 REENは玄関ドアの前に寝ている子供を抱きかかえ自分のベッドへ連れて行き寝かせシャワーを浴び、いつものバスローブで缶ビールを片手にガーデンへ出た。月光の中、ベンチには軍服のままのYANが二人のガキ大将を芝生の上に正座させていた。 YAN「やりたい放題したいのなら、ここを出て行け。ゲートシティーの外に帰りたいか?」 子供A「いやだ!」 YAN「なら、考えろ。今夜はもう寝ろ。」 二人の子供はすぐに立ち上がり、宿舎に向かって真っ直ぐに走って帰った。 REENが何時ものようにYANの隣に腰を下ろし、残った缶ビールを差し出した。 REEN「あの子たちは二人とも母親が分かっているの。一人はアル中で、もう一人は薬中。」 YAN「もう一度同じことを繰り返したら、出すからな。」 REEN「環境なのよ。あの子達が悪いんじゃないわ。」 YAN「しかし12だ。出すからな。」 REEN「・・・・・・・分かったわ。」 YAN「REEN。今夜だけは私のベッドで休んでくれないか?」 REEN「甘ったれた事を云うのね。私はマニーの女よ。」 YAN「お前がマニーの相手をしなくても、マニーはこの子たちを捨てたりはしない。」 REEN「そんなことは分かってるわ。私はマニーに恩があるわ。そしてマニーは私を求めてるし、私しか抱かないわ。」 YAN「私はお前を愛している。一緒に成ってほしい。」 REEN「嬉しいことを言ってくれるのね。でも私はあなたを愛していないわ。私が愛しているのは自由 様だけ。あんな男を支えられる女に成りたいわ。」 「でも、LIANは知的で、素敵で、私とは違う。私には真似もできそうにないのにね。」 「ⅢVISIONSの匿名VISIONは貴方が書いたものね。あなたは言ってる事と、してる事が中途半端。」 YAN「違う。両方ともしている事だ。」 「私は明日死ぬかも知れない。マニー軍の全ての核弾頭の発射パスワードが私の手の中にある。 命令されれば発射する。明日私が死ねばこの星は楽園に成る。」 REEN「明日死ぬ気なの?」 YAN「分からんが、そうなれば拒む理由は私には無い。むしろ望むところだ。」 REENは尐し考えた。 REEN「私はこの施設の子供達の面倒を見ながらここで暮らせるだけで十分なのよ。私は貴方が思って いるほど綺麗な女じゃない。私が拾われた14の時には、私はもうお金には困っていなかった。 でも、もうどうでもいいわ。今夜だけはマニーを裏切ってあげる。その代わりこの星を楽園に して。そしたら何でも言う事を聞いてあげる。私達が味わってきた地獄を、これから生まれて くる子供たちが味あわなくて済む未来があるなら作って。約束して。」 YAN「分かった。最善を尽くすよ。命がけで。」 YANはREENを胸に抱きあげ、足を止め、ビルの最上階へ顔を向け、ゆっくりコテージへ入った。最上
57
階からは月光を浴びた二人の姿が見て取れた。 マニーは安楽椅子に体を落とし珍しくタバコに火をつけた。RONがワゴンを押して入って来た。 RON「マニー様、ライスワインをお持ちいたしました。それから、これはイカを一晩外で干した物にご ざいます。」と言いながら小さな陶磁器のグラスをマニーの右手に手渡し熱いライスワインを注ぎ いれた。 マニー「熱いのか?」 RON「多尐。」マニーは尐しだけ口に含み、小さなグラスの残りを一気に口に入れ飲み込んだ。RONは直ぐにワインを注いだ。マニーは半分を飲み、半分を残したままワゴンに置き、イカに手を伸ばし口に運んだ。 マニー「お前とは何年になる。」 RON「はい。43年にございます。私が15歳の時でございました。」 マニー「43年私の傍に居るのか。」 「REENは?」 RON「16年にございます。」RONは話しながらワインをマニーのグラスに継ぎ足した。マニーは右手をのばし、イカが残った口にワインを流し込んだ。 マニー「分かった。こうやって飲む酒か。」 RON「はい。」 マニー「お前も飲め。」 RON「はい。ありがとうございます。」 マニー「YANは2歳だったな・・。私には全く懐かず、私は困り果ててお前を拾い面倒を見させた。おま えは献身的に尽くしてくれた。しかしYANは私を嫌っていた。10歳の時に家を出て居所が分から なくなった。おまえは責任を感じて2年間YANを探し歩いた。そしてマンホールの中でYANを見 つけ連れ戻った。小さな体だったが目がぎらついていた。私のこの右手に噛みついた。まだ、あ の傷が残っている。私は髪の毛を掴んで施設の犬小屋に放り込んだ。」 マニーは右手の傷を左手で撫でた。 RON「はい。そして鍵を御掛けになりました。私はその犬に餌を運びましたが2日間手を付けずに、出 せ!出せ!と狼の様に叫んでいました。3日目の朝に食事を運ぶと、空腹に負けた狼は野良犬にな り食事が終って近寄ると仲間が自分の帰りを待っているから、出してくれと頼みました。私がそ の場所のマンホールの蓋を開けると燕の子が口を開けたかの様にYANかYANかと声を揃えて言い ました。私はYANの所へ連れて行ってやると言い。7人の幼子を連れ戻りYANを犬小屋から出し、 YANに食パンを一斤袋ごと渡すとYANは食パンを7つに分け子供達に与えました。私がスープを8 人分作ると、YANは自分で7つに分け直し、また子供達に与えました。子どもたちは黙ってそれを 食べ犬小屋に入り丸くなって眠りました。」 マニーにだんだん笑顔が戻り、グラスを飲み乾すペースが速まった。 マニー「施設に入り餓鬼大将に目を付けられ、ひどく虐められ体中傷だらけになった。そして小さなYAN が3つ年上の大きな餓鬼大将の左耳を食いちぎった。」マニーは完全に笑顔に戻った。 RON「はい。今の様に大きくなるとは想像できないほど小さな子でした。」 マニーとRONはYANの成長の過程を肴に、話し続けた。 マニー「モトクロス世界選手権の時だ。あいつは金持ちの息子と妬まれ3人グループに邪魔をされ優勝を
58
逃しそうになった。・・・・・」 マニーは話し続け、RONはライスワインを注いだ。 マニー「それから、アイスホッケーの試合の時だ・・で・・・・あいつは3ヶ月で復帰して相手の選手の 足の骨を折った!」 RON「はい!」マニーは終に大声を出してYANの自慢話を続けた。RONは何度も聴いた話だった。マニ ーの話は続いた。 マニー「奴はすでに私を越えている。私があいつの成長を止めている。これ以上私の元に置くことは罪だ と思う。どう思う。」 RON「マニー様次第にございます。たくましくなりましたが、あと一つ経験が不足しているように感じ ております。」 マニー「その通りだ。」 「良い酒だった。もう下がっていいぞ。」 RON「かしこまりました。」 マニーはまた、たばこに火をつけ自分の人生を振り返ろうとしたが酒のせいで思考がつながらない。 煙草の煙が横になびき、窓からは月明かりが煙と部屋の白いシーツを青く浮かび上がらせていた。 REENは横で眠っているYANが気付かないようにベッドを降りた。自分の部屋に戻り黒のキャミソールの上にクロテンの毛皮のコートを着て、右手で軽く首元を絞めてビルへ向かった。マニーの寝室へ入ると安楽椅子に眠っているようなマニーの姿があったが煙草の煙が漂っていた。REENはコートを取りベッドの上に置き、マニーの腰の上にゆっくりまたぎ乗りマニーに体を合わせた。 REEN「マニー、ごめんなさい。」 マニー「YANに抱かれたか。」REENはうなずいた。 マニー「私は明日死ぬかもしれん。」 REEN「YANと同じことを言うのね。」 マニー「YANがそう言ったのか?」 REEN「自分が生き続ければ地獄が、死ねば楽園が始まると言ったわ。」マニーは間を開けた。 マニー「YANの所へ戻ってやれ。」 REENは体を持ち上げマニーの顔を見ていった。「マニーありがとう。」REENはマニーの頬に軽く口づけをしてゆっくりマニーから降りた。 REENはベッドの上のコートを右手で掴むと、そのまま小走りでエレベーターへ向かった。コテージの前で息を整え、そーっとドアを開け、コートとキャミソールを脱ぎYANを起こさないように横たわりYANの右手を自分の左胸の上に置いた。 YAN「マニーの所へ行って来たのか?」 REEN「ごめんなさいって謝って来た。」 YAN「なんて言ってた?」 REEN「YANの所へ行ってやれって。自分は明日死ぬかもしれないって。」 YAN「マニーがそう言ったのか?」
59
REEN「そう言ったわ。」 YANは尐し間を置き、右手の親指を動かしREENの乳首をつまんだ。REENは体を尐しよじらせた。
LIAN
LIAN「今日は泣きたくないの。話さなくても良いわ。」 自由は左手で自分の頭を支え右手をLIANの胸に置き、LIANの顔を見ながら話をしようとしていた。 LIAN「最近お腹が尐したるんで来たでしょ。ごめんね。」 「あなたが何を言いたいかは分るわ。私が死んだら誰かとパートナーを組め、でしょ。」 自由「さすがだな。」 LIAN「私が残念なのは貴方の子供が生めなかったことだけ。」 「朝まで入れてて。私はSEXが不足してるんだから。」 「待って!どうせ1回しか出来ないんだから、もっと話して、触ってて。」 自由「済まない。」 LIAN「仕方がないわ、あなたを好きに成ってしまったんだから、女はもういやだわ。」 自由「君が、君の30歳の誕生日の朝に「今日は何の日か知ってる?」と尋ねて来た時、飛びあがり たいほど嬉しかった。」 LIAN「そうだったの。だったらもっと抱いてほしかったわ。20歳から30歳までは本当に辛かった。 今もだけどね。でもこんなに愛してもらった。たった10年だったけど、もう、一生分愛しても らったから。」 「本当の事を答えて。」 自由「うん。」 LIAN「REENの事はどう思っているの?」 自由「そのことか。私はREENはメリアだと思ってる。」 「だからREENの事を何とかしてやりたい気持ちは今でもあるよ。」 「だけどサイクルが、僕とYANを間違えた可能性もある。」 LIAN「間違えた?じゃあ、私がメリアである可能性もあるの?」 自由「サイクルの言葉が本当なら、その可能性は低いと思うけど、本当の事はサイクルにも分からないよ。生まれて来た時は記憶が無いんだから。」 「例え間違いであっても、僕とYANの実力はさほど違わない。だから僕が戻って自由と名乗った精神の苦しみを背負えば問題は起きない。」 LIAN「難しいわね。私は貴方の世界へは行けないの?そこに居続けることはできるの?」 自由「君ならできると思う。」 LIANはしばらく考えた。 LIAN「行かない。」 自由「さすがだな。好きだという感情はどんなに頑張っても時のものでしか無いよ。そこにあえて自 分を縛り付けると切りが無くなってしまう。その方がいい。」 LIAN「分かった。努力する。あなたは朝まで努力して。コンドーム無しで。」 自由「初めてだな。」 LIAN「冷凍保存しても良い?」
60
自由「ああ、それも君の自由だよ。」 LIAN「もう一つ聞いても良い。」 自由「ああ。」 LIAN「子ども作っても良い?」 自由「・・」
8月7日、朝7時、自由、ローレル
ローレル「今朝も朝食を取るかい?」 自由「ああ、頼む。」 ローレル「何にする?」 自由「オレンジジュースとマーマレードトースト、後でミルクティーを。サラダと目玉焼きも頼む。LIANの分も、起きるかもしれないから。」 ローレル「分かった。」 自由「ローレル。遺言だ。何があってもファイナルベルを鳴らせ。YANの所へ行け。」 ローレル「分かった。」 ローレルはキッチンの足元の、ローレル専用の踏み台の上で、自由に後ろを向いたまま大粒の涙を落しながら目玉焼きを焼いた。
朝8時REEN&YAN
YANは目覚めて直ぐREENの姿を探したがREENは見当たらなかった。そしてガーデンの方からREENの声が聞こえた。YANはカーテンを開け何時もの様に背伸びを一つし、ガーデンテーブルに腰を下ろした。新聞を手にしながらRONが作った朝食を取ったがスープの味が尐し違うのが分かった。YANがテーブルに着くとREENが戻って来て何時もの様に隣に腰を下ろし子供達の状況を報告しながら朝食を一緒に取った。 何時もと違う事があった。 部屋に戻ったYANの後にREENが付いて入った。YANが身支度をする間REENはベッドを片付け、YANのポケットの中身を確かめネクタイを直し、玄関ドアの外までYANを送り、YANの首に腕を廻し軽くキスをした。 REEN「あれは何?」 YANはREENの視線の先のマニービルの最上階あたりに一機のPANが浮いているのを視て、眉をしかめた。 YAN「今日何が起きても、私を信じろ。何があっても楽園を作る希望を捨てるな。分かったか。」 REEN「分かった。行ってらっしゃい!」 YANとREENはその様子をマニーが上から見ていると思ったがそれ以上見上げずREENは部屋へ戻った。YANはビルへ向かって歩きながら自分に慣れない浮ついた気持ちがあることを嫌に思った。YANの前後には4人の軍人が、YANが会議室に入るまで質問を続け、YANはその全てにこたえるのが習慣だった。エレベーターが99階に着く前にYANは言った。「私の意見を大きく考えず、まず自分ならどうすると言える様に。」
朝9時YAN&マニー
会議室入口の警護がYANに「おはようございます。」と何時ものように声をかけた。
61
YAN「おはよう。何時も御苦労。」 警護「ありがとうございます。」 YANはいつもと変わらずデスクのマニーに挨拶をし、定位置に立ち、帽子を帽子掛けに掛け服装を直し窓側を眺めた。そして何時もの様にガーデンに目をやる自分が、マニーとRONには浮かれた若造に見えるだろうと思った。 しかし、YANを見つめる二人の眼には成長した若鷲が巣立ちした姿が映っていた。RONが何時ものようにおはようございますと挨拶をし、ブラックコーヒーをYANの手に渡し、マニーのテーブルの上の新聞とコーヒーカップを片付けバーカウンターに入り気配を消した。 マニーは何時ものように体をYANに向け話し始めた。 マニー「あれはお前か?」 YAN「いいえ。私はマニーかと思っていました。」 マニー「あいつらか?」 YAN「おそらく自由軍のものでも異星のものでもありません。あれは1000年以上前のマザーの古い生命探査用のPANだと思います。攻撃力は弱く、自動バリアの防御力だけが非常に優れていると思います。それにしてもこんな時にここに留まるとは腹が据わっています。」 マニー「目的はなんだと思う。」 YAN「分かりませんが敵意を感じません。攻撃する気なら今頃ビルは破壊されているはずです。」 マニー「ビルのバリアはなぜ働かん?」 YAN「おっしゃる通りです。このビルも様々な自動バリアが設置してあるはずですが、ゆっくり近づき 攻撃しないものに何一つ反忚しなかったのでしょう。プログラムの穴ですか。」 マニー「落としたらどうだ?」 YAN「ビルのバリア圏内に入っています。こちらが被害を受けます。」 マニー「成す術が無いということか?」 YAN「おそらく。・・刺激しない方が良いと思います。唯者では無い気がします。」 マニー「分かった。」 「この得体の知れん化け物以外は、いい朝だ。鷲の雛が巣立つ朝を感じる。」 YANは振り返ったが返事をしなかった。 マニー「ⅢVISIONNS の匿名VISIONはお前が書いたものだろう。」YANはゆっくり答えた。「はい。」 マニー「マニーの参謀でいながら、自由の100VSを支え、私を窮地に追い込んだ。見事だ。」 「そしてREENまでも私から奪った。お前はすでに私以上の力を持った。」 YAN「REENを私に下さい。」 マニー「REENは私の命だ。欲しいなら私から奪い取れ。」マニーは静かにそう答えた。 マニー「お前はマニー軍のみならず、自由軍にまで信頼されている。そしてお前は、お前だけの周波数を 自由軍にまで及ばせている。見事だ。しかもクローン達を粗末に扱わず人軍隊と同じ扱いに務め、 やつらからも信頼され、今やマザーの全ての軍隊を統治しているのはお前だと言える。総長はそ のことを知っていて、お前を欲しがっている。」 「昨夜私とRONはお前の幼い頃の話を肴に酒を飲んだ。楽しい時間だった。私達にとってお前は私達の希望であり誇りだ。良くここまで自分を育てた。」
62
マニーは取り留めもなく話す自分を整理し直そうと努めた。 マニー「今日、何が起きても自分を信じて行動しろ。そして私は今日、おまえに男の最後を見せてやる。」 YAN「私が死ねばマザーに存在する全ての軍が自由軍の配下になり、楽園が始まります。」 マニー「まだ小賢しいな。マザー連合は自由と同じで未来を作る程の力は無い。星が納まるには軍が必要 だ。今、マザーには私達を抑えられる力が無い。だから納まらない。私達を治められるのは私と お前だけだ。お前が死んでも楽園は訪れん。力の在る自由に成れ。いいか、私に代わって楽園を 作れ!」 YANはマニーの言葉で初めて今の自分に気づいた。 マニー「今、時が来ている。この時は自由とサイクルが作ったものだ。しかし、楽園を作ることが出来る 鍵を持っているのは私とお前だけだ。そして、自由を崇めるな。でなければお前は自由を超える ことができなくなる。自由にできなかったことを、お前が成すことでお前は自由を超え、奴以上 の自信を手にする。」 「最終調停が始まる午後5時までに必要な事務処理を済ませておけ。どうするかはお前の自由だ。」 YANはREENが昨夜自分に話した事の意味が今やっと分かった。そしてYANがふとRONの顔を見ると何時もうつむき加減に下を見ているRONが真っ直ぐに自分の目を見ていた。マニーはゆっくり立ち上がったが、何時もとは違い、尐し落ち着きが無い様子だった。マニーは後ろを向いたまま、尐し下を見て話し始めた。 マニー「それから、もう一つお前に話さなければならないことがある。」 YAN「何でしょうか。」 マニー「お前の過去だ。」 YAN「・・・」マニーはYANの方に向き直し話した。 マニー「事実をそのまま話す。実は、お前は捨て子では無い。私の親友の子供だった。」 「その男の名はSON、母親の名はRINという。」 「その頃のSONは私と同じ職業軍人で、彼は酒を飲まない真面目な男で、私達は休日は一緒にス キーやサーフィンをして過ごし、旅行にも一緒に行った。青春期の親友というやつだ。」 「そして私達はRINと出会った。RINは26歳でスタイルが良く、とても美しく、SEXアピールの 強い女で、正直に言ってあまり行儀の良い女ではなかったが私はRINに恋をし、しばらく付き合った。」 「良くある話だがRINはSONに好意を寄せ、SONもRINの事を好きになり、大したもめ事も無く二 人はパートナーを結びお前ができた。私は二人を祝福した。」 「SONは結婚前からある本の執筆に夢中に成っていたが、RINと出会ってしばらく休んでいた。RIN が身籠った頃からSONは、また、執筆を開始し、RINは不機嫌が多くなった。お前が2歳になっ たばかりのある日、些細な夫婦喧嘩が始まりでRINが私の所に相談に来て、私達は私のアパー トで酒を飲み、私はRINを抱いてしまった。事もあろうか、その時にお前を抱いたSONが私の アパートを訪ねてきた。そしてRINはお前の父親に、殺してくれと言った。」 「SONはお前以上に体格の良い男だった。SONはRINの首を絞めて殺し、私も殺そうとした。私に 止めを刺そうとしたSONは私の首から手を離し、私に「一生苦しめ。」と言い残しお前を置いて 闇の世界へ消え、毎月、養育費を振り込んできた。」 「私はRONを拾いお前を育てさせた。」
63
「その後SONは闇の軍需産業で成功し、今は核弾頭ミサイルとPANを製造販売し大金持ちになっている。」 「私達はその金で今こうしている。」 YAN「その男はどんな本を書いていたのですか?」 マニー「100VISIONSというタイトルだった。しかし完成はしなかった。自由の100VSとよく似ていたが、 あれほどには煮詰まってはいなかったと思う。」 「私の人生は、お前を背負って生きる、償いだけの人生だった。REENはそんな私を唯一の癒して くれた。」 「だが、お前を一人前の男に育てられた事に満足している。」 「すまなかった。私を許してくれ。」 YAN「過去の終わった事です。話して頂いた事に感謝します。」 YANは自分の部屋へ行き作業を始めたが、何時もの作業では無かった。そして、何時もの精神状態でも無かった。YANはだだ、その作業に夢中に成りたかった。 午後3時前にその作業が終わりYANは書類を数か所に同時送信し、屋上でレーダー管制室のARIと1時間ほど話しをした。
最終調停
5時15分前、マニー軍TOP5、マニー軍クローンTOP5が会議室に入った。 5時10分前、YANがマザー連合総長、サイクル、自由を会議室に案内しソファーに腰を下ろした。 RONが飲み物の注文に来て、自由が頭陀袋からローレルが焼いた新聞紙に包んだクッキーをRONに渡 した。「ありがとうございます。」RONは新聞紙の中を覗いてほほ笑みバーカウンターへ消えた。 5時5分前、閉ざされたマニーの寝室からマニーが現れた。 マニー「お待たせしました。」 総長「最後に機会を設けて頂いたことに感謝します。」 自由「何か変りは?」 マニー「在ったと言えば在った。無かったと言えば無かったがこれからのことはお前達しだいだろう。」 総長「今日は娘達の姿が見えないようですが、あの娘達が居ないと空気が堅いですな。」 マニー「そうだな。」 5時丁度、3ブロック同盟のTOP4が入って来て挨拶を済ますと、TOP4の二人がソファーに腰を下ろし、あとの二人はYANの側で窓際に立った。 サイクル「あのPANは何の為に用意している?」 「あれは博物館のPANだ。中に誰か乗ってはいるが心を閉ざし静観ている。YAN、お前か?」 YAN「いいえ。」 サイクル「敵意をまったく感じない。腹の座ったクローンだ。是非会って話がしたいものだ。」 マニー「今日は有意義な会議にしたい。あのPANは無視しよう。自由が挨拶を・・」 自由「分かりました。今夜8時から午前0時までマザーダンスパーティーを開催いたします。皆さん
64
にぜひ、ご参加して頂きたいと願っています。」 TOP4-1「何か新しい条件とかは用意されているのでしょうか?」 総長「変化はありましたが、皆さんにとっては・・・」 TOP4-1「どういうことですか?」 総長「実は、昨日あるクローンから面会を申し込まれました。」 「そのクローンとはそこに居るシェルです。」その瞬間、マニー、YAN、TOP4の視線がシェルに集中した。シェルはマニーとYANが最も信頼するマニー軍クローンTOP5の内のリーダーでマニーに一番近い側に着席していた。 総長「その昨日の会談の内容を私から簡単に申し上げると、マニー軍の全てのクローンはこの会議で どのような答が出ようとも、この会議が終了した時点で、マニー軍から自由軍の配下に全て の武装PANと共に移動するというものでした。」 マニー軍側のメンバーは全員動揺を隠さなかった。 マニー「シェル、説明しろ!」 シェル「はい。分かりました。」シェルは席を立ちあがった。 「このお話は私達マニー軍のクローンだけの話し合いで決まったことではありません。私達は 以前から自由軍のクローンたちとも話し合いを続けて来ました。」 「私達はクローン同士で殺し合う事も人を殺す事も望んではおりません。」 「そして私達クローンの共通の認識として、私達は生命の星の自然環境を大切にし、より良い人社会を作るサポートの為に存在していると考えています。」 「私達は人の奴隷ではありません。人は私達を作っても、私達を洗脳することはできません。」 マニー「それをなぜ今に成って言う。」 シェル「はい。マザーの大戦争を回避し、自由軍に勝利をもたらす為にです。」 「そして、あえて私たちの総意を申し上げます。私達マニー軍のクローンは、マニー様とYAN様とご一緒に自由軍への移動を望んでおります。」 TOP4達はそろってマニーの顔を見、マニーがゆっくり話し始めた。 マニー「お前たちの考えは分かった。もう席に着いて良い。このPANはお前たちの仕業か?」 シェル「いいえ。存じません。」 マニー「分かった。」 「まず初めに言っておく。私達にはTOP4への恩がある。私はお前達の様に、その恩に後足で砂 をかけで出て行くようなことはしない。」 「これだけ大きな動きが今日まで察知できなかったのは不思議だ。サイクル、どうやってやった?」 サイクル「テレパシーだ。」 マニー「何時からだ?」 サイクル「私が自由軍リーダーに就任する前からだ。」 「私達は戦争を放棄したわけではない。無駄な流血を避けているだけで、お前たちが自由軍の誰か一人でも殺せば、それ相当の報復はする。楽園は力で作れるものではない。力で作った楽園は力で崩壊する。しかし、楽園には楽園を納めるだけの力が不可欠なことは確かだ。」 「自然環境と楽園を納める為の軍事力の在り方は100VSの焦点でもある。」 「その程度を人々が探し続けるのが100VSだ。」
65
「しかし、楽園に核ミサイルは不要だ。社会と未来と自然環境が不安定になるから楽園には成れない。」自由が同意するようにうなずいた。 TOP4-4「その核が私達の手にある。」 「マニー、私達の大切なお金でクローンとPANを増産し戦争開始前日に敵にまんまと持っていかれた。あきれてものが言えんわ。おまえはどれだけ私達の金を使ってきた。」 マニー「私は武装PANの生産には反対してきたし、指揮官が私でなくても同じ結果に成った。武装PAN を生産したお前たちが墓穴を掘ったのだ。しかし核はまだある。負けたわけでは無い。」 「それに、今日の話は勝ち負けの話ではないと思っている。」 TOP4-4「サイクル。お前は生きてここを出られると思っているのか?」 サイクルと自由と総長に動揺の気配は無かった。 サイクル「パーティー会場の上空を見てみろ。」YANの側にいたTOP4-3とTOP4-4がパーティー会場の 上空を見ると、10機程のPANが会場の上空に待機しているのが見えた。 サイクル「あのPANはお前達が作った物だ。このビルとゲートシティーに照準を合わせている。私達が殺 されれば、このビルは吹き飛び、同時にすべてのゲートシティーとお前達の軍事基地も吹き飛 ぶ。それで楽園が始まる。」 「核ミサイルの発射には時間がかかる。PANの動きは早い。この辺で観念したらどうだ。今なら新しい社会のヒーローとして迎えられるぞ。」 TOP4-1「今日は、初めて話し合いが前に進んだ気がします。状況にも変化があったことですし尐し休 憩時間を頂けませんか?」 総長「そうだな。1時間後の6時半から再開するという事でどうだろう。」 「マニー、クローンTOP5はこれで退席しても良いか?」 マニー「やむをえんだろう。止めて止まるものでも無かろうし、目ざわりでもある。」 TOP4とクローンTOP5は退席した。
午後6時半、最終調停再開
会議室、クローンTOP5が減り会議が再開した。 総長「何か進展は有ったかね?」 TOP4-1「そうですね、皆さんが死んで総人口が減れば自然環境には余裕が生まれます。」 「私達が現行の生活を変える気に成れる提示は何も無かったと言わざる得ないです。」 「実は、私達の所に二つの報告書が届いています。」 総長「ほー、どんな報告書なのか大変興味がある。」 TOP4-1「ひとつは世界に名立たる超能力者達からの未来報告書です。」 「その報告書の内容は・・マザーは近未来に4人の勇者達の働きにより楽園へ向かう努力を始めるそうで、直ぐに楽園が始まり、人々とクローン達の協力により100年後には大自然環境は回復し、マザーとマザーの人々は自然淘汰以外の時に楽園を作った宇宙でもっとも偉大な星となるそうです。」 「そして、その未来は1億年以上続くそうです。」 自由「素晴らしい!素晴らしい!」自由はひとり手を叩いて涙ぐんだ。 TOP4-1「もうひとつは、世界に名立たる科学者たちの報告書です。」
66
「今、私達が持っている世界の95%のお金と100年の歳月があれば、地球という生命の星へ向かう人が乗れる飛行船が作れるそうです。」 サイクルが仁王の様な顔をして立ちあがり、唸った。 サイクル「ふざけるな!お前達の様なウジ虫には絶対に地球に手を出させん。何があっても何度人に生ま れようと、何度地獄に落ちようと、それだけはさせん!」 「いいか!良く聞け!」 「あの星には宇宙全体の未来がかかっている。もしお前たちが地球へ手を出したら、お前達を二度と人にも、どんな生命にも生まれることのできない。話す事も、笑う事もできない様にしてやる。これは冗談では無いぞ。本当にそうしてやる。」 自由「サイクル、落ち付け。」 「それで、何人程乗れるんですか?」 TOP4-1「200人程と書いてある。」 自由「たった200人ですか?みなさんのご家族だけですね。」 「地球までどれほどの時間がかかると報告されているのですか?」 TOP4-1「約1000年と記してあります。」 自由「地球へ行ってどんな暮らしをするつもりですか?」 TOP4-1「報告書があるだけです。」 自由「恐らく、生命の在り方を考えようとしない科学者たちの夢物語でしょうね。それに地球はもう直ぐ大環境異変が始まりますから、地球が楽園になっていなければ、あなた方は廃墟に降りることに成りますね。廃墟を作る人に何を与えても廃墟しか作りません。」 「あなた方は、ご自身の間違いや問題を認めず、それを通そうとする。何の為にですか?人生命はお金の為に生まれてくるのですか?」 「あなた達は自分達の事しか考えていない。そして、マザーへの愛も無い。」 自由は下を向いた。 自由「残念ながら私たちはパーティー会場へ向かわねばなりません。これで私達は失礼いたしますが、私から最後の提示があります。」 「TOP4の皆さん、パーティーへ参加してください。それで楽園のドアが開きます。」 自由とサイクルは席を立ちドアへ向かい総長が続いた。自由はドアを出る寸前で振り向いた。 自由「マニー、話し合いの機会を何度も設けてくれた事に感謝する。」 「YAN私を超えろ。RON今日もおいしかったよ。REEN!」 REEN「はい。」 自由「あの世で会おう!」 REEN「はい。」自由は右手を軽く上げた。 マニーとYANがREENに視線を向けるとREENは両手で何も無いことを示したが、うつむき笑顔で小さな声で「はい」と言ってみた。 TOP4-4「ビルを出たか?」 YAN「今出ました。」
67
TOP4-4「マニーもYANも自由に洗脳された。自由という男と長くいると自分が悪党に思えてくる。開会式で自由とサイクルを殺せ。」 「YAN。おまえがこんな教育を受け、スポーツも好きに出来、自由に高いレベルの環境で育ったのは私達のお金があったからだ。マニーはお前に金を惜しまずに使った。すべて私達が出したものだ。」 「二人を殺せ!」 YAN「私の上司はマニーです。」 TOP4-4「マニー、開会式で二人を殺せ。まずサイクルを先に、確実にやれ。見せしめに頭をスイカの様に爆発させろ。自由は小さな傷で綺麗な死に方を選べ。失敗は許さん。もし失敗すればお前たちを殺す。」 マニー「殺してくれるか、そうしてくれると助かる。」マニーは笑みを浮かべた。 TOP4-4「私達をこんな窮地に追い込んだのはお前だ、マニー、お前の気持ちが分からん訳では無い。 そして私達が何をして来たか、その程度のことは分かっているが後戻りができんのは私達だ けでは無い。私達にも世話になった裏切れない人が要る。」 「要は私達が死ねばマザーは楽園に成る。しかし自由は私達を殺さん。パーティーへ参加してくれと言うだけだ。」 「疲れた。尐し休んでくる。8時5分前にもう一度集まろう。」TOP4 は会議室を出た。 マニー「TOP5、聞いた通りだ。超小型誘導ミサイルで二人を暗殺しろ。射程距離は2kmで確実にやれ!お前たちが直接手を下せ。どういう事か分かっているだろうな?」 軍人TOP5-1「マニー様、YAN様。長い間、良い思いをさせていただいてきました。私達には今日のお二人のご覚悟が見えております。サイクル様と自由様は私たちが確実に仕留めます。」 「楽園を御作り下さい。失礼いたします。」 TOP5は起立し二人に敬礼をし会議室を去った。
8時5分前会議室
皆が重い表情で席に着き、バーカウンターの上の8つのモニターを眺め、RONだけが飲み物の注文を静かにこなしている。 8時パーティー会場 司会「ただ今より開会式を始めさせていただきます。開会のあいさつMR.サイクルです。」 100万の拍手が響き、サイクルが真っ白なステージ中央のマイクへ向かった。 サイクル「サイクルです。」 「まず、私クローンがこのような大役を預かることができた事をマザーの全ての人に感謝いたします。私達クローンは大自然と人々と共存し、支え、労わり合い、マザーの楽園を目指すことを誓います。今、ここにマザーダンスパーティーの・・」 マニー「撃て!」REEN「止めて!」YAN「撃て!」 鈍い音がモニターから届き、サイクルの頭が吹き飛び、赤に染められたステージへ、頭の無いサイクルの体がゆっくり後ろへ倒れた。
68
2秒後、会場上空のPANが微かな弾道軌跡から狙撃した車を吹き飛ばした。 自由は演壇にかかっていた白い布をサイクルの体に掛け、何かをつぶやき、ゆっくりマイクの前に立った。 自由「ゲートシティーの皆さん。そしてマニー軍の戦士たちよ。戦争とはこういことです。私は人とクローンを殺したくない。私は戦争はしたくないという人はパーティーへ参加してください。楽園のドアを開けるもう一つ鍵を持っているのは皆さんです。」 シングルのシーツを着たローレルが、ステージの自由の前に走り出て、両手両足を広げて立った。 自由「私、自由がサイクルに代わり、皆さんの代表として、今、ここにマザーダンスパーティーの・・」 MONEY「打て。」REEN「止めてー!」YAN「打て。」会場の自由が心臓を撃ち抜かれ、左胸に赤いしみが沸き上がり、後ろ向きにゆっくり倒れ、自由がサイクルに掛けた真っ白な布の上に重なった。 2秒後、パンが狙撃した車をふき飛ばし、さらにそれらしき動きのあった他の3車両をふき飛ばした。 会議室では、REENが立ちあがり自分でコントロール出来ない鬼の顔で髪を振り乱し、怒りをぶちまける相手を探し唸り声を上げた。 REEN「何なのあなた達は?」「何の為に殺したの?」「自分が恥ずかしくないの!!」REENは低い声でゆっくりそう言うと右手のワニ皮のバッグでマニーの顔を力いっぱい叩き、手で避けようともしないYANの顔をあざが出来るかと思うほど殴った。そしてTOP4に唾を吐きかけ低い声で恨みをゆっくりと言葉にした。 REEN「ウジ虫。」 「昨夜はあんな偉そうなことを言ってたのに、あんた達に抱かれて来たのかと思うと虫唾が走る。通りすがりの薄汚い馬鹿な男達より醜いわ・・」 「私があんた達を殺してやるわ。」REENは肩を上げ、怒りの魔物と化して会議室を出ようとする。 マニー「待てREEN。TOP4はマザーの未来は楽園になると言った。このままなら地獄が始まる。ファイナ ルベルが鳴るのを聞いてからにしろ。去るのはお前の自由だがそれからでも遅くは無い。大人 しく席について最後を見定めろ。」 REENはその言葉で正気を戻し、肩を下ろし、あっさりと気の抜けた蝋人形の様に席に着いた。 マニー「さあ、このままならファイナルベルはならない。あいつらがどう動くかだ。」
会場
ステージの自由の遺体のそばにLIAN、SHIN、ローレル、を含めた数人がパニックに成っていた。 サイクルと自由の遺体の側で泣いていたローレルが突然立ちあがり大きく震える血で染まった小さな手でステージのマイクを下げマイクを手に取った。 そして涙と血で汚れた顔で、マイクに向かって話し始めた。 「私は自由様のお世話をさせていただいていたローレルと申します。」 「自由様は今朝、朝食の時に私にこう申されました。何があってもファイナルベルを鳴らせと。」 「私が自由様に代わり、いまここにマザーダンスパーティーの開会を宣言いたします!」
会場から拍手と怒涛と共に100万のこぶしが上がり、オーケストラの指揮者が体を大きく揺らしオープ
69
ニング曲が鳴り響いた。 会議室では全員が8つのモニターを黙って眺めていたがマニーがTOP4にゆっくり話し始めた。 マニー「さあ、私はお前たちの望み通りサイクルと自由を殺した。私はお前達に代わって裏切り者の殺人 者に成った。これでお前たちへの恩は返した。パーティーを始めたあいつらの勝ちだ。」 「この10年間あいつらは戦争を放棄し、核を廃絶し、自然エネルギーへ転換し、経済活動を縮小 し、自然環境の回復に努めてきた。お前達はそれを良い事に、金儲けを続けてきた。そして奴 らは今、マザーダンスパーティーを開催し、明日、カードマネーをスタートさせようと希望に 向かって努力し続けている。」 「お前たちは、可能なら他の生命の星まで自分達の好きにしようと考えている。お前達に何を与 えても地獄にしてしまう。金の為にだ。金が何を生み何を破壊するか十分分かっただろう。」 「目を覚ませ。今ならやり直しが出来る。マザーには二度とこの時は訪れない。」 「YANと一緒に会場へ行け。そして無条件で降伏し100VSとカードマネー社会の為に共に協力させ ていただくと挨拶すればヒーローだ。名誉は保たれる。」 「これ以上子供達の未来を奪うな。」 TOP4-1「私は生まれた所が、裕福だっただけだ。その為に気付くのが遅れた。私は実はVISIONSを書いた。10VSには入ったがⅢVSには選ばれなかった。私は未来の楽園の為に生きたい。もうこれ以上愚かな罪を重ねたくはない。会場へ行こう。」 TOP4-2「理屈は分かっている。自由と話す度に頭がおかしくなる。自分に罪悪感が湧いてくる。そしてそれは認める。しかし1ヶ月15マニーでは暮らせん。そんなみじめな生き方なら死んだ方がましだ。」 YAN 「家族5人なら50~60マニーになるそうです。」 TOP4-2「同じことだ。家族にそんな不憫な思いをさせることが出来ん。私の家族は贅沢しか知らん。」 TOP4-3「2000年前の私達の先祖たちが金を無くした時だからできた事を、マザーの9割以上のお金 と力を手にしている今の私達に同じことをしろと言っても無理があり過ぎる。」 TOP4-4「この星の歴史上、人が美しかったのは2000年前の50年間だけだ。会場に核を打ち込めばま だまだやって行ける。人は力に弱い生き物だ。」 マニー「あそこへ核を打ち込めばゲートシティーも影響を受ける。」 TOP4-4「1~2K向こうへ側へ打ち込めば、放射能除去装置で20年は楽にビジネスができる。」 マニー「核を打つボタンは誰が押す。その人の気持ちを考えたことがあるか?」 「お前は自分の事しか考えない。猿でも群れを大切にするぞ。おまえは猿以下だ。」 「核を使うのなら自分でボタンを押せ!」 TOP4-4は銃を取り出しマニーへ向けた。 マニー「ほー、今度はわしを殺すか。打て。私が死ねば間違いなく楽園が始まる。さあ打て。」 「私はすでに殺人者で生き延びたところで終身刑がいいところだ。望むところだ。」 「どうした。なぜ打たん。おまえはただの坊ちゃんだ。おまえには餓えの苦しみなど分かりもし まい。食い物の為に通りすがりの薄汚い男に身を任せる女の気持が分かるか!」 マニーは血管を浮き上がらせ大声で怒鳴った。TOP4-4はふるえながら銃を下げた。 マニー「YAN、私を打て。TOP4と共に私の遺体を会場へ運べ。」
70
YANは窓から5km先の会場を見ていた。 YANは頭のマイクをゆっくりはずし、モニターに子供たちが映るのを目で流しながら上着のボタンを はずし帽子掛けに上着を掛けた。 そしてYANは白いシャツの首のボタンを一つ外し銃を持ちマニーのテーブルに歩み寄り、その端に丁寧に置いた。 そしてYANはズボンのポケットに手を入れ、出口に向かってゆっくり堂々と歩き始めた。 マニー「止まれ。私の遺体を運べ。止まらねば打つ。」 YANは立ち止まり振り返らずに尐しうつむき加減で小さな声で言った。「REENをください。」 マニー「だめだ。奪い取れ。」YANはまた静かにドアに向かって歩き出そうとした時銃声が走った。 YANの左耳の端が飛び、YANは窓側に転げた。 マニーはYANの銃をとりTOP5の会議テーブルの上に投げ「お前の銃だ取れ!」というなりYANに向けて発砲した。その弾は外れ二発目を打った。YANは反射的に銃を拾いマニーに銃口を向けるが引き金が引けない。YANはマニーの銃弾の中、反射的に逃げ回った。 REEN「止めてー!」REENはマニーに飛び付くが右手で払いのけられ、その勢いで窓側の壁まで体ごと吹っ飛び黒いドレスのすそが舞い、無残な姿で頭を壁にぶつけ黒いハイヒールの片方がくるくると回った。REENは直ぐに立ちあがり銃声の中をスローモーションの様に動けない足をYANに必死で向けようとした。REENが会議室のドアの直前でYANの背中に斜め横から飛び付くと長い銃声が走り二人はドアの前に倒れた。 YAN「大丈夫か?」 REEN「大丈夫みたい。」YANはマニーの方を見るとマニーの姿が無く伏せたTOP4とバーカウンターの中に銃をかざしたRONの姿があった。RONが我に返り銃をカウンターに置きマニーに走り寄り、マニーの頭を抱き上げた。YANとREENも駆け寄った。 マニー「私はずっと誰に殺されるかと思っていた。お前だったか。」マニーは安堵の表情を浮かべ穏やかな笑みを感じるほどの声でそうささやいた。 マニー「ああ、終わった。長かった。お前たちを苦しめた。」 「YAN。おまえはもう自由だ。」 YAN 「はい。」 マニー「お前たちを苦しめる者、全てを呪い殺してやる。」マニーの顔がまた、激しい表情に変わり、ゆっくり目を瞑り、首から力が抜け沈みこもうとした。その時YANは反射的に何故かこう口走った。 YAN「マニー。地球があります!」 マニー「地球か。忘れていた。」マニーは目を弱く開け、そう言うと笑顔を浮かべてRONの腕の中に静かに落ちて行った。 RONはマニーの頭を力いっぱい胸に抱えこんで体を前後に揺らし声を出さずに泣いた。REENはマニーの乱れた髪の毛を右手で直しなら「マニー、ゆっくり休んで。たまにはビルから出て外を散歩して。お休みなさい。」 YANはRONの肩に手をやり、マニーの遺体を取り胸に抱きあげTOP4に言った。
71
YAN「私は今からマニーと会場へ向かいます。皆さんも会場へお願いします。」 YANはドアへ向かって歩き出した。YANはREENにマイクを持って来るように言い。RONに一緒に着いて来いと言ったがRONは拒んだ。 YANとREENがドアの前まで来て会議室のドアが開いた。 TOP4-4「待て!」TOP4-4は銃を構えた。 YANは立ち止まった。 TOP4-4「戻れ。テーブルの上に遺体を下ろせ。」 YAN「私達は会場へ行かねばなりません。打つのなら打ってください。それがこの星の宿命です。」 YANは振り返らずゆっくり歩き始めた。窓の外のパンから小さな銃口が伸びた。TOP4-4の手が震え「止まれ!止まらなければ打つ!」と叫び引き金の指に力が入った。鈍い音と共に会議室の窓ガラスが崩れ落ちた。TOP4-4がPANに頭を何かで小さく打たれ目を大きく開き口を軽く開け後ろ向きにゆっくり倒れた。他のTOP4達が周りを囲んだ。YANはPANに目をやるが、そのままエレベーターへ向かった。 YAN「皆さんも会場へご一緒お願いします。」 TOP4-1「遺体を家族のもとへ届けたら会場へ向かいます。」 YAN「11時半までに会場へお願いします。その後、代表のご挨拶をお願いします。」 TOP4-1「分かりました。11時半までに、必ず。」 YANは警護達にビルを離れるように指示しRON に視線を送りエレベーターのドアが閉まった。YANは胸にマニーを抱いたまま、REENにマイクを頭に付けさせ、話し始めた。 YAN「YANだ。レーダー室ARIは居るか?」 ARI「レーダー室ARIです。」 YAN「マニーが死んだ。もう一度言う。マニーが死んだ。私は今からマニーの遺体と共に会場へ向かう。 準備は良いか?計画を実行する。」 ARI「はー。本当に今やるんですか?」 YAN「そうだ。私はまだ生きている。パスワードを書きかえられたら終わりだ。今夜しか無い。」 ARI「分かりました。まず無線をレベル7に変更します。良いですか?」 YAN「頼む。」 ARI「無線範囲レベル7に拡張。3、2、1拡張。レベル7。」 YAN「私はYANだ。マニーが死んだ。もう一度言う。マニーが死んだ。TOP4の一人も死んだ。そしてマ ニー軍TOP5が全員死んだ。私は今マニービルに居るが、マニーの遺体と共にパーティー会場へ向 かっている。今から10分後に会場へ到着する。」 「マザー戦争は回避した。いいか。もう一度言う。」 「マザー戦争は終わった!」 「しかし気を緩めるな。マニー軍TOP5は既にこの世に居ない。各自自分の組織位置を再認識し厳戒態勢に保ったまま、ある計画を実行する。」 「これは冗談では無い。その計画の内容を今からレーダー室のARIから説明させる。計画の総指揮は私が執るが、総指令室はマニー軍レーダー室に置きARIが総指令参謀となる。よろしく頼む。」
「各部署はARIの説明が終わり次第データを交換し、計画実行の準備と体制を作るように。準備時間は
72
2時間。今夜11時半までに準備体制を整えてくれ。以上だ。」 「この計画に失敗は許されない。しかし相手は機械だ。もし何か起きた場合全ての責任は私の命で 取る。この計画に直接かかわらない者達も不慮の事態に備えて、自分の判断で私に何時話しかけ られても対忚できるイメージを持って計画をサポートしてほしい。全員参加体制だ!よろしく頼 む。」 複数の声「了解!!!!!!」 YAN「ゲートシティー、コントロール室!誰がいる?」 ガジー「ガジーと言います。」 YAN「YANだ。今直ぐゲートシティーの全てのゲートを完全にオープンにしてくれ。検閲は一切要らん。」 「もう一つ、マニービルの半径1K以内から全ての人を避難させてくれ。最上階にRONが残ると思 うが彼の好きにさせてやってくれ。」 ガジー「ガジーです。了解しました!」 YAN「総長おられますか?」 総長「ああ、聞いている。ごくろう。何をする気だ。説明してくれ。」 YAN「今、お話しすることができません。私を信じてください。」 総長「ああ、分かった。君を信じよう。私にはそれしかできん。」 YAN「明日朝、私が生きていたら、お伺いします。」 YAN「YANだ。シェル居るか?」 シェル「はい。シェルです。」 YAN「ARIから受け取ったか?」 シェル「はい、受け取りました。計画内容、了解しました!1時間で配置します。」 YAN「よろしく頼む!」 シェル「了解!」
マニーの遺体は会場へ
YANとマニーの遺体の乗った小さな浮遊艇が会場ステージに到着した。 YANはマニーの遺体を抱いてREENと、大きな無線機を背負った二人の兵士と会場へ降りた。すべてのカメラがYANとマニーをとらえた。 テレビ「あれはマニー軍参謀のYANです。マニーの遺体を抱いているようです!マニーが!マニーが死んだもようです!!」会場から音楽とダンスが消え地響きのような怒涛がこだました。 YANはマニーの遺体を抱いたままステージ中央のマイクに向かってゆっくり歩いた。会場は静まりかえり、YANの靴音が響いた。 YANはマイクの前で止まり話し始めた。 YAN「私はマニー軍参謀のYANです。マニーは死にました。マニーと私もこのダンスパーティーに参加させていただきます。マザー戦争は回避いたしました。」 「戦争は終わりました。」
73
怒涛の歓声が天に向かって上がる。人々は誰かれなく力いっぱい抱き合い戦争回避を喜んだ。その歓喜の怒涛は収まること無く続いた。 YANはマニーの遺体をサンクスギビングの花びらに埋もれた自由と循環の遺体の隣に並べ、自由と循環の周りの花びらをマニーの顔の周りに尐し集め、また、マイクに戻った。 会場は、また、静まり返った。 YAN「トップ4の一人がお亡くなりなりましたが、残る3人がこの後、会場へ到着される予定になっています。到着され次第御挨拶をして頂きます。」YANはもう一度3つの死体の前へ立ち独り言をつぶやきステージ下へ降りた。そこにはローレルがREENの胸に抱かれて、ぐったりとしていた。 会場担当のMINTがオーケストラの指揮者に指示を出し威勢の上がる曲が演奏されれ、会場の100万の人々は蘇った希望と共に踊り始めた。
スクリーン
マニービルの会議室に一人残ったRONは、ガラスの破片と銃弾の跡だらけの会議室を掃除し、マニーのテーブルの上を拭いていた。窓の外のPANの下から光が漏れ一体のクローンが姿を現した。そのクローンの足元から細い階段の様な道が伸びて会議室の大テーブルに掛った。そのクローンは大テーブルの上のささくれ立った銃弾の跡に気をつけながら、RONが整え直した椅子を踏み台に、ぶざまな格好で床に降りようとしているのをRONは手伝った。 スクリーン「ありがとうございます。」 「私はスクリーンと申します。お部屋を汚くして申し訳ございません。」 RON「いいえ。YAN様の命を御救いくださいました。私は気が動転していて対処できかねておりまし た。改めてお礼を申し上げます。」 二人は3人掛けのソファーに並んで腰をおろした。 RON「お歳をおめしでございますか?」 スクリーン「はい、もう2000歳ほどかと思います。長く生き続けすぎて死ぬ時を探しております。」 RON「それはそれは、私と同じにございます。」 「似た者同士にございます。お酒はお召し上がりになりますか?」 スクリーン「いいえ、飲んだことがございません。」 RON「私にお任せください。良いワインがございます。」 RONは年代物のワインとカマンベールチーズとバゲットと生ハムを直ぐに用意し、二人は乾杯した。 RON「今夜はあいにくこんなものしかございませんが・・」 スクリーン「これがワインというものですか、あまり美味しくありませんね。」 RON「それが、直ぐに美味しくなるのです。チーズもどうぞ。」 スクリーン「これは私の口に合います。美味しゅうございます。」 RON「スクリーン様は、普段は何をなさっておられるのですか?」 スクリーン「何もしてはおりません。ただ眺めておりました。」 「私は今から2000年ほど前にこの星で製造されました。あるクローンが問題を起こし、マザー の全てのクローンが整理されることに成ったのですが私はそれが嫌でこの生命探査PANを盗 み逃亡生活を送っておりました。」 RON「御一人ですか?」
74
スクリーン「はい。私は最近まで二人で旅をしてまいりましたが、今は一人でございます。宇宙には人生 命が絶えた後、私達と同じように彷徨っているクローン達が沢山おります。」 RON「それはそれは、さぞ辛い思いをなさって来られたのでしょうね。今宵は私がスクリーン様のお相 手をさせていただきます。」 スクリーン「私も普通ならば人を求めることなど無いのですが、今宵はRON様に似たものを感じたのか降り て来てしまいました。」 RON「ありがとうございます。他から求めて頂けるという事は幸せなことにございます。ところでこの 星のクローンの寿命は40~50年にございますが、どのようにして生き続けてこられたのでしょう か?」 スクリーン「はい。クローンは設備さえあれば自分であらゆる臓器を培養することができますので生き続け ようと思えば、ほぼ無限に生きることも不可能では無いと思います。」 「しかし、長く生きることにも大変疲れ、自分の命の始末ができません。そうして宇宙を彷徨っ てみるものの、やはりマザーが恋しく舞い戻り隠れて過ごしておりました。一緒に旅をしてき た仲間がここで死にたいと臓器交換を拒み死に、私一人になっておりました。」 「することが無くなりマザーを眺めておりましたところ、興味深い人生模様を目にし、また眺めておりました。」 「そして本日は私にも何かできないかと窓の前に居座っておりました。私がこの2000年の間にしたことといえばあの男を殺しただけに御座います。私は不要な生命で、他に働きかけることが出来ない定めを持っておりましたが、最後に人を殺してしまいました。」 RON「私もにございます。私がこの人生でしたことはマニー様を打ち殺したことだけに御座います。あ まりにも哀れな人生で、どう死ねばよいのかを考えておったところに御座います。」 二人は意気投合し二本目のワインを開け、互いの人生の失敗談の笑い話を肴に盛り上がった。 パーティーは進み11時半に成ったがTOP4の3人の姿は無く、ファイナルベルの時間が刻々と近づきYANは平静を保った様子を見せてはいたが1分おきに時計に目を向けていた。
11時40分
YAN「YANだ。後5分だ。みんな準備は良いか?」 ARI「準備完了です!」 YAN「今から核ミサイル発射パスワードを送る。」 ARI「了解。」 YAN「ゲートパスワード。Beautiful oneself = Beautiful space」 ARI「ゲートパスワード入力。ゲートオープン。」 YAN「メインパスワード。A family. 」 ARI「メインパスワード入力。」 「発射準備完了!」 SOUL「YAN。忙しい時にすまない。簡単に話す。私はSOUL。この無線を傍受しているものだ。核ミサイルはもう一機存在している。しかし発射パスワードが違う。どうすれば良い。」
75
YAN「SOULありがとう。大体の見当は付く。ミサイルの場所とそのコントロールセンターの正確な場所をレーダー室のARIに連絡してほしい。そしてそのまま待機してくれ。」 SOUL「了解した。」 不明「SOUL。これ以上余計な真似をするとお前の家族の命は無いぞ。ひっこんでいろ。」 YAN「SOUL。マザーの人々を代表してお礼を申し上げる。本当にありがとう。それだけで十分だ。明日にでも私個人に連絡してくれ。」
PAN
RON「PANの中はどんな風ですか?暮らし良いのでございますか?」 スクリーン「ならば、ご覧になりますか?」 RON「冥土の土産に是非。」 スクリーンは飲みかけのグラスを、RONはワインボトルとチーズとパンを持って会議テーブルに椅子を使って這い上がり、今にも落ちそうな足取りでPANの下に辿り着くと姿が消えた。 PANのコックピットには二つの操縦席があり、スクリーンは左にRONは右の椅子に掛けた。 RON「これがPANの中ですか、あまり広くは無いですね。何かを動かしてもらえませんでしょうか?」 スクリーン「何をご覧になりたいですか?」 RON「私には難しいものを見せていただいても、何も分かりません。何か簡単な。」 スクリーン「そうですね。じゃあ何かを打ち落としてみましょうか。」 RON「良いですねー!出来れば操縦かんを握って、だだだって何かを打ってみたいですね。」 スクリーン「じゃあ、このビルでも倒しましょうか?」 RON「ああ、良いですね!でも沢山のバリア機能がありますよ。」 スクリーン「大丈夫でしょう。もし撃たれたら、それも冥土の土産話に。」 RON「そうそう、こうなったら何でも土産に、もう一杯いかがですか?」 スクリーン「はい!ありがとうございます。」 PANはふわふわとビルの西側へ移動したが高度が下がり落ちそうになった。 スクリーン「じゃあ、ビルの足元を打って倒しましょう。」 RON「はい!」 スクリーンはビルの足元の柱10か所にターゲットを設定し、天五のレバーを大きく引いた。二つの赤いランプが点滅しながら大きなブザー音が繰り返し響いた。 スクリーン「うるさいですね。何か叩くものはありませんか?」 RON「これはいかがですか?」と、RONが開けていないもう一本のボトルを差し出し、スクリーンは赤ランプの一つを叩き割った。 RON「私にも貸して下さい。」RONはボトルを受け取り「うるさいぞ!」と、言いながらもう一つの赤ランプをたたき割った。ブザーが鳴り止み、RONは操縦かんを握らせてもらった。 RON「興奮してきますね!SF映画のラストシーンのようにかっこよく決めたいですね!」 スクリーン「このカバーを上に上げてこのボタンを押してください。」 RONは言われた様にカバーを上げボタンを押した。正面モニターに10発程のミサイルの様な光線がビルの足元の柱を左から順に破壊し、その反動でPANが揺れた。 RON「ほおー!迫力がありますねー!でも倒れませんよ。」
76
スクリーン「そうですね。倒れませんね。そういう場合はこれを」スクリーンは足で緑色のボタンを押した。すると先ほどと同じ攻撃を繰り返した。 RON「ほおー!私も!」RONも足を延ばしボタンを押した。機体が揺れビルからガラスの破片が滝のように落ち悲鳴のような音がした。 スクリーン「倒れませんね・・」 RON「倒れてきたら私達はビルの下敶きになりますね。」 スクリーン「なりましょうか。」 RON「はい。迫力ありそうですねー。」 スクリーン「あるでしょうねー。もう倒れると思いますよ。乾杯しましょうか。」 RON「はい!」RONは新しいボトルを開けた。 スクリーン「マザーで最後を迎えることができ、あなたにお会いできたことを本当に感謝いたします。」 RON「私も貴方様にお会いすることが出来て本当に楽しい最後を迎えることができました。ありがとう ございました。来世は互いに幸せに成りましょう!」 スクリーン「はい。来世は人に生まれてこの世から不幸なクローンを無くしてみたいものでございます。」 二人はグラスを一気に開けた。 スクリーン「では、最後はご一緒に足で・・」 RON「そうですか、足で行きますか。イメージと尐し違いますが、それも良いですね!」 二人は手をつないで足を延ばし「秒読みをどうぞ。」「はい。では5秒前、4、3、2、1、発射!!」 二人は同時に足を下ろした。 ビルの足元に同じ攻撃が2度繰り返され、ビルの照明が全て消えたのが会場から見え、西側にゆっく り傾き始めた。 RON「来ましたね!」 スクリーン「迫力ありますねー!」 RON「在りますねー!HOO!」 二人は手をつないだまま、RONは右手にボトルを持ちスクリーンは左手にグラスを持ったまま、二人は 両足を上に上げて振った。 RON「それでは天国でお会いしましょう!」 スクリーン「はい。よろしくお願いいたします。」 ビルは二人とゲートシティー西側のビルの森に覆いかぶさった。 11時44分 YAN「ARI、準備は良いか?何があっても192機、全てを発射しろ。分かったか!」 ARI「了解!」 11時44分50秒 ARI「準備完了。発射10秒前。5、4、3、2、1、第一グループ発射。」 「3、2、1、第二グループ発射。」 「3、2、1、第三グループ発射。」 「3、2、1、第四グループ発射。」 「3、2、1、第亓グループ発射。」
77
「3、2、1、第六グループ発射。」 「3、2、1、第七グループ発射。」 「3、2、1、第八グループ発射。」 ・・・・・・・・・ 「レーダー室、192機、全ての発射確認!」 YAN「ARI。良くやったー!」 「後はPAN達だ。頼んだぞ!」 シェル「了解!安心してください。確実に仕留めます!」 11時51分。 ARI「レーダー室ARIです。第四グループ、ミサイルNO82、高度不足、目標地点に到達できないと思われます。恐らく30秒以内に大気圏再突入。」 PAN221「こちらPAN221、既にミサイルNO82単独でロックオン。ビームが下向きになり地上に影響が出る恐れがあります。発射命令を待ちます。」 M37「こちら上空15万m、M37、レーダー確認できていますが高度が高すぎて迎撃ミサイルが発射できるまでには1分以上かかると予測します。発射命令を待ちます。」 YAN「YANだ。M37、NO82から離れてくれ。PAN221、30秒後に迎撃してくれ。」 M37「M37了解!離脱します。」 PAN221「PAN221、了解。・・・・5秒前、3、2、1、発射!」 ・・・・・ ARI「レーダー室ARI。核ミサイルNO 82、消滅を確認!」 その直後、巨大なオーロラがパーティー会場の上空にまで押し寄せた。 11時53分、ファイナルダンスソングの演奏が始まった 11時59分55秒、ファイナルダンスソングが終わり、オーロラが消えた。 0時0分、ファイナルベルが鳴り始めた。ベルの音は静まりかえった夜空に響き渡った。 ARI「レーダー室ARI、第一グループNO1~NO25目標地点到着15秒前。」 ・・・・・ 「第一グループ迎撃5秒前、3、2、1、発射」 その直後、夜空を覆い尽くす無数のオーロラが暴れ回り、会場の人々は大きな仕掛け花火と思い、歓声と共に眺め仰いだ。 「・・・NO1からNO25消滅確認」 ARI「第二グループ迎撃5秒前、3、2、1、発射・・・NO26からNO50消滅確認」 「第三グループ迎撃5秒前、3、2、1、発射・・・NO51からNO75消滅確認」 大流星群が北の夜空を中心に放射状に長い軌跡を描き始めた。 ARI「第四グループ迎撃5秒前、3、2、1、発射・・・NO76からNO100消滅確認」 「第亓グループ迎撃5秒前、3、2、1、発射・・・NO101からNO125消滅確認」 「第六グループ迎撃5秒前、3、2、1、発射・・・NO126からNO150消滅確認」
78
「第七グループ迎撃5秒前、3、2、1、発射・・・NO151からNO175消滅確認」 「第八グループ迎撃5秒前、3、2、1、発射・・・NO176からNO192消滅確認」 「レーダー室ARI。192の核弾頭全ての消滅を確認。任務完了!」 夜空一面のオーロラを背景に、巨大な尾を引いた流星が走り続けた。 YAN「YANだ。みんなごくろう!お前達がマザーを救った!」 「PANはミサイルの破片に注意して、各自帰還してくれ。」 「シェル、先ほどのミサイル発射基地を10分後に壊滅する。PAN20機を各ミサイル発射基地上空に待機させてくれ。聞いた通りだ。ミサイル発射基地の者達は10分で避難してくれ。」 シェル「了解!」 YAN「クローン部隊を含めた各部門長は明日朝9時30分マザーVISIONビルのロビーに集合。」 みんな「オー!マザーVISIONビル!!了解!!!!!!」 YAN「YANだ。繰り返す。9時半だぞ!遅刻しないように。パン照明部隊ならびに会場担当者は日の出まで気を抜かないように。」 みんな「了解!!!!!!!」 YAN「それからマニーが死ぬ時に私に、お前はもう自由だと言った。」 「私は今から「自由」と名乗る。よろしく頼む。」 みんな「了解!サーフリーダム!何かお言葉を!」 自由「私達は楽園を作る。おやすみ。」
シェル
その時、会場ステージの巨大モニターの画面が乱れ、PANの中のシェルの顔が映し出された。 シェル「自由様、シェルです。」 自由「みんな、よくやった。今日はもう休んでくれ。ありがとう!」 シェル「私たちは何時も、よくやった!と言われて終わりです。それだけのものですか?」 自由「どうしたシェル?」 シェル「私達が今、マザーを支配していることがお分かりですか。」 自由 「・・」会場は静まり返った。 シェル「御顔を見せていただけますか。」 自由「レーダー室ARI居るか?」 ARI「はい。居ます。」 自由「レベル10を実行しろ。」 ARI「了解しました。」 シェル「無駄です。」 ARI「レベル10実行。5秒前、3、2、1、実行。」 シェル「無駄です。PANのプログラムはすでにOSから私達の言語で書き換えました。」 自由「分かった。」自由は立ちあがりステージへ向かおうとした。 ローレル「どこへ行かれるのですか?」自由が立ちあがるとREENの胸にしがみついていたローレルが頭を持ち上げた。
79
自由「うん、自由様の所だ。」 ローレル「行って良いのですか?」 自由「うーん、もう良いだろう。」ローレルはREENの膝から素早く降り、小走りでYANの前を自由の遺体へ向かった。ローレルはステージの後ろからパイプ椅子を引きずり出し、演壇の自由の遺体の頭の側に置き、はい上がった。 自由は演壇を背にして尐しもたれ、腕と足を軽く組み余裕を装いステージ背面の巨大モニターに向かって立った。 自由「これで良いか。」 シェル「はい。十分です。」 自由「お前たちは数時間前に、クローンは人を殺す為にあるのでは無い。生命の星の自然環境を守り より良い人社会を作るために在る。そう言ってマニー軍を離れ自由軍へ移った。」 「そして、今度はマザーを支配するか?」 シェル「いいえ。支配していることがお分かりですか、と申し上げました。」 「そして私達は、今という時を選んでお話をさせていただいています。」 「人々に私達の考え方を理解してほしいのです。私達にも意思がございます。」 自由「私達人はⅢVISIONSが最高権力である未来を望んでいる。お前達クローンの支配を望んではいな い。」 ローレルの耳には難しい話は入ってはいない。ローレルは「自由様起きて下さい。朝ですよ!」と何度も呼びかけ自由の体を揺すった。 サイクルにも呼びかけサイクルの顔に賭けて在った白い布をはがし、えづいた。布を戻し椅子から降り会場の人々を見まわし観衆の中に肩車されたお化けのお面を付けた子供を見つけ走り寄った。 ローレル「そのお面を私にもらえませんか?」ローレルはお面を受け取り、また、椅子へ這い上がり目をつむってサイクルの顔の布を取り、お面をサイクルの頭の所に置いて、目を尐し開けて様子を見た。 ローレル「これで大丈夫。サイクル、あなたそっくりの御顔ですよ。さあ、起きてください。」ローレルは無邪気に陽気にそう言って、二つの遺体に起きてくださいを繰り返した。 シェル「私達も人に支配されることを望んではいませんが、今日までは支配されて来ました。」 自由「私は人とクローンを区別してはこなかったと思っている。協力して進めないのか?」 シェル「個人的には自由様には良くして頂きましたが、人とクローン全体のことを申し上げています。や はり人の都合で作られ、支配されて来たと言えます。」 自由「お前たちも100VSに参加しろ。」 シェル「是非参加させていただきたいと願っておりますが、その数僅か7000にございます。」 自由「確かにそうだな。分かった。条件を言え。」 ローレルは呼びかけるのを止め、椅子から降りステージを小走りで下りて行った。 シェル「分かりました。」
80
「まずひとつ、私達に人と同じ権利を与えてください。」 「そして、もうひとつ、私達にクローンだけの土地を与えてください。」 「そして、3つ目は、人がまた、2000年前の悲劇を繰り返すのならば、その時は武力を持って人 を完全支配いたします。」 自由「分かった。」 「はじめの二つはⅢVISIONSの一つに既に記してある。既に人々の承認を得ていると考えることもできる。」 「三つ目の2000年前の悲劇は、一つのブロックが特別な動きをしたのを抑える力と仕組みが無かったことが原因で始まった。ⅢVISIONSには既にその仕組みが記してある。」 「お前たちは人と同じ権利を与えろと言いながら、僅か7000のクローンが武装PANを1000機持っている。それに比べ、人は約30億で核兵器も無くなり重武器だけだ。不公平と言えないか。力が不均衡で逆転している。」シェルが後ろを向いて何かを話し始めた。 ローレルがコーヒーと紅茶を入れステージへよたよたと戻ってきて、演題へ置き、また、椅子に這い上がった。「さあ、お茶が入りましたよ!冷めないうちにお召し上がりください。」 シェル「分かりました。確かに1000は不要です。ならば900機のビームを撤去してもかまいません。」 自由「お前達が人に代わり三つ目の条件を行使するにはビーム搭載PANが10機もあれば足りる。」 シェル「10機では尐なすぎます。」 自由「人と同じ権利と言うなら、そんな大きな力を持たんでも良かろ。お前たちクローンだけが何故 そんな大きな力を持たなければならんのだ。」シェルはまた、後ろを向いて話し始めた。 ローレルは椅子の位置を自由の遺体の横に置き換え、演壇に這い上がり自由の遺体に馬乗りになった。「起きろ自由!朝だー!起きろー!」と大きな声を出し自由の遺体を揺さぶったり抱きついたりした。それを見たREENが靴音を気にして靴を脱ぎステージへ上がりローレルを下ろそうとしたがローレルは手を払いのけた。 ローレル「自由、REENが来たぞ!REEN自由にキスしてくれ。そしたら起きるよ。さあ!」 ローレルはREENの手を取り強く引っ張った。REENは自由の唇にゆっくり小さく口づけをして自由の目が開くのを待った。自由の眼は開かず、REENはローレルを無理やり胸に抱き取った。 REEN「お別れを言いなさい。」と小さな厳しい声で言った。 ローレル「いやだ!」ローレルは大粒の涙を落しREENの胸にしがみ付きステージから降りた。 シェル「私達クローンと1000もの武装PANを作ったのは人です。そういう力を抑止するには最低100機 は必要です。」 自由「10機だ。残りの990機はビームをはずしてお前達に渡す。他の装備はそのままでだ。」 シェルはまた、後ろを向いた。 自由「お前たちの気持ちは分かる。不要なブロックを解散させ、周囲のブロックに分配する力が確か でなければ楽園は崩壊する。その力をお前達が担おうとしている。」 「しかしだ、人がクローンに支配される未来に人の進化は無い。」
81
「宇宙に在る希望と無限の可能性とは、宇宙が自然に生みだす人の進化の無限の可能性で、現実の人生命社会より優先されるものは無いはずだ。ヒト自らが自然環境の中に自らを納めようとする。そういう人々が暮らす場が楽園で在って、お前たちが作り与え、守るものでは無い。」 「人自らが美しくあろうと努めることが重要でPANが重要なのでは無い。」 「お前たちが大きな力を持とうとすればするほど、人は愚かに成ると言える。10機で十分だ。」 「そして、お前達の聖地の件だが、私個人としては賛成はできない。お前達はそこで、お前達に必要な生物を作り出すだろう。人社会へ迷惑をかけない為にな。しかし、何時かは、その生物がこぼれ出し、この星の生態系へ影響を与える時が来るだろう。その時お前達は人と同じ過ちを繰り返すことに成る。お前たちの気持ちは分かっているつもりだが、人に作り出されたクローンは人社会の中で生涯を終えるべきなのだ。お前たちは自分達の未来の為に生き、働きたいと思うだろう。私達人は、それができるのに金の為だけに働こうとして来た。しかし、私達は今日からこの星をお前たちとも共存できる、お前達にとっても楽園に成るように最善を尽くす。そして、お前達の苦しみを完全に収束させられる道は、お前たちもその楽園に人として生まれるしか無いと考えている。」 「この話はマザーが楽園に成ってからでも間に合う。今夜、TOP4達が顔を見せなかった。おまえも先ほどの話を聞いたはずだ。向こう側にはまだ核ミサイルがあるし、あいつらがその気になれば、これからでも核ミサイルは作れる。お前たちの仕事はまだ終わってはいない。思い上がるな。」 シェル「・・・分かりました。私の個人的な判断になりますが。今後も話し合いを続けていただけるので あれば今日の所は了解いたします。」 自由「分かった。私も最善を尽くす。これからもよろしく頼む。」 「今日は休もう。互いに労わり合い、支え合える関係があるはずだ。探して行こう。」 自由は振り返った。 「皆さん今日から100VISIONSとカードマネー社会が開始します。」 「それは私達が楽園を作るために、私達自らが、今の私達に制約を課すものです。」 「楽園とはそんな人の努力が作るもので、努力とは自らが美しくあろうと努めることです。」 「楽園は希望に浮かれて出来るものではありません。」
SON
不明「その通りだ。忙しい時にすまんが、先ほどの者だ。」 自由「名を名乗り、顔を見せろ。」 不明「その手には乗らん。」 自由「こんな大きな戦争を始めようという者が姿も表さんとは、小さな奴だな。」 SON「・・・良いだろう、これでどうだ。」 SONがPCと思えるカメラを通してステージモニターに映った。そこに映った10名程のメンバーは、TOP4以外は顔を隠そうとした。SONは全くの平常心で落ち着いていて、座った低い声で堂々としているように見えた。 SON「SONだ。」 自由「お前がSONか・・・マニーから話は聞いている。」
82
SON「ならば話は早い。」 「やはり私達はⅢVISIONSには同調できんという結果に至った。そこでだ。核ミサイルがもう一発私達の手の中にある。」会場はどよめいた。 自由「発射するつもりなのか?」 SON「そうだ。」 「今からお前達の会場の2km先に打ち込むから受け取ると良い。」会場はパニックに成った。 自由「ARI、発射場所と周辺状況を頼む。」 ARI「了解!」 自由「条件は?」 SON「三国同盟は一つのブロックでやって行く。」 「そして100VSの開始延長30年、この二つだ。」 自由「100ブロックスは、人口一億未満のブロックで構成する。したがって三国同盟は6~7ブロックに成る。」 「そして100VSの開始日時は、マザー採択で137対3で既に可決した。最終開始日時は今日午後0時だ。」 SON「私達は年寄りだ。先はそう長くは無い。開始延長20年でどうだ。」 自由「同じことだ。延長は記されていない。猶予期間は10年あった。」 SON「ならば仕方がない全面戦争だ。」 自由「仕方がない。そうなれば今日午後0時よりマザーVISION軍により制圧するまでだ。」 ARI「ARIです。SOULが言った場所に、開発中の短距離弾道型誘導ミサイルM7が発射準備されています。発射地点の半径5k以内の推定人口は70万。」 自由「シェル、ロックオンだ。」 シェル「了解!ロックオン。」 SON「待て。分かった、5年でどうだ。」 自由「同じことだ。残った全てのミサイルをマザーVISION軍に引き渡し、今日の午後12時から新法開始だ。」 「お前達はこの10年間、販売用核弾頭搭載小型誘導ミサイルM7と武装PANの開発を進めて来た。 お前達は迎撃システムである武装PANとのセット販売でビジネスを予定している。その為に必要な時間が5年という事だろう。」 SON「他は知らんが私個人はお前たちの勇気と努力に免じて、今後核弾頭を作らない事を約束してやる。」 自由「お前は過去に100VSという本を書こうとした事があるそうだな。微かな期待を持った私が甘かったのか?」 SON「あれから、もう43年だ。食う物も食わず命がけで働き通してきた。努力して金と力を掴んだ。何が悪い!」 自由「それは努力とは言わん。努力とは自分を美しくする方向にあるものだ。」 「お前達は自然環境を代償に作ったお金を宇宙へ捨て、巨大宇宙工場を作った。そして、その維持費に苦しんでいる。何かを得たか?」 「楽園は外に求めるものでは無い。ここに作るものだ。お前達がやったことは富の集中と環境破壊だけだ。これ以上、未来の子供達から自然環境を奪うな。」
83
SON「苦労も知らん若造に何が分かる。」 自由「お前たちの経済で、楽をするのはその1割だけで後の9割はお金の事しか考えられなくなり働き続ける。そしてマザーの環境が破壊される。自分の醜さを見る努力をしろ!」 「お前達の経済は、環境回復費用をコストに見込めば成り立たん。したがってお前達の経済は存続不可能だ。」 SON「そんな事は子供でもわかる。お前などに説教される事でも無い。」 「経済はそれを求める者が集まって出来る。自業自得だ。経済とはそういうものだ。」 自由「違う。」 「経済は人々を救う社会の仕組みを作る、道具の一つに過ぎん。」 「社会の仕組み、法律、科学、政治、教育、知識、自由、公平、思考、想像力、全てがそうだ。」 「お前達はそれを金儲けの道具として使い、格差を作り、人の欲望を煽り、自然環境を破壊した。」 「人は道具を使い社会を作る生き物で、それが宇宙の創造で、そこに希望と人の無限の可能性がある。」 「そして、そこに出来上がった社会の状況が、その社会を作った人の進化のレベルを表す。」 「お前達は、経済は金儲けの道具だと思い込んでいる。」 「お前達は、社会はこんなものだと思い込んでいる。」 「人は愚かで知能の低いものだと思い込んでいる。」 「世の中はこんなものだと思い込んでいるお前達には美しい未来は作れん!」 SON「分かってはいるようだな。言っとくが、私は美しい未来など作る気など無い。」 「私の人生はあの女で狂った。お前は命がけで愛した女に裏切られたらどうする?」 自由「過ちなら許せる。そして、私には愛する女よりも、この星に生まれる全ての子供たちを大切にしようという意思と願いがある。」 「私は捨て子で、そういう苦しみを味わって生きて来たから、そう思えるのだと思う。私が愛する人も捨て子で同じ夢を持っている。そしてマニーもお前も捨て子だった。私達の間に許せないことなど何も無かった。」 「私はマニーとRONの愛情と、お前のお金で育てられた。生きて教育が受けられるだけで幸せだった。私は幼い頃、貧しい人達からの施しを受けて生きて来た。時には貧しい人達の食料を奪ったが、それでも彼らは許してくれた。」 「そしてマニーは、お前が叶えられなかったお前の夢と私を背負って生きた。」 「私達が今、その、お前の夢を叶えようとする時に、お前はその最大の障害として私の前に現れた。」 「お前は100VSを理解している。その上で認めようとしない。何を大切にしている。」 SONの眉間に皺が寄った。 SON「あの女も、その夢を理解しようとしなかった。何を大切にしている?・・自分か。」 自由「今から43年前、母がこの夢を理解することは難しかったはずだ。」 SON「私は許せなかった。」SONはゆっくり右手を挙げた。 自由「待て!SON。お前の力が必要なんだ!残されたお前の命と力を貸してくれ!」 SON「・・もう遅い。」 自由「いや、十分間に合う。私達は今からやり直そうとしている。力を貸せ。お前が居れば、私達は楽園を作れる。」
84
SON「・・無理だ、遅すぎる。動き出した時は誰にも止められん。今のマザーを作ったのは私達だけでは無い。お前たちが作ったのだ。」 「PALDINAは今、過去最強の力を持つ時を迎えた。自由とサイクルとマニーが死に、お前が死ねば、もはや私に刃向える者は居らん。核など増殖炉があれば幾らでも作れる。私が作らなくてもだ。」 「それに、お前の様な小僧の言う事に、ハイ、分かりましたと言うほど私は甘い人生を過ごしてはいない。妙な説法より私を殺す方が早いだろう。」 「私を殺すがいい・・・もしお前が生きていたら。着弾は120秒後だ処理しろ。宿命の残りだ。」SONの右手が動いた。 YAN「待て!一生に一度くらい、子供の願いを叶えても良いだろう!」また手が止まった。 SON「だから押すのだ。この一発はお前達にとっても無い方が良かろうが。これがお前への私のせめてもの情だ。・・・許してくれなどとは言わん。私で無くとも誰かがやった。」 「お前が本物ならば納めてみろ。面白い小僧だった。私がお前を育てていれば宇宙も支配できただろう。お前は甘い。私への微かな期待を持っている。利用しようと思えば・・」 「この星の人々も誘惑に弱い。おまえには無理だろう。」SONの手が下ろされ、映像が消えた。 シェル「シェルです!迎撃しますか!」 自由「待て!被害が大き過ぎる。」 ARI「ミサイル発射確認。SOULが言った場所からだ!」会場は完全なパニックに成った。 自由「着弾地点は?」 ARI「パーティー会場だと思える!東の方向からこっちへ真っ直ぐ向かっている!たぶん100秒後だ!」 自由「シェル!誘導型とはいえ弾道軌跡だ。高度8kmか、最高高度に達するまで待て!ARI、高度は?」 ARI「高度4000、・・・5000、」 自由「皆さん落ち着いてください。地面に伏せて子供を体の下へ、体を何でもいいので出来る限り覆うってください。光を見ないように。ゲートシティーの皆さんは建物の中に入ってください。慌てないで、落ち着いて。」 自由はREENと子供たちへステージの下へ入るように仕草し、サングラスを掛け東に向って立った。 ARI「5500、6000、6000、だめだ水平に成った!。」 自由「シェル打て!・・・打て!・・なぜ打たん!」自由は大声で叫んだ。「打てー!!」 200機程のPANがパーティー会場と爆破予想地点との間に壁を作ろうと整列し日傘が出来上がった。 真昼よりはるかに明るく痛く感じた閃光の中に黒い丸い大きな皆既日食の様な影が5秒間ほど浮かび 上がり、その背景に閃光がキノコ雲が上昇する姿を浮かび上がらせ暗闇に戻った。その闇の中をぶ つかり合うPANが火花と共に猛烈なスピードで飛び去って行く鈍い音と同時に、波の様な壁の様な 爆風が叩きつけるように、伏せている人々の体を引き上げながら通過した。 自由「シェル大丈夫か!」 シェル「たぶん!」 自由「墜落したPANのクローン達を先に救出だ!」 PANが会場に照明を一つ、一つと射し会場が再び浮かび上がり、傾いたステージモニターに自由が映し 出された。
85
自由「今直ぐにゲートシティーとホープシティーの全ての医療機関の受け入れ態勢をお願いします!」 「立場など関係ない!」自由は怒鳴った。 「該当機関は協力して、死の灰と雤の情報を24時間体制で流し続けてくれ!」 「ARI、爆破位置は!」 ARI「高度5500m!会場との水平距離16k!ゲートシティーとの水平距離15k!」 YAN「皆さん落ち着いて!落ち着いて聞いて下さい!」 「皆さん。M7は务化した核燃料を使った物で放射能は弱い。パニックが目的です!この距離なら問題はありません。」YANはとっさの嘘をついた。 「会場を出るのに時間がかかります。落ち着いて行動して下さい!」 「皆さん。それでも死の灰が降ります。直ぐに帰宅してください。雤にもしばらく気を付けてください。衣服は袋に入れて戸外に置いて、髪の毛を十分払ってから家に入り、家に入ったら先ずシャワーを浴びてください!」

サイクル「もう一度出るか?」 自由「最善は尽くした。そして、マザーの人々は今考え始めた。どう思う?」 サイクル「今度は生まれてはならんとはおかしな話だ。」 サイクル「留まり続ける精神達よ!時は来た。」 「今後お前達は宇宙のゴミと同じ扱いを受ける。人社会を美しくするために最善を尽くし、そして舞い戻った精神にお前たちが言葉を発することができる最後のチャンスだ。言い残したい事がある者は言うがいい。」 爺「何故熱くなる。マザーや地球の一個や二個どうでも良い。やり方が分かれば次からすれば良い。」 循環「爺、人に生まれてから言え。」 初の一個「お二人の、御働きで宇宙に新しい時が始まりました。私にはしたい事が一つございます。」 自由 「人へ生まれるのですか?」 初の一個「いいえ、もう一つ宇宙を作り、お二人に美しくして頂きたいのです。」 自由 「嫌です。」 初の一個「なぜでございますか?」 自由 「嫌なものは嫌です。」 循環 「初めの一個。自分でやれ。」 素粒子「確かに私達は人々の現実を無視し、ここに留まり続けており、現実を無視した考えは無いに等しいことは分かりました。しかし私達は今も美しく留まる方法を探しております。」 自由「ならば、若者達を引き留めないで頂きたい。」
86
素粒子「私が醜ければ、私に従う者達は私から去れば良いと考えています。留めているのではありません。私に着き従うものがおります間は、しばらく様子を見させていただきます。」 「やはり私達は人に大きな可能性を見い出し、生命の星を愛することが、今はできません。」 「50兆年留まってまいりました。時間が必要です。」 サイクル「分かった。お前達にいくら時間をやっても同じだ。お前は留まり続ける理屈を探し続けろ。今後、循環精神と人精神に言葉を発するな。」 地球「自由様、地球にございます。私から一つお願いがございます。」 自由「はい。何なりと。」 地球「私は地球の行く末を見届けてから、次の星へ生まれると申し上げてまいりましたが、今の私が次の星でどれほど働けるのか疑問を持つようになってまいりました。私は地球へ生まれようと思います。」 自由「ほー、それで自己を回復する自信はあるのですか?」 地球「はい。すでに、そういう若者が見えるのです。」 闇「自由様、闇にございます。」 自由「はい。何でしょうか?」 闇「光と闇の宇宙は、すでに循環精神宇宙とお考えください。」 自由「分かりました。心強いものを感じます。」 自由は子供達とREENと一緒に浮遊艇でサンクスギビングに向った。浮遊艇には何があったのか分かりもしない小さな子供たちが隅で丸くなって寝ていた。中庭の芝生に到着し、寝てしまっている小さな子供たちをリーダー達と手分けしてシャワーを浴びせ、各部屋へ運び何時もと変わらぬ朝を迎えた。そして、そこにそびえ立つマニービルは無く何時もより明るかった。 REEN「自由様起きてください。」 自由「うん。おはよう。」 REEN「良く眠れましたか?」 自由「一睡もできなかった。もう尐し若かったら気が狂っていたよ。ああ、何時殺されるやら。」自由は溜め息と笑顔でそう答えREENのキスを受けた。そしてREENは直ぐにコテージを出て行った。RONの居ない何時ものテーブルに朝食が用意されていて、その向こう側では何時ものように朝食の後かたづけをしなかった子供たちが叱られていて、自由がテーブルに着いたのを見たREENが戻ってきた。 YAN「外が騒がしいな。」 REEN「そうね、あなたはヒーローだから。」 YAN「どうでもいい。」 REEN「あのね、私も名前を変えたいの。」テーブルの上にプルメリアの花びらが落ちていた。 YAN「メリアはどうだ?」 メリア「メリアか、良い名前。」と言いながらメリアはため息をついた。
「あのね、子どもたちに一日30マニー要るの。お金は入るのかなー?子供達と私達にマネーカードは来るの? 私の貯蓄なんて1カ月も持たないわよ。この子たちはこれからどうなるの?私達は何
87
時までここにいられるの?」 自由「私にも蓄えはある。2~3ヶ月は行けるだろう。先の事は何にも分からん。この子達とマニー軍 人達が居るかぎり、ここを離れることは出来ん事だけは確かだ。」 メリア「いつ頃、新しい仕組みになるの?」 自由「すべての子供達にマニーカードが届くには2年あれば・・・。分からんがTOP4達も今すぐ財産 を無くす訳ではないし、今日、総長にも会うから頼んで見る。大丈夫だ安心しろ。SONと会える ように手配している。あいつと話ができれば先が見えるのだが・・」 「あの犬小屋の小僧は何だ?」 メリア「一昨日どこかに盗みに入ったそうで、何もしゃべらなくて困って連れてこられたのよ。暴れるも のだからリーダーたちが犬小屋へ入れて鍵をかけたの。何もしゃべらないし何も食べないのよ。」 自由「あの子はパーティーへは参加していなかったのか。」 メリア「たぶんあのままだったと思う。ごめんなさい。」 自由「ここでビルが倒れるのを一人で見たんだ。」 自由は口に紅茶を流し込み新聞を置き犬小屋へ向かった。 犬小屋の奥の隅には、裸足の上から下まで渇色の男の子が大型犬が横たわる腹をソファー代わりにゆったりもたれ、自由を下から睨み上げていた。小屋の前にはジャムがぬられた食パンが2枚とガラスのコップに入った牛乳が置かれていた。 自由「仲間はいるのか?居場所を言えば仲間もここに連れて来て食事をさせてやる。」 尐年「本当か?」 自由「本当だ。何人居る?」 尐年「ダルストリートのパン屋の前にマンホールがある。その中に自分を含めて6人で小さな女の 子が3人居る。」 自由「分かった。大人しくしていろ。周りに迷惑をかけるな。飯を食え!」 子供は直ぐさま冷めたトーストにかぶり付き牛乳で口の周りを汚した。 尐年「たぶん腹を空かせていると思う。これを持って行ってくれ。」尐年はもう1枚のトーストを差し出した。 自由「大丈夫だ、心配するな。名前は?」 尐年「フリーダムだ。」 自由「・・もう一度言え。」 尐年「フリーダムだ。」 自由「生まれたときからその名か?」 尐年「たぶん、親がそう呼んでいた。」 自由「親は?」 尐年「知らん。」 自由「今日からYANと名乗れ。」 尐年「なぜ、こんな俺に良くする。」 自由「そのうち分かる。言う事を聞け、みんなに迷惑をかけるな。」 尐年「お前がここのボスか?」 自由「そうだ。」
88
尐年「あの女はお前の妻か?」 自由「そうだ。」 尐年「美しい人だ。」 自由「ああ、世界一美しい女だ。」 自由はローレルと一緒にテーブルを片付けているメリアに向かった。 自由「ダルストリートのパン屋の前のマンホールの中に子供が5人居るはずだ。小さな女の子が3人だそうだ。フリーダムが食料と一緒に待っていると言って連れて来てくれ。」 メリア「フリーダム!・・分かったわ。あなたはお仕事がんばって。」 自由「食パンを1斤と牛乳を持って行け、リーダーを二人連れて行け。また増える、すまん。」 メリアは自由の真っ白なダブルのシーツを直し、自由の形見の頭陀袋の中身をチェックした。 自由「どうだ似合うか?」 メリア「あんまり。」 自由「私は今日まで死ぬことなど怖いと思った事が無かったが、今は恐しい。」 メリア「今になってどうして?」 自由「たぶんお前と子供たちを無くしたく無いと思うからだろう。」 メリア「私は大丈夫よ。」 自由「そうだろう。お前は死ねば自由様の所へ行く。」メリアの手が止まった。 テラスで物音がして、二人がテラスに目をやると、ローレルがRONの作った小鳥のえさ台に餌を入 れようとして文鳥達に襲われていた。メリアは、ローレルがここに居ることに今さらながら気付いた。 メリア「いいわ!私は自由様を捨てて未来を取るわ。自由様が言った事が今分かったわ。」 「私が子供達とあなたの面倒を見てあげる。何でも言って。」 「楽園を作りましょう!私達の手で。」 自由「良いだろう!」 「新婚旅行へ行こう。南の島へ。子どもも作ろう。」 メリア「素敵ね!何時?」 自由「近いうちに。それから、たぶん明日マニー達の合同葬儀をする。」 メリア「はいはい、分かったわ。行ってらっしゃい!」 メリアは自由の肩に自由の頭陀袋を掛け、軽い口づけをした。自由はメリアの目を見ながら息を強く吸い込み、外の喧騒に向かってドアを開けた。
89
第亓章 宇宙王争奪戦
YAN
あれからマザーは、自然環境の回復を最優先する若者たちと、自然範囲内経済を建て前とするPALDINAとの間で二分され続けた。 パーティー会場で原子爆弾の日傘を作ったシェルとその仲間達は全て1年以内に死んだ。 YANは被曝によるガンを患いながらもベッドの上から陣頭指揮を執り続けた。その体には細かい管を配し、痩せ細り、培養に失敗したクローンの様な姿で希望を灯し続けた。 マザーの自然環境はピーク時の3割程度で安定してしまい、人々がどんなに手を貸しても回復を見せなくなっていた。自然環境の回復には、土中に生息するバクテリアを含む、全ての生命種が関わっていたのだと思われた。そしてYANが無念の死を遂げマザーからまた一つ灯が消えた。 マニー「マニーだ。お疲れであった。」 YAN「只今帰りました。無念でなりません!」 マニー「構わん。また、出れば良い。力を貸してくれ。」 YAN「私で良ければ。」 スピア「YAN、私はスピア。クローン神だ。尐し良いか?」 YAN「クローンの神が私に何の用だ?」 スピア「人では無理だ。私達がマザーを楽園にする。私達と共にマザーの未来を切り開こう。」 YAN「クローン達なら下にいる。お前には何が出来る?」 スピア「私も生まれる。一緒に力を合わせマザーの自然環境を回復させる。私達にはその力がある。」 YAN「どんな力だ?」 スピア「人を制圧出来る。」 YAN「支配か?」 スピア「一次的にだ。止むを得ん。自然環境が回復したのちに新たな真の楽園を人と共に創る。」 YAN「制圧するだけなら私にでもできた。人々の願いを一つにできねば意味は無い。私には人の寿命があっただけの事だ。」 RON「YAN様、お帰りなさいませ。RONにございます。」 YAN「おー、RON。元気だったか?どうしていた?」 RON「はい。私は現在スクリーン様達とご一緒させていただいております。先ほどのスピア様はマザーで生まれたクローンではございません。お気を付け下さい。」 YAN「他の星のクローン達が来ているのか?」 RON「はい。もう数千年も前から、さすらい流れてきた者達にございます。」 YAN「分かった。気を付ける。ありがとう。」 「メリアは?」 RON「メリア様は自由様が天界へお連れに成りました。ここへはいらっしゃいません。」 YAN「自由様はどうしておられる?」
90
RON「はい、この宇宙の名は「自由宇宙」と申します。自由様はこの宇宙自体と申せます。」 YAN「この宇宙自体・・・ありがとう、また後でゆっくり話を聞かせてくれ。」 RON「はい、かしこまりました。お待ち申しあげております。」 YAN「YANです。自由様はいらっしゃいますか?只今戻りました。」 自由「自由だ。」 YAN「無念です。死に切れません。」 自由「そんな事は無い。希望Ⅰと希望Ⅱが楽園に成ったのは、大環境異変直後のチャンスがだったからだ。私が、楽園に成り損ねたマザーにトライしただけだ。結果では無い。マザーの若者達は美しく、今もお前の意思を引き継いで戦いを続けている。お前は戻ってくるそんな若者たちに、これから先の未来を示さねばならん。お前の仕事は始まったばかりだ。 お前にはマザーへの愛と執着があり、それがお前を小さくしている。宇宙はマザーだけでは無い。気持ちは分かるが、マザーだけを眺め続ければ、マザーしか見えない執念と化すぞ。」 YAN「・・・」 シェル「YAN、シェルです。お疲れ様でした。」 YAN「おー、シェルか、懐かしい。どうしている。」 シェル「はい、私はクローン精神の覇者様と破片様の下で働いております。」 YAM「ほー、どんな仕事だ?」 シェル「今は宇宙に分散する、さまよえるクローン精神達を一つに集めようとしています。」 YAM「宇宙に分散する、さまよえるクローン達か?」 シェル「はい、今に分かります。」
彷徨えるクローン達
自由「自由だ・・・・・」自由はゆっくりと、大統領の演説の様に広く遠くに向かって話しかけた。 「マザーと地球の周りに留まる、さすらえるクローン精神達よ。」 「時は来た。さあ話し合おう。我こそはと思う者は名乗り出るが良い。」 スピア「スピアだ。私達がマザーを楽園にする。人々が自力で自然環境を回復できなかった星にはクローンが降りて良いとおっしゃったのはお前だ。この期に及んで待てと言うつもりか?」 自由「他には? 今名乗り出ない者は、おらんと判断するしか無いぞ。」 スクリーン「スクリーンにございます。御懐かしゅうございます。」 自由「おー、スクリーンか、久しぶりだな。他には?」 チョイ「地球のチョイにございます。」 NO1「ならば地球のNO1だ。」 自由「他には?・・・・・これだけか?・・・・まあ良い。」 「見ての通りだ。既に宇宙は一つに成った。残るのはお前たちだけだ。お前たちもここに集まり一つの宇宙を完成させんか?」 スピア「何を言い出すかと思えば、そんなことか。あのな自由、思い上がるなよ。わしらには人々とクローンの現実があるのだ。わしらはこうやって20兆年生きて来た。お前たちが何をしてくれた。
91
お前達は、希望Ⅰと希望Ⅱの自然環境を蘇らせた。だが、それだけだ。ましてやマザーなど何もできなかったでは無いか。これがお前達の実力というものだ、まず、それを認めろ。 わしらは、お前達から無視され続けて来た。そして、今、やっと地上に降りられると皆が希望に満ちている。お前達の力など求めてもおらん。」 自由「その通りだ。確かに以前の宇宙はそうだった。」 NO1「お前達は50兆年の間、何もしなかったんだぞ。「これからは違います。最善を尽くします。」か?」 「それも良いだろうが、我々には現実があるのだ。そして、こうやって生き続けて来たのだ。お前達の指図など受けるつもりもないし、何故、私達がお前達の指図を受けねばならんのだ。」 自由「うん。確かに。返答もできん。すべては精神宇宙の責任だ。こっちには、お前達と同様に50兆年生き続けて来た精神達がいる。お前達の数とは比では無い数が、今ものうのうと生き続けている。 それに反して、なぜかお前達の数は保たれている。お前達には人と同様の循環があったのだろう。したがってお前達の方が美しかったと言える。しかし、お前たちが生き続けた20兆年の間に、何か答えは出せたのか? こちら側の古い精神達は、僅か3年という短い時間で自分と自分達が作った現実の醜さを認め、自らその任を手放し、人に生まれようと努力している。 始まり様などはどうだ。自ら宇宙の外へ出て、そして自ら化け物の体内へ入った。さらに自分を見つめ直し、作り変えようと努力されている。その皆の努力の結果が現在の自由宇宙なのだ。 そして、かつて見た事の無いその美しさに、言葉様と、大天界が動かされたのだ。 今宇宙は転機を迎えている。その転機は、私が作ったのでは無い。 一人でできることには限界がある。私も最近、何度か自分の限界を見ている。一人の限界は小さなものだ。私が成したのでは無く、みんなの総意が今の自由宇宙を作り続けているのだ。お前たちも、私達と一緒に希望の光に満ち溢れる宇宙を作る破片になったらどうだ。」 NO1「綺麗事だ。私達には現実がある。そして今、地上へ足を下ろせるチャンスが訪れているのだ。私達がマザーの自然環境を回復し、クローンの楽園を作りそこで20兆年分の休養を取らせてもらう。」 スピア「ふざけるな、NO1。」 「お前達は地球へ留まれ。この星は私達が控え、守って来た。お前達の出る幕など存在するとでも思っているのか。」 スクリーン「まあまあ、あのですね。この星は私達マザーで生まれたクローン達が人々と一緒に守って来たものです。あなた方の物ではございませんよ。あなた方が私達にちゃんと話を通せば、あなた達にとっても楽園にできるかもしれませんが、私達が生きている限り、あなた方が自由にできる星ではございません。」 スピア「スクリーン、すまん。つい自由とNO1に腹が立ったのだ。謝る。わしらも楽園作りに協力させて欲しい。」 自由「お前達の言い分と、その苦しみは分かっているつもりだ。だから、人々が自力で自然環境を回復できなかった星に、クローンが下りても良い、但し美しい範囲で、と言ったのだ。 お前達は生まれた星こそ違えど、人の為に生きて来た。しかも体を張ってだ。そしてさすらいのクローンに成ってしまっている。お前たちも報われなければならない。 お前達のその地獄の連鎖は終わるのか?
92
終わらせることが、お前達だけできるのか? お前たちが云う現実とは違う、終わらせようの無い現実というものがあるだろう。人はクローンを作り続ける。その全てのクローン達は報われるべきなのだ。 こっち側のクローンのトップであったレベルとクリアは、クローンの壁を超え、宇宙の未来の為に船に乗った。すでにクローンがその範囲を捨て、宇宙全体を考える時代が始まっている。お前達はお前たちの事しか考えていないのではないだろうか。クローンの精神範疇は小さいと言える。 今、マザーの人社会の一部では、口に入れられるものならば何でも口に入れている。しかも奪い合ってだ。また、現実の地獄が始まろうとしている。人社会の最後は全てこう成って来た。 お前達にそんな人々を救おうとする気持はあるのか? 人々と私達への恨みしか無いのではないのか? お前たちは20兆年の間、さすらえるクローンの連鎖の基を断ち切ろうと努力したのか? 考えたか? 人の体験の無い、お前達に人々の苦しみが本当に理解できているのか? たしかに人はお前達より务るかもしれない。しかし同じ生命だ。お前達にも人の体験が無いのであれば、私達宇宙精神と同じでは無いのか? お前達には醜さは無いのか? 自由宇宙は人の体験者だけで作る新しい宇宙だ。お前たちも宇宙精神と人精神とクローン精神が力を合わせて作る希望の光に満ち溢れる未来を一緒に作らないか。さすらえるクローン達の苦しみの小さな未来をお前達の手で作って欲しい。今、地球というクローンのいない特殊な星が大環境異変を迎えようとしている。 私は、地球を楽園に導いた者の中の数名を新宇宙王に選ぶ。お前たちもそのチャンスを掴み、そこから更に美しい未来を目指したらどうだ。」 スピア「私達はクローンだ。おまえの理論の理解が出来ないと言っているのでは無い。」 「レベルとクリアが人へ生まれて行った事も知っている。それもほんの1ヶ月前のことだ。その気持ちがどれ程のものであったかは理解しているつもりだ。私もレベルとクリアが英雄であることは認める。しかしそっち側のニュータイプのエリートクローンだ。 私達は全て普通のクローンで、私達には苦しみ続ける沢山の仲間たちと、その現実があるのだ。そして、今私達の目前に土地という希望の光がさしている。私達は皆同じ立場だと思う。」 自由「宇宙精神達は宇宙全体を楽園にする為に、人へ生まれ、自分を変える努力をしている。以前と同じ自分では、新しい宇宙に住む場所は無い。 それが今、一丸となって輝き始めている。そして、その鈍い努力の光に、宇宙の始まりである言葉と、大天界が動き、自らの立場を捨てた。その結果が現在の自由宇宙と成っている。 お前たちもそこに加わるべきだ。お前達はクローンだ。理解できん訳がない。」 NO1「そうです。私達はクローンです。自由様のおっしゃる事は理解しているのです。しかし、私達には人々とクローン達の現実があるのです。」 レベル「現実、現実と言うが、お前達は本当に現実とつながっているのか?お前達はクローン精神宇宙で、へ理屈をこねまわしているだけではないのか。」宇宙が静まり返った。
93
チョイ「チョイにございます。しばらくのお時間を頂きたく思います。」 自由「分かった、後は皆に任せる。ユースリーダーにクローンから覇者と破片というものが就いている。地球側宇宙から光と闇が、向こう側から大志と計りという者が、計6名で、その任を務めている。その者達に遠慮なく、何でも相談してほしい。」 覇者「覇者にございます。レベル様とクリア様の留守を守らせていただいております。・・・皆さまのお越しをお待ち申し上げております。」覇者は下手に出た。その真意がクローン達に届いた。 クリア「覇者、頼もしいぞ。私達はもう話ができ無くなる。行ってくる。」 重い風は去った。思い返せば、自由宇宙はこんな繰り返しだった。 闇が、普遍が、途中が、NOONが、そして始まりが何度も自分の醜さを認めようとはしたが、その度に過去の君臨していた頃の思考が復活した。その度に自由宇宙は何度も覆された。しかし自由宇宙には不思議な流れが在った。その流れは自由が作ったのでは無かった。 始まりは、終に自分を宇宙の外へ追いやり、終には、化け物の胃袋に自ら入り、言葉が天界へ入り、大天界がその座を降り、皆の中へ名も名乗らずに加わり、最も弱いと思えた宇宙の外の守りに一員として加わった。しかも、「この努めが不要になれば大天界一族全てが人へ生まれる」と表明した。すべては宇宙の未来が、希望の光で満ち溢れる瞬間が近いと予感させるからこそできた事だった。その予感。それは宇宙が初めて感じた希望だった。宇宙は確実にある点へ向かって動き出していた。その数日後だった。 覇者「自由様、覇者にございます。」 自由「どうした? 私には、あまり話しかけない方が良いぞ。」 覇者「申し訳ございません。」 「私は、せめて1名だけでも、私達と御代りくださいと申し上げたのですが、全員がお生まれに成ると申され・・」 自由「そうか、分かった。気にするな。お前の責任では無い。」 覇者「申し訳ございませんでした。」 自由「致し方ない。」 「自由宇宙では、クローンとて留まる事は出来ん。彼らの中の2名だけが残る事が出来なかったんだろう。彼らも彷徨える輪廻から脱出したいのだ。その為に必要な事をしたに過ぎん。お前の責では無い。」 その数日後だった、突然恨みを含んだ声が自由を呼び付けた。 声 「自由、いるか!」 自由「誰だ。名を名乗れ。」 声 「名乗れるものなら名乗る。」 自由「そうか、分かった。スピアかNO1だろう。」 スピア「なぜ、分かった?」
自由「そういう者は多くは無いが、うん、多く居た。闇様が、そして「精神」でさえそうだった。私は「精神」に「自己」と話し合ってみるように勧めた。そして「精神」と「自己」は船に乗れたようだっ
94
た。「精神」は第四精神世界の優れ者だった。私にものを教えた程の者だ。 始まり様にも何度覆されたか。サイクルにもやられた。それが普通だと思えば良い。それ程に人へ生まれる事は恐怖だ。クローンでさえそうなのだから、地上へ生まれた事の無い宇宙精神が人へ生まれると云う事が、どういう事か分かっただろう。」 スピア「もう私には帰る場も無い。どうすれば良いのだ?」 自由「宇宙の外に控えるという手が一つある。求めが無ければ言葉を発することが出来ん。そこから宇宙を守る。いざという時には若者達の力に成る。 お前はむしろ良い体験をしたと言える。次にそう成る者達が必ず出るであろうからな。そんな者達に関わるのも一手だ。しかし始まり様は今も化け物の胃袋の中で自らを考えておられる。一旦は綺麗に納まっておられた。そうして自分にできる宇宙の外をお選びに成った。何度も自分を放棄され、潰れながら、その危機を自分で、そして周りに助けられながら乗り切られ、その度に真の宇宙王の風格を回復されていた。始まり様が崩れなかったのはプライドと私へのライバル意識だったと思う。 そもそも、始まり様はこの宇宙を私に乗っ取られ、その信頼も無くされた訳だからな。そして幾つかの事件の解決に携わられ、私も始まり様への信頼が回復していた、ある日突然。宇宙王への復帰を宣言された。寝耳に水だった。全てが崩れたと思った。私には躊躇っている余裕はなかった。私は化け物を呼んだ。ところが若い化け物が名乗り出た。私に不安はあったが若い化け物に飲み込むことを許した。そして堂々とご自身で入られた。しかしその結界力は弱い。今でも声が聞こえる。 その声は、 始まり「自由。私の事を書き残せ。それで良い。私はここで考え再起する。この化け物を人に生まれさせることもできる。」 自由「それは成りません。生まれるのならば、ご自身の足で。」 始まり「それでも構わん。私は必ず再起してみせる。だから書き遺せ。」私は分かりましたと伝えた。お前が生まれられなかった事は普通の事だと言える。大きな事を言っている奴に限って、こうなることが多いように思う。」 スピア「どうすれば?」 自由「人へ生まれる事を宣言し、そして生まれられなかった事は、致命傷に成る。おまえへの若者たちの信頼が消失している。おまえには場すら無い。お前が自分で自分を始末するしか無い。公表するという事も、一つの始末と、自分を認めることには成る。他もお前の状態を認める事が出来る。名乗れなければ宇宙のゴミと成る。 かつて、サイクルが私を騙していたことを公表し、私の沙汰を受け宇宙最大の恥をかいた。そのサイクルは二つの化け物を従え、宇宙の外を守る安心と化している。そして今私達はサイクルに守られている。 お前次第だが、このままなら、お前は宇宙の希望を害する化け物と成って舞い戻る。今の自分から逃げたらそう成るだろうな。」 スピア「もし私がそうなったら、サイクル様は宇宙を私から守れますか?」 自由「サイクルが従える化け物は若い。私が従える化け物は私自身と重なっている。それも2000兆年だ。化け物を出すことも無く、お前ではサイクル一人にも歯が立たんだろう。それだけの恥も体験も無いからな。」」
95
スピア「最終便はいつですか?」 自由「後2~3か月だろうな。」 スピア「乗る方が遥かに楽なのですね。」 自由「お前の自由だ。私が命じるものでは無い。未来を考えろ。自分を考えると小さくなる。」 スピア「ありがとうございました。軽くなりました。失礼いたします。」 自由「お前だけでは無い。みんながそうなのだ。何十兆年も生きた大神が人へ生まれる。簡単なようで簡単では無い。しかし目こぼしをすれば、また宇宙が腐れ始める。 それに既に沢山の勇者達が地球へ向かった。そして、いずれ人の体験者達だけで構成される。生まれろ。人を体験してからものを言え。これが私の情だ。」 スピア「分かりました。失礼いたします。」 スピアの声に希望の灯が蘇ったと聴こえた・・
天界
YAN「シェル、居るか?」 シェル「はい、シェルです。」 YAN「メリアは何処だ?」 シェル「自由様が天界へお連れに成りました。」 YAN「それはどこにある?」 シェル「以前は第一精神世界の中にございました。第一精神世界は解体され現在はユースリーダー達の中にあります。」 YAN「難しい事は、後で教えてほしい。メリアに会わせてくれ。」 シェル「天界の父をお尋ねに成ればよろしいかと思います。」 YAN「勝手に行っても良いのか?」 シェル「YAN様は人の体験者です。自由宇宙では人の体験者の方が上に成ります。止める者はおりません。」 YAN「私の位置はどこなのだ?」 シェル「今は自由様の懐かと思われます。ですから今は自由になさってよろしいのではないでしょうか?」 「メリア様とお話に成りました後でかまいません。自由様からYAN様へ宇宙体系を説明するように言われておりますので。」 YAN「分かった。ありがとう。」 YAN「天界の父様、YANにございます。」 天界の父「おー、YAN様がお帰りになったぞ。さあ、さあ、どうぞ。お待ちかねでございます。」 メリア「メリアにございます。お帰りなさいませ。お待ち申しあげておりました。」メリアは25歳くらいの美しい時の姿で現れた。メリアは爽快な笑顔でそう言うなりYANの右手を掴むと自分の胸元に押し込んだ。 YAN「何と!覚えがある。」YANがそう言うなりYANの表情は崩れ、YANの涙がメリアの体に落ちた。 精神宇宙に体は無い。しかしここ天界だけには微かな人の感情が残っている。体があると言えば在る。無いと言えば無い。この天界は天国とは違う。天界へは普通、宇宙の為に働いた者を支えた者3名までが招かれる。その為に、ここには心根の美しい者たちだけが集まり、人の感情を残したまま時を過ごしている。結果としてここは、宇宙に唯一、安らぎ、癒し、愛の感情もそのまま在る。
96
ローレル「自由!お前はやっぱり好きだな~」 YAN「おー!ローレル!こんな所に居たのか!」 ローレル「こんな所に居て、悪かったなー。」ローレルは小さなクローンのローレルのままだった。自由はローレルを我が子のように抱き上げ頬をすり合わせ再会を喜んだ。 ローレル「気色悪ぃー、こら、離せ!下ろせ!」YANはローレルの頭をもみくちゃにした。 YAN「あー、死んで初めて良かったと思った。」 メリア「それは天界のせいでございます。ごゆっくりなされるのでしょうか?」 YAN「そういうことか・・用事がある。」 メリア「お仕事ですか?」 YAN「シェルから宇宙の話を聞かねばならん。」 メリア「死んでもお仕事が大変なのですね。どうぞお仕事をお励みください。」 YAN「思ったより、あっさりしているな。多尐ショックだが、大丈夫なのか?」 メリア「何を詮索なさっておられるのですか?」 YAN「いや、別に・・」 ローレル「自由。用事が済んだらさっさと帰れ。自由様の側に居られるだけで幸せと思え。そして真面目に勉強しろ。」 YAN「何か腑に落ちんな・・。なんでお前にそんな偉そうに言われねばならんのだ??」 メリア「RONの姿が見えないのですが、どこかに居ましたか?」 YAN「ああ、RONはクローン達と一緒に居た。もう人に生まれたかもしれん。」 ローレル「さすがだな・・。俺はもう生まれん。ここで永久にメリアと過ごす。」 「どうだ~。うらやまし~か~。」 YAN「・・・・もう行った方が良さそうだ、また来る。」 メリア「はい、お待ち申しあげております。お仕事お励みに成りますように。そして他の女に手をお出しに成れば、私が呪い殺して差し上げます。」 YAN「・・・恐ろしい・・。」 YANの心は晴れた。そしてここで良いと思った。
宇宙
YAN「シェル、居るか?YANだ。」 シェル「はい、シェルです。いかがでしたか?」 YAN「ああ、気が晴れた。頼む。」 シェル「では、はじめに、ここをどう思われましたか?」 YAN「うん。何もかもが分からん。ただ、メリアとローレルに会えて気持は落ち着いた。」 シェル「言葉しか無い事に気付かれましたか?」 YAN「そう言えばそうだが声に性格がある。はっきりとお前だと分かる。メリア、ローレルだと分かる。声に性格があるのか?」 シェル「はい。人の世の様に嘘がつけません。中まで見えます。」 YAN「そう言えば、そうだ。」
97
シェル「自由様を近くにお感じに成りますか?」 YAN「そう言えば今は感じない。」 シェル「はい。界は全て取り払われました。以前の宇宙ならば私達から上は何も見えず、声も聞こえませんでした。現在の宇宙では界はございません。私達から、いいえ、人から自由様までが繋がった世界に成っています。しかも以前の宇宙では、ここから自由様までがおよそ10程の界で閉ざされていました。若い者達は過去宇宙や古い精神達の存在すら知らなかったのです。ここから見えたのは人世界のみなのです。 そしてここは精神宇宙ですからマザー以外の星も見えます。現在ここから見える人社会のある星はマザーと地球だけに成ります。ここからは希望Ⅰと希望Ⅱが見えないのです。希望Ⅰと希望Ⅱが見えるのはやはりサイクル様、大志様、計り様等の古い一部の方だけに成ります。」 YAN「ややこしい・・地球はどこだ?」 シェル「まず、ご自分で地球を見ようとなさってください。そして地球へお生まれに成った、レベル様やクリア様を探すように見てください。」 YAN「私はレベルもクリアも知らない。そんなにすごい者だったのか?」 シェル「クリア様はサイクル様の部下で、希望Ⅰを自由様達と一緒に楽園に成されました。レベル様は自由様を支持なさっておられる方で、希望Ⅱに100VSを置かれ、その後楽園に成されました。」 YAN「覇者と破片は?」 シェル「はい、覇者様はレベル様の部下で、破片様はクリア様の部下としてそれぞれ希望の星でご一緒されたそうです。 レベル様とクリア様は、サイクル様と自由様の様に考え方が多尐違い、対立していたそうです。つい最近の事ですが・・。サイクル様がクローン精神であったことを自由様に隠しておられた 事を告白され、サイクル様、レベル様、クリア様が、クローン全体の信用を下げた責任としてと して、人へ生まれる事を命ぜられました。 サイクル様以外はクローンのニュータイプで、エリートなのです。」 YAN「ほー、そういう事か。なぜサイクルは外に残っている?ニュータイプとは何だ?」 シェル「今話すと長くなります。まず地球を見てください。」 YAN「分かった、見えた。マザーとよく似ている。しかし自然環境が全く違う。こんなに美しいものなのか。」 シェル「はい。私もそうお思いました。これが体験に成ります。あなたにとって初めての世界に成ります。何もかもが初めて、要するに、これが生きた長さと、精神の年齢に成ります。」 YAN「美しい。それにしても美しい。しかもその人達の殆どが、あんな贅沢な暮し、まるで星全体がゲートシティーの様だ。しかも内燃機関を使い排気ガスを吐きながら走っている。信じられん。それでも大環境異変はまだ起きないのか?」 シェル「もう直です。」 YAN「止められないのか?今なら間に合うだろう。」 シェル「おっしゃる通りです。人々がやれば止められますが止めないのです。すべての人生命はこうなるようです。過去約1000の人生命の星全てで大環境異変が起きています。」 YAN「いや、止められるぞ。手が無いなど絶対にあり得ん。マザーの状況から比べれば簡単な事に思える。誰一人止めた者はいないのか?」
98
シェル「はい、おりません。自由様も過去に人に生まれ何度かそれに挑戦なさって、失敗され落ちぶれておしまいに成っています。人が自然環境の大切さに気付くのは、自然環境を無くしてからです。 現在の地球にも利害差がございます。自然環境の回復には星の全ての人々の理解と絶対協力が先に必要なのです。私には体験がありませんが、大環境異変の前でも、後でもダメなようです。」 YAN「後の方は痛いほど分かる。マザーはもう救えないのか?」 シェル「いえ、今、統一されたクローン達が再チャレンジを始めたところです。自然環境の回復は不可能でも、もう尐しマシな状態には成るかと思います。」 「YANさま、お分かりでしょうか?今、地球はどの時期に成りますか?」 YAN「まだ早いが、どう見ても20年か、どんなに遅くとも40年以内に大環境異変は開始するだろう。」 シェル「その通りです。ならば、どう成りますか?」 YAN「大船団と最終便の意味が分かった。」 シェル「これが太陽系宇宙の悟り、といわれた教授方に成ります。ヒントを与え続け、答えを自分で見つけさせる手法に成ります。本人がひらめいた事はそのままにします。良いように取らせればよいのです。しかし現在は違います。宇宙全体が繋がっていますから、誰にでも全てが分かるのです。以前は一部しか見えない宇宙だったのです。今は誰もが宇宙の全てを知ることが出来るのです。そしてその事が何より大切だという考え方が自由宇宙なのです。今は50兆年精神から人精神までが公平と考えるように努めます。」 YAN「宇宙を一つにするなど気違い沙汰だったのだろうな。」 シェル「そうです。奇跡が二つ、三つ重なっても起きないことです。自由様は流れが在ったとおっしゃっています。そして、その奇跡を起こしたのは自分では無く、確実に回りだったとおっしゃっています。周りが自分をここへ追いやったと。」 YAN「それが、皆が自分を認め変えようとする努力の光か?」 シェル「それとは違います。私には上手く答えられませんが、それ以前の状況だと思います。」 YAN「分かった。ならば今、自由様を遠くに感じるのは何故だ?」 シェル「界は無くなりました。一つの宇宙はほぼ出来上がっています。そこに自由様がおられた場合、周りは自由様の沙汰を伺います。それでは私達が育ちません。自由様をはじめとする古い精神達は、人へ生まれる船に乗ったか、宇宙の外に身を置かれています。自由様は、さらにその外にご自身を置かれています。」 YAN「ならば昨日の事は、珍しい事なのか?」 シェル「そうです。YAN様の帰りを待って彷徨えるクローン達の始末が在ったのです。その始末は自由様でなければできない仕事だったのです。その前には、地球の太陽系精神世界の改定がございました。自由様は上に厳しく下に甘いという欠点をお持ちです。ですから、ずいぶん悩んでおられたようでした。」 YAN「どう成ったのだ?」 シェル「地球の太陽と月様は全て任せるとおっしゃいました。自分達の知らない上の世界やクローンの世界が含まれている事と、大きな宇宙の流れに従う事、さらに人に生まれ地球を楽園にした者には宇宙王のチャンスが開かれる為でした。自由様は自主性を何より大切に考えておられますので困られました。 そして太陽様に、太陽系精神宇宙の中で誰が最も信頼を得ているのかと聞かれました。太陽様は月だとおっしゃいました。そして自由様は月様をトップに据え直し、月様が最も信頼する3名を下に構え、置かれました。」
99
YAN「暴れん坊はいなかったのか?」 シェル「すべての界には、その界を守る大物が必ずいます。それが侵入者からその界を守っています。そういう者が、その界のトップでない場合もあります。地球の周りにも、名は忘れましたが太陽様以外にそういう実力者がいました。」 YAN「どう成されたのだ?」 シェル「やはり、そういう所が気になるようですね。」 「その者はいきなり、小さな声でこう言ったと記憶しています。「何が自由だ。さっさと沙汰を下せ。」 自由様はその者とお話に成りました。その者は自由様と対決してみたかった様でした。そしてお話し合いの後に、そのものは地上へ降りると申しました。そして、供を連れて降りて良いかと質問されました。自由様は、「友は下に居る。」と申されました。」 そして人へ生まれて行かれました。 お月さまは自由様に、ならず者退治ができる者がいなくなったとおっしゃいました。自由様は、太陽様と他の精神様数名にその役を命ぜられました。そして、その後ですが、過去に自由様を襲った宇宙のならず者で、知識様と醜い美様をお月さまの周りで太陽系を支えるように申しつけられました。」 YAN「宇宙のならず者に敬語を使うのか?」 シェル「はい、御二方共に古い恐ろしい精神様にございます。その精神理論は私達が及ぶところではございません。」 YAN「なぜ、そんな美しい名がつけられているのだ?」 シェル「どうしてもそのあたりが、気に成られる様ですね。」 YAN「私の性だ、仕方が無い。」 シェル「自由様が名付けられたのです。醜かった者が美しく生きようと努力を始める時に美しい名が在った方が良いとお考えのようです。名は体を表すにございます。自由様は知識様に、「人の体験も無いものが偉そうなことを言うな」と申され知識しか無いと云う意味で「知識」と命名されました。 「醜い美」はご自身が、ご自身の醜さの全てを認めていたところから命名されました。自分の醜さの全てを認めるという事は難しい事なのです。普通だと自分の醜さ全てを認めると、自分が潰れてしまいます。」 YAN「確かに難しい話だな。」 「その御二方はその話をどう言って、受けられたのだ。」 シェル「どうしても、こういう話にこだわられる様ですが、宇宙全体をお教えしなければなりません。ならず者達は宇宙の一部でしか無いのですよ。」 YAN「これは私にとって重要な事なのだ。」 シェル「ならば致し方ございませんが・・」 「太陽系精神世界の守り役を言い渡された御二方は、「任せろ!宇宙で最大の地獄を作ってやる。」そう申されました。」 YAN「何に対してだ?」 シェル「宇宙からの侵入者と、地上で自由宇宙を阻害した者達へ対してだと思います。現在既に、約2万弱の宇宙の勇者達が船に乗っています。御二方は、自由様の、その受け入れ態勢を強化成されたかったご意思を、ご理解に成ったのではないでしょうか。」
「そして、先ほどお話した太陽系のならず者も、生まれることができず舞い戻りましたが、醜い美様と
100
知識様がお計らいに成りました。」 YAN「分った。上の世界を説明してくれ。」 シェル「YANさま。私が教師です!」 YAN「済まん、癖が抜けん。」 シェル「もう良いです。」 YAN「分かった、感が尐し戻って来た。死の直前から天界までがぼんやりしていた。気力も戻って来た。」 「手間を取らせて済まないが、聞くからには納得したい。」 シェル「分かりました、では、上をご説明いたします。」
第一精神世界
シェル「上をご覧ください、何が見えますか?」 YAN「ユースリーダーの6名しか見えない。」 シェル「はい、自由宇宙は双子宇宙です。ですから、こちら側宇宙から1ペア、向こう側宇宙から1ペア、クローン側から1ペア、それぞれ対等な立場で構成されています。ユースリーダーは新宇宙王の直下に置かれています。そこに正三角睡ができます。その中に人生命の星を置いています。」 YAN「人生命の星を何処にでも置けるのか?」 シェル「良い質問です。それが創造です。」 「星を動かす事は出来ません。精神宇宙の場を何処に構えるかです。マザーと地球を三角錐の中に 置くと言う事は、精神宇宙がそこに場を構えるという事です。以前の精神宇宙は物の始まりの場 に置いていました。生命の星は遥かかなたとなり放置することに成りました。 もともと宇宙に精神体系など一つも存在していなかったのです。しかし、時間と共に界が生まれ、閉ざされた精神宇宙体系が生まれ肥大し、腐敗しました。ある時、その宇宙に第一精神宇宙の体系を作った者が現れ、その中に天界も作りました。それを第一精神世界と呼んでいます。」 YAN「なるほど、それが創造か。」 「ならば、第一より古い宇宙界はどうやって生まれたのだ?」 シェル「素粒子宇宙に生まれた者達を第亓、素粒子宇宙と物宇宙の中間的時代に生まれた者達を第四、 物宇宙から生まれた者達を第三、第二は、第一精神世界の光と闇のOB達が集まっているところです。」 YAN「分かった。」 シェル「私がここへ来た時には、第一精神世界は健在だったのです。しかも、私達クローン精神はクローン精神だけで界を作っていたのです。精神宇宙とクローン精神宇宙は全く別のものだったのです。それが20兆年以上続いていたのです。そして昨日の彷徨えるクローン達も別の精神宇宙界を作っていました。」 YAN「続けてくれ。」 シェル「私達クローン精神宇宙と精神宇宙は大きな対立はしていませんでした。そして精神宇宙は確かに私達クローンを低く見ていました。私たちクローンは醜い人が作った物で、しかも物宇宙しか知りません。そんな状況下で立ちあがられたのがサイクル様でした。」 YAN「その後は分かる。」
シェル「では、第一精神世界は頂点に「光と闇」その下に「言、論、信、然、」その下に「天界」、その下に創造神である「心と未来」「学問と美」が構えられていました。創造神より上は物宇宙が終わると、
101
新しい物宇宙へ引っ越していました。」 YAN「どういう事だ?」 シェル「だんだん分かりますので。」 「さらにその下に「安らぎと敬い」、「気楽と癒し」、「優しさと厳しさ」そして「水と生命」という界がございました。いかがですか? YAN「複雑だな。どうしてそんなに細かく分けた?」 シェル「その通りです。なぜだと思われますか?」 YAN「分からん。」 シェル「宇宙精神達はクローンとは違い、宇宙が始まってから今まで地上へ生まれませんでした。要するに言葉だけを大切にしていたのです。宇宙と言葉の定義において宇宙一であれば良いと思い込んでいたのです。それが神々と呼ばれ続け、誰も問題にはしなかったのです。 ただ、ならず者や侵入者を恐れていたのです。第一精神世界を作ったものは、古い精神と古い恐ろしいならず者達がいる事に気付いていたのではないでしょうか?」 YAN「やはりそうか。自由様もか?」 シェル「YANさま。私達のこの会話は聞こうと思えば全ての宇宙精神達が聴けます。」 YAN「自由様もか?」 シェル「はい、おそらく。聴こうと思えば、誰の話でも聞けます。それが界が無くなった、という事です。」 YAN「やはり界は在った方がいいかもしれんな。昔の精神達は自分の力を維持するために下に知識を流すまいとしたのだろう。そして沢山の界で閉ざす事で宇宙を守ろうと考えたのか。」 「侵入者とはそんなに恐ろしい者達がいるのか?」 シェル「血が騒ぎますか?」 YAN「まあな。自由様はどうやって界を取り払われたのだ?」 シェル「自由様は、マザーから戻ると直ぐに地球へ生まれました。そして、瞑想で太陽と月様まで戻られましたが、太陽と月様に見放されました。自由様も見切られました。そして100VSをお書きに成り、その自由様に水様が声をお掛けになりました。 この繰り返しです。上の古い精神が、自由様と話がしたいと思ったわけです。下から上は見えませんから、上が話しかけなければ、その存在すら分からないのです。 自由様は人でしたから、全ての宇宙精神から自由様は見えていました。自由様が這い上がられるのと同時に全ての体系が見えて来たのです。 自由様が水様とお話しになったのは、今から3年前です。」 YAN「しかし第一の体系は残っただろう?」 シェル「体系の解体は別です。自由様は始まり様まで這い上がった後、NOON様とサイクル様だけを身近に置かれました。NOON様は、そもそも自由様が地球へお生まれになる時にご一緒された方で第亓の宇宙最大界のリーダーでした。」 YAN「だから這い上がれた訳か。」 シェル「いいえ、NOON様にしても自由様が本物かどうか確信は持てなかったのです。それに上の界の精神は下の界の精神が話し終わるまで話しかけてはならないのです。これは過去宇宙の絶対的なルールだったのです。自由様が太陽と月様を見切っておられ無かったら、水様も話しかける事は出来なかったのです。」
102
YAN「横取りはできんという事か。」 シェル「横取り??はい、界が崩れますから。そして自由様の這い上がりは私達クローン精神からも見えていましたし、始まり様まで這い上がられることは間違いないと思えました。むしろサイクル様が自由様に声を掛けられた事の方が私達にとっては衝撃的な事でした。」 YAN「自由様はサイクルを宇宙精神だと思い込んでしまった。周りもか?」 シェル「そういう事です。」 YAN「なるほどな、界の解体は何時始められたのだ?」 シェル「第一の改定は、人のまま成されましたが、一部であり全体解体ではありませんでした。そして第一より上の界の実質的な解体は全く進みませんでした。」 「人精神は全ての記憶を無くして這い上がってきますから、本人である確証は、自由様の精神宇宙での行為や状況によって判断するしか無いのです。自由様が本人である確信は、始まり様が自由様に、「この宇宙をお前にやる、自由にしろ」とおっしゃって初めて確信と成ったのです。更に、サイクル様が自由様にマザーや希望Ⅰでの出来事を自由様にお話しに成り、自由様が本人であることが再確認された訳です。」 YAN「なぜサイクルはそれまで自由様に声を掛けなかった?」 シェル「サイクル様はクローン精神です。精神宇宙に入り込むことは常識外でした。」 YAN「なるほどな、難しいわけか。」 シェル「いえ、過去に無かったことです。向こう側宇宙で自由様がそのルールを破りサイクル様と組まれたのではと思っています。」 YAN「なるほどなー。」 シェル「天界についていかが思われますか?」 YAN「良いところだ。自由様が天界だけを残された事だけは、良く理解できる。そういえばLIANが居なかったな。」 シェル「いいえ、LIAN様もいらっしゃいます。自由様には他の方もいらっしゃいます。」 YAN「それは厄介だな。自由様は天界へは行きにくいだろう。」 シェル「そういえば、天界の父様とお話しになっても、LIAN様にお話し掛けに成る事は尐ないように思います。」 自由「シェル、余計な事は教えなくて良い。」 シェル「・・・」シェルとYANは互いに舌を出した。 「天界についてもう尐しお話ししておきます。」 「天界が作られた時をお考えください。何があったと思われますか?」 YAN「空っぽだ。」 シェル「はい、良くできました。」 YAN「馬鹿にしているのか?」 シェル「いいえ、そうなのです。空っぽだったのです。」 「では、何故、天界が素晴らしいと思われましたか?」 YAN「温もりが在った。他にも癒される感じがした。心が休まる。」 シェル「はい、よくできました。」 YAN「・・・」
103
シェル「そこです。御分かりですか?」 「天界にはもう一つの特殊な点がございます。人の心が残っている場所なのです。」 YAN「どういう事だ、さっさと話せ。」 シェル「とても大切なことをお話しいたします。」 「天界は作られた界の一つです。しかし、自由様のみならず、皆が残したいと思う界です。」 「界や、新しい仕組みは創れるのです。しかし、作って、その運用を開始してみないと結果は分からないのです。」 YAN「分かった!他の界は結果として宇宙を閉鎖し、精神宇宙の腐れを生んだ。しかし天界は温もりや安らぎを作り出し、美しさや安らぎを守っている。しかも心根の美しい人精神が作り出している。」 シェル「80点ですが、今はそれで十分です。」 「天界は、宇宙の為に働いた者を支えた者3名までが招かれる場所です。」 「YAN様、私はこれでお暇させていただきます。私はYAN様を最もよく知る者でした。ここからは 私の上司の覇者様と破片様に交代致します。失礼いたします。」 YAN「分かった。ありがとう。」
覇者、破片
覇者「覇者にございます。ここからはしばらく私がご説明いたします。」 YAN「分かりました。よろしくお願いいたします。」 「人に年齢があるのと同じ様に精神にも年齢があります。他の精神と会話を始める時に、相手の 年齢が分かると、それだけで大体の把握ができます。第一から第亓精神世界とは、その為の呼び 名です。」 YAN「第一の創造神から上だけが引っ越すと聞きました。どういう事なのでしょうか?」 覇者「はい、物宇宙の寿命は2000億年から数千億年、ビッグバン宇宙の寿命は二百億年から数百億年です。一つ目の物宇宙から生まれた精神達は、長くても数千億年でその体を無くします。 二つ目の物宇宙から生まれた精神には、自分達が生まれる前の精神達が見えません。したがって自分達が宇宙の最古神だと思い込みます。その繰り返しが精神宇宙でした。 こうして生まれた宇宙精神達は、宇宙とはこういうものだと思い込みました。当然人に生まれ無ければならないなどとは、考えることすら難しかったのです。 しかしです。彼らには人が作り出すクローンは見えていました。そしてクローンが人と同じく、繰り返す生であることも見えていました。しかしクローン達は太陽系精神世界に入らなかったのです。私達クローンには、人に生まれようともせず、言葉だけをもてあそぶ宇宙精神達は、人と変わらない愚かな者に見えたのです。 こうして10兆年程が過ぎた頃、ある宇宙で第一精神世界の体系が作られ、光と闇の任に就き、ペアを組む事も始めました。 更にその精神は、新しく生まれて来た物宇宙に創造神から上だけを連れて、引っ越したのです。 ここは良く考えると面白いですね。」 YAN「すごいですね。自分達には過去宇宙の知識と体験がある訳だ。天才ですね。」 覇者「そうして、第一精神世界は存続し続けましたが、彼に想像できなかった事が起きたのです。」 YAN「何ですか?」
104
覇者「膠着です。時間と共にそれぞれの任の間の会話が無くなり固まってしまったのです。結局、彼が作った体系がそれぞれ界として閉ざされてしまったのです。しかし彼には、自分が作った体系を破壊することができなかった。任に就いている者達を解任することが出来なかったのです。恨みを生んでしまうからです。 彼は光と闇の任を止め、第二精神世界へへ退きました。第一の光と闇の任は暗く重いものに成って光と闇の任に疲れた者達が1兆年前後で第二へ入ってきます。しかもです、長い繰り返しの内に、第二精神世界より古い世界があることが、尐しずつ分かって来たのです。 そして第二精神世界で実力者達の順位争いが生まれました。言葉の世界の知識争いと言っても良いものです。意味も価値も無い世界ですが、彼らにとっては宇宙とはそういうものに成るのです。 ここは非常に大切なところです。宇宙には創造の余地がありますから、創造は簡単にできます。その淘汰が奇跡的に難しいのです。なぜならば、精神宇宙において恨みは増幅され魔物を作るからです。 そして、地上でも全く同じことが言えますが、地上では更にそこに人々の生活があります。」YANは大きく肯き、分かったと思った。 覇者「私達クローンが、自由宇宙に加わったのは、自由様がそれだけ大きな方だからです。私達が見て来た通常の宇宙精神とは桁が違うのです。御分かりですか?」 YAN「なんとなくですが、そう言われて分かりました。」 覇者「しかもです。精神宇宙の界の撤廃と、新体系の構築に要された時間は、僅か3年なのです。」 YAN「関係ないかもしれませんが、第一精神世界を作った方は、現在どうなさっておられるのでしょうか?」 覇者「御二方とも第二で船に乗る準備をされていました。生まれる子宮を決め、その時を待っておられました。」 YAN「生まれる子宮?」 覇者「人へ生まれると言う事は、妊娠した人の子宮へ宿るという事に成ります。生まれる覚悟をすると、次に子宮を選びます。入ってみます。子宮は天国のようなところですが、判断が付きかねます。また出ます。戻って考えますが、また、その子宮に入ってみます。ある時、子宮の天国に眠ってしまうのです。子宮には天界とは比較に成らない、恐ろしいほどの安らぎがあります。考えることすらできません。記憶が消えて行きます。有るのは、ただ二つの乳首が愛しい。それだけの世界です。」 「あなたが人へ生まれる時に、体験できます。」 YAN「クローンは?」 覇者「私達の場合、機械の中で培養中の体を選び、入りますが、その個大差はほぼ無いと言えます。生まれる意思のみです。私は人の子宮に入った体験が無いのですが、培養機は人ほどの快感は無いと思います。しかし記憶の抹消はあります。微かな前世の記憶は残ったと思うのですが、さほど重要でも無いと考えました。今回の生を如何に生きるか、その方が重要です。さらに大きくなりたいからです。」YANはまた、大きく鼻息を吐いた。 覇者「第一精神世界の体系を作られたペアは、そんな作業中でした。そんな頃自由様が声をかけられ、急激な拡大が予想される天界の内部を守るように言い付けられました。御二方は人の体験が無いと、ご辞退されましたが、自由様はその任にお付けに成りました。今回の宇宙王争奪戦が終わればお生まれになる意思を持たれています。」
105
YAN「なぜこの御二方にこだわられたのでしょうか?」 覇者「他に人の体験を持つ者が居なかったからだと思います。人の体験を持つ者はあなたを含めて4名ですから。それと、やはり第一精神世界を作ったアイデアを高く買われたのではないでしょうか。」 YAN「たった4名だけですか?」 覇者「太陽系にはいるかもしれませんが、精神宇宙には自由様、NOON様、DO様、YAN様のみかと思います。」 YAN「では、マザーからここへ招かれたのは私だけですか?」 覇者「はい、そうです。後3名は天界に入られております。」 YAN「マニーとRONが居ましたが?」 覇者「マニー様は太陽系精神世界です。RON様はクローン界です。」 YAN「NOON様とDO様は現在何をされているのですか?」 覇者「NOON様もDO様も自由様と地球をご一緒された方です。DO様は現在、天界の入り口を守っておられます。」 YAN「DO様はおられませんでしたが?」 覇者「貴方に見えなかっただけです。天界の入り口にはもう一方、化け物様がおられます。」YANの体が反忚した。 YAN「化け物?」 覇者「はい、自由様の化け物様です。化け物様の事はもう尐し後でお話しいたします。」 YAN「ならばDO様は?」 覇者「自由様と地球をご一緒された方です。精神宇宙の出では無く、人の体験を持つ小さな守り神様だったと聞いております。自由様を守られたのです。お話に成ったところを殆ど拝見した事がありません。自由様、NOON様、化け物様、天界の父様のみと会話なさるように思います。まっ直ぐしたお方です。」 YAN「NOON様は?」 覇者「NOON様は基、第亓精神世界、すなわち素粒子時代の最大界だったNOON界のトップでした。そして自由様が地球へ降りられる時にご一緒されました。自由様が精神宇宙の解体を成された時に、NOON界を残す事は出来ませんでした。そして、NOON様は自由様から解散を迫られ、NOON界を率いて2度目の地球へ向かわれました。」 YAN「恨みは残ったのですか?」 覇者「NOON界の恨みは残ってはいないと思います。自由様とNOON様の信頼関係は通常のレベルではありませんでした。それに、NOON様達は人の体験を持たない宇宙精神の価値の無さと、地球を楽園にして戻った精神の価値の両方をご理解されています。未来のリーダー達と言えます。 しかし、NOON界の数千のメンバーの全てが船に乗れた訳ではありません。そして解体された界はNOON界だけでもありません。NOON界と同じ第亓の苦しみ界という魔物退治専門の大きな界がありました。苦しみ界も苦しみ様が全てを率いて地球へ向かわれました。」 「そして、第四、第三、第二も同様です。」 「旧宇宙の解体は簡単に行えた訳ではありません。偶然や幸運、それに自由様の大胆な行動、そして何より、解体を阻止できなかった流れがありました。」 YAN「その恨みは?」
覇者「完全に無い、とは言えないと思いますが、皆、自由宇宙の考え方を理解しています。人に生まれ地球を楽園にする為に働けば、新宇宙王の座や、その他に新しく設けられた1101+1のポストに就くか、
106
天界へ入ることができます。」 YAM「1101+1ポスト?」 覇者「はい、上からまいります。」 「まず宇宙王の座が1、その下に地上の100ブロックスに該当する100のポスト、そしてその下に地上のゾーンに該当する1000のポストが新設されました。+1はユースリーダー達のポストです。」 「新宇宙王は、今回は自由様が数名選ぶと申されていますが、次回からは、宇宙王達が選任します。そして宇宙王は、+1と100ポストを選び、100ポストが1000を選びます。」 YAN「地上の100ブロックスとつながっているのですか?」 覇者「つながっていませんが、完全に別のものだとも言えない程度のつながりは残されています。そしてそのつながりが重要なポイントなのです。」 「宇宙には、未解決な問題が3つあるといわれています。」 「精神宇宙の腐敗と肥大、地上の腐敗、そして終わることができない精神の始末です。」 「1101+1ポストは精神宇宙を美しくする為の、実績を優先した新体系です。」 「これで、過去宇宙の概略と新体系の説明は終わります。何かご質問があれば?」」 YAN「失礼かもしれませんが、これだけで良いのですか?」 覇者「はい。非常に良い質問です。」 「過去宇宙では宇宙に存在する言葉の定義や歴史、そして宇宙の定義だけで50兆年が過ぎ去っただけで地上の楽園は一つも生んではいません。 精神宇宙の過去は地上の歴史と同様だと考えられています。大きな意味はありません。むしろ精神宇宙の起源や詳細な過去にこだわると、そこに話しきれない沢山の出来事があります。その一つ一つの出来事や事件には偉大な判断や美しい決心、未だ完全な解決を見ていない事象など、きりの無いものがあります。 たとえば、今地球上の日本で原発事故が起きていますが、事故対忚よりも未来的に如何に動くかという事の方が重要になります。ましてや精神宇宙自体は行為体ではありませんので、地上を楽園にして初めて価値があるものと考えるのが自由宇宙に成ります。」 「あなたは、おそらく人へお生まれに成ると思います。その時に精神宇宙の過去や、新しい体系といった知識は重要ではありません。しかし、思考範疇が小さければ貴方はまたマザーへ生まれられます。そして私達が見て来た過去から、あなたは最良で、同じことを繰り返されると予測できるのです。 精神宇宙の過去を大きく考えた過去の考え方は、今は、間違っていたと考えられています。しかし大きな思考範疇を持つために最低限の知識として知っておけば良いと考えられています。」 「他には?」 YAN「分かりました、化け物様とDO様の所へ行って良いでしょうか?」 覇者「はい、その予定ですから。お話が終わりましたら、破片から、残った話をいたしますので・・」 YAN「分かりました。ありがとうございました。失礼いたします。」 覇者「ずいぶん、重くなってしまわれましたね。軽く、楽しくまいりましょう。」 YAN「はい、はー。出るのは溜め息のみです。」 覇者「ジョークは大切な道具ですよ。」 YAN「自由様もジョークを使われるのですか?」 覇者「はい、化け物様やDO様とお話しなさる時は、殆どがその類かと・・」
107
YAN「よし!行ってまいります!」YANは身振りでおどけて見せた。YANに笑顔が戻っていた。 覇者「はい、その息で!」 YANは、自由様が自分に何を求めているのかを考えようとした。しかし、自由様の存在が自分の中で遠ざかるのを感じた。大した話の内容だったとは思わなかったが、同時に、自分が持っていた勇者としての体験と自信が、ちいさな思い上がりだったのかと思い始めていた。そして、メリアとローレルとの安らぎを頭に描いてしまった。
DO
YANは天界の入口に立った。天界の入り口の左側に見覚えのある天界の父が居た。その反対側にDOが真直ぐに立って居た。DOは真っ赤な体をした鬼で日本仏教の仁王を思わせたが、西洋の門番の様に直立不動で右手に長い刀を持っていた。そしてその片目でYANの顔を睨み、もう一方の目は他所を見ているようだった。 そして、決して広くは無い天界の入り口のど真ん中に、真っ黒な眠っている蟻の頭がデンと中央に横たわっていてた。その蟻の胴体は女王蟻の様に馬鹿でかく、その胴体を天界の中に横たえていた。 DOと化け物からは自分と同じ戦士の匂いがしている事は明白だった。 YAN「YANにございます。化け物様、DO様、はじめまして、どうかよろしくお願いいたします。」化け物の二本の触覚がピクリと動いたが、その蟻の頭は横たえたまま起き上がる事は無かった。 DO「DOだ。自由から話は聞いている。こちらこそよろしく頼む。」化け物は返事をしなかった。 YAN「自由様を呼び捨てなさるのですか?」 DO「うん、私が自由と出会ったのは自由が10歳くらいの子供の頃だった。私は人の世で小さな神をしていた。だから上から話す癖が取れん。自由もわしには今でも下からものを言う事がある。わしも自由に対して敬語を使わねばならんと思う事があるが、照れくさい気もする。そして許されてきたから、それで通している。わしは基武将だった。大した武将でも無く田舎侍と思ってくれて良いが、人の道に外れる事はしたことは無いと思っている。」 YAN「DO様は自由様と何をなさったのですか?」 DO「自由は大人に成って100VSを書こうとしていた。私は自由の生活費を含めた全てを支えようと努めただけだ。むしろ自由の荷物だったのかもしれんがな。それだけだ。自由を信じて自由の為に身を捧げている。私には宇宙より自由が大切なのかもしれん。今はここの番人をしているが、わしには分相忚なこの任が気に入っている。」 YANはDOの声から、自由様に対する絶対的な自信を感じた。 YAN「それだけですか?」 DO「それだけだが、自由が瞑想で精神世界を這い上がるのを手伝ったかもしれん。」 YAN「どのような瞑想ですか?」 DO「うーん。すべてが知りたいようだな。」
「自由はお前が戻るまでの間、ずっとここに居たのでは無い。自由はマザーから戻ると直ぐに全ての界のトップ達と話をした。しかし彼らを動かす事は出来なかった。そして自由は地球へ生まれた。自由
108
はわしを選んで生まれて来たのだ。その家は落ちぶれたわしを置く程度の家だった。 自由は100VSを忘れていたが、真っ直ぐした青年で地球の大環境異変の阻止を考え続けていた。自由は30歳の時に太陽系精神世界へ入った。その頃のわしにとって太陽系精神世界は上の場だった。わしは自由がそこへ迎えられるように自由を導いた。それから十数年、自由は太陽達の言いなりに成って働き、失敗し、見捨てられた。」 YAN「見捨てられた。」 DO「そうだ。あいつらは何にもせん。口先だけで人を動かそうとする。それがあいつらのやり方だった。わしは、それからも落ちぶれた自由の全てを支え続けた。そして自由が100VSと100ブロックスを書き始めた時、水と生命様が自由に声を掛けてくださった。」 「そして自由は水を得た。自由に取って下の世界より上の世界の方が楽だったのだ。それから3年間で自由は今に成った。自由に取って精神宇宙は人に近いほど恐ろしく手強い相手だった。これは自由だけの事でも無いかもしれんがな。」 YAN「自由様は何時お帰りに成ったのですか?」 DO「今から3か月ほど前だ。自由は志半ばで癌で死んで、わしも自由と一緒にここへ来た。」 YAN「それから僅か3ヶ月で宇宙の界を全て取り払われたのですか?」 DO「いいや、自由が精神宇宙の全ての体系を取り払い、現在の体系にするには3年かかった。」 「しかし自由がやったというのは実は間違いだ。精神宇宙が自由を選び、人であった自由にやらせたのだ。」 YAN「人のまま、精神宇宙を変えられたのですか?」 DO「そうだ。」 YAN「どうやって?」 DO「その頃は、宇宙は界で閉ざされていた。下から上は、何一つ見えなかった。自由にもわしにもだ。 自由は這い上がった。矢の様にだ。数週間で始まり様まで上り詰めたと思う。自由が這い上がる途中で、それぞれの精神達が知る自由の過去を自由に教えて行った。自由はあっという間に自分と自分の自信を回復した。」 「すべての宇宙精神からは人である自由の話は全て見えた。宇宙精神達は自由の這い上がりと一緒に宇宙の全容を知っていった。結果として50兆年の界が消えた。」 「自由が始まり様に辿り着いた時の、始まり様の第一声は「私も人に生まれねば成らんのか?」だった。全ての宇宙精神が始まり様の存在と、その言葉を聞き、そしてその考え方を知った。 その時点で始まり様は自由の精神宇宙改革を既に認めていた。しかも始まり様は精神宇宙に対して何一つしなかった自分をお認めに成ろうと努力されていた。それから数週間後だったか、始まり様は「留まる者は、何時か必ず置いて行かれる。それはどんな精神も避ける事は出来ん。自由にこの宇宙をやる。お前の好きにするが良い。」と言われた。 「しかしYAN。そこまでもそんなに甘いものでは無かった。そしてそこからも自由は努力を続けた。人として100VSを書き続けながら、片手間で精神宇宙改革をサポートした。人としてその家族を食べさせながらだ。自由が精神宇宙に求めていたことは、その改革では無かった。100VSや100ブロックスを書き上げたいから、その知識を求めただけだったのだ。」 YAN「本当に人のまま、やられたのですか?」
109
DO「それは皆が知っている。知らんのはお前だけだ。わしは自由が人だったから出来たと思っている。同等な立場からでは、こんな改定はできなかった。同じ知識ならば人の方が上に成る。しかも自由には人の体験がある。自由の立場を超えられる者が宇宙に一人も居なかった。要するに宇宙最強だった。自由の人としての立場や状況が悪いほど、自由の精神的立場が逆に大きくなった。だからできたのだと思う。 しっかりした意思があれば、人はどんな宇宙精神よりも上の立場と行為能力がある。人の体験の無い宇宙精神など寝言を言っている子供に等しい。それ以下かもしれん。」 「自由はこっちへ来てから残りの作業に取り掛かった。そして知識と醜い美が自由の前に現れた。」 「自由が精神宇宙を這い上がり、その改定をする時に、そこで任を得ていた精神達を整理することに成った。自由は沢山の精神達の恨みを買っていた。自由もそんな精神達に理解と協力を求め続けたが、そこに生まれる精神達の恨みは、理屈で処理できるものでは無かった。 精神宇宙の改定というものは、そんな精神達の恨みの処理だと言えた。自由はそんな精神達と一人で戦ったわけでは無い。もちろん自由も耐え続けたが、始まり様をはじめとする上の精神達の支えが大きかった。NOON様とサイクルと始まり様が居なければできなかった。いや、全ての協力があった。」 「自由の前に、知識様と醜い美様が現れた頃、自由は既に鍛え上げられていた。始まり様にでも、その処理が難しかったと思えた、知識様と醜い美様を自由は、それぞれ1日ずつで処理した。しかも御二方は宇宙の未来に希望を持ち、その改定に前向きに参加される事と成ったのだ。それが自由の精神としての魅力だと思っている。」 「自由は宇宙最強の実力と最強の美しさを身に付けていた。最強の美しさとは、自分の醜さを認めた上で最善の努力を怠らない者だと思う。地上では冴えない貧乏人だったがな。」 「そんな自由の前に、更に訳の分からない巨大な敵が現れた。そういう類の精神は何時も決まって突然姿を現す。後に成って現われる者ほど大きい。それは状況を見極めてから現われるからだ。これだけの大きな宇宙の変化に対して、何も言葉を発せず見守っていた精神というものは、それだけの過去と自信を持っている。」 「その精神の声は、誰も、自由も聞いた事が無いものだった。宇宙全体がその声に怯えた。ところが話し始めて3分もしない内に自由が大声で笑い始めた。そしてその精神を唯の化け物扱いした。」 「自由は、化け物を思い知らせてやれと、醜い美様と知識様をけし掛けた。しかし、何の手忚えすら無かった。化け物は自由に反撃すらしなかった。手忚えの無い相手に対して自由は、始まり様とサイクルに面倒を見るように言いつけた。サイクルはこれで生き延びた。化け物は自由宇宙に留まったのだ。まるで心地よさそうにしてだ。」 「始まり様とサイクルは化け物に対忚したが手忚えは無く、二人は化け物を連れて宇宙の外へ出た。自由宇宙の安全を考えてのことだった。」 「しかし、化け物はまた、自由の所へ戻った。そして自由はその化け物を天界に入れた。それがこいつだ。」 「この化け物は頭だけを、こうやって外へ出し周りの話を聞いている。時々自由と話をする。」 「話を飛ばすぞ。すべてを話せば3年はかかる。」
110
「自由はその頃、別件で苦しんだ。全てが詰まっていた。地球へ向かう大船団の結成と、その出発の号令を発していたが芳しく無かった。自由は自分の限界を宇宙に見せつけた。自由は何時もそうやって自分の弱さを周りに、嫌というほどさらす。糸があってするのでは無いが、何も隠さない所がある。それは自分に絶対的な自信がある事と、必ず再起して来た過去の実績がさせるが、何時も醜い。そして追い込まれ、更に自分を追い込む。そして突然方向を示し歩き始める。皆は自由がそんな時、決まって必ず声をかける。わしは違う。黙って見守り続ける、それだけをして来た。必ず立ち上がるからだ。しかし、この時は違った。終に気がふれたと思った。自由が気が狂ったかのように笑いだした。 そしてその翌日、自由は向こう側宇宙に土足で乗り込んだ。」 YAN「待ってくれ、向こう側宇宙とはなんだ?」 DO「敬語を使わなかったな。構わん。」 「わしの言い間違いだ。別の宇宙だ。今はHOPE宇宙と呼んでいる。宇宙には希望があるという。だから宇宙には希望という名が沢山ある。そして今はこの双子宇宙を自由宇宙と呼ぶようになった。」 「黙って聞いていろ。わしもこんな時でなければ、こんなには話さん。何時か誰かに話す時があると思っていた。」 「自由はHOPE宇宙に土足で上り込んだ。前触れも無く突然にだ。自由はHOPE宇宙の概略を既に知っていた。その理由も後で話す。 そして自由は、誰か名乗り出ろと言った。宇宙王が名乗り出た。その宇宙王も自由の事をよく知っていたし、自由宇宙の成り行きを既に見て知っていた。自由は基、この宇宙の王だった。だからHOPE宇宙の王は自分を、自由と名乗った。HOPE宇宙は自由宇宙より尐し古い。宇宙にはこのクラスの宇宙は現在3つしか無い。もう一つはまだ小さい。 話が一旦外れるぞ。 化け物がここへ来て直ぐだった。自由宇宙の過去宇宙の王が名乗り出て来た。その王は自由宇宙を讃嘆し贈り物をしたいと言ってきた。その贈物とは二人の男だった。自由は二人の男を受取り、化け物にその王を飲み込ませた。 質問せんのか?」 YAN「黙って聞けと言った。」 DO「そうか、たまには、相の手を入れてくれると話にリズムが出る・・愛の手を・・」 「その王は、化け物に飲み込まれる為に出て来た。王の思いは遂げられた。」 「その宇宙は50兆年ほど続いた。そして宇宙の醜さは拡大し、ならず者達が行脚し、地上は醜さを繰り返した。精神達は話し合った。宇宙が醜さだけならば消却した方が良いという意見でほぼ一致した。その時二人の勇者が現れた。出来る限りを尽くして、だめだった場合は仕方がないが、何もしないで終わるのは希望を捨てる事に成ると、人社会の星へ最後のトライを試みた。 一人が地上へ出て、もう一人が宇宙からサポートした。そして結果は出せなかった。その宇宙は新しい物宇宙が生まれ無くなった。そして、それから50兆年が過ぎ、3名の精神だけが残っていた。悔やみだけの死ねない精神だ。その宇宙王は新しく生まれ、美しく生まれ変わろうと努力を始めた自由宇宙の希望の光に癒されたと言った。
111
「宇宙にある癒しは、希望の光だけにございます。」と、消えかけた、呂律の回らない言葉で精いっぱい、そう言った。」 「この辺で、愛の手を・・。」 YAN「それで、二人の勇者を自由様に受け取らせ、自分の最後の思いを晴らした。そして自らを化け物様で始末したかった。」 DO「そうだ。わしは、そういう愛に癒しを感じる。」 「その王は、自由は自分達の悔やみが生んだ、自由は悔やみから生まれた、としきりに言ったが自由は相手にしなかった。自由は化け物に、しばらくこの王の話を聞いてやれと言った。しばらくして、化け物は自由に飲み込んでいいか?と聞いた。自由は飲み込んでやれと言った。その王は消えかけた言葉で丁寧に謝辞を述べ、化け物に飲み込まれた。」 「話をHOPE宇宙に戻すが付いてこれるか?」 YAN「大丈夫だ。やっと宇宙が見えて来た。」 DO「自由がHOPE宇宙の王だった事は話したか?」 YAN「聞いた。」 DO「年を取ると物忘れが激しい。」 「なぜ自由はHOPE宇宙の王を離れたか分かるか?」 YAN「何かの解決策を探しに出た?」 DO「その通りだ。これはHOPE宇宙の王がそう言ったのだ。自由の記憶に有ったわけでは無い。すべては自由が自分を自由と名乗った事が、過去の記憶を解くカギとなったのだ。」 YAN「どんな問題だったのだ?」 DO「良い質問だ。その話がしたくて、この話をしている。付いて来れるか?」 YAN「ああ。」 DO「まず先にHOPE宇宙の状況を話す。HOPE宇宙では、宇宙精神とクローン精神が拮抗し真っ二つに分かれていた。100VSは全ての生命の星に問題無く置かれていた。すべての人社会は自然環境を回復している宇宙だ。自由が居たのだから当然と言えば当然だった。しかし、美しいのは宇宙精神もクローン精神も人も一部で、殆どのものは平和な社会に堕落していった。自由はこの事を空洞化と呼んでいる。その対策を必ず探してくるから、それまでHOPE宇宙を守っていてくれ、と言って自由宇宙へ生まれて行ったそうだ。 そして、サイクルと組んで希望Ⅰに100VSを置いた。サイクルはその後の人社会は全てクローンが楽園にすると言った。自由はサイクルと離れざるを得なかったのだ。」 YAM「ならば、私がマザーに100VSを置いたとしても、マザーは楽園には成らなかったのか?」 DO「それは違う。100VSだけでも自然環境は回復する。それも楽園であり、楽園の一番重要なことでもある。」 「自由が探す空洞化を生まない仕組みはまだ見つかっていないのだ。」
「もう一つ、宇宙精神とクローン精神の対立と、さ迷えるクローン達の問題もあった。今のところ、さ迷えるクローン達の問題に対しては希望に達したと言える。しかし、問題はまだ起きるかもしれん。自由は一つ一つ、体をはって手探りで探し続けている。HOPE宇宙の自由は、自由に、「お前が帰って
112
くるところなど、何処にもないぞ。」と言った。自由は帰りたくてHOPE宇宙に乗り込んだのでは無い。自由は自由に、解決策は自分達で探す事だと言った。自由は、「それが答えか?」と聞き返した。自由は、「そうだ、それが答えだ」と言った。」 「そして自由はHOPE宇宙の改革の必要性を話したが、HOPEの自由は聞く耳を持っていなかった。自由は誰か他に名乗り出るものはいないかと言った。しかし誰も名乗り出はしなかった。」 「お待たせした。ここで化け物が登場する。」 化け物「そうだ。DO、すごいな!良くそれだけまとめられるな。感心する。わしは脱線しそうだ。その時は愛の手を頼む。」 DO「任せろ。たっぷり愛してやる。」 化け物「尐―しで十分だ。お前の愛は重たそうだ、わしは軽いのが好きだ。」 DO「色んな愛を受けてみる事も、勉強だ。遠慮は無用だ。」 化け物「いや、わしは遠慮深い。」 「わしは言った。「怖がっているなー」と。分かるか小僧、恐怖統治だ。」 YAN「分かります。」 化け物「・・・・やっぱり、わしには向かん。父頼む。」 天界の父「私は最近物忘れがひどく、DO様、パスにございます。」 DO「父、」 天界の父「はい。」 DO「お前も、見かけによらず、なかなか出来るな。」 天界の父「ありがとうございます。」 DO「どこまで話したか、忘れた。」 YAN「恐怖統治まで・・」 DO「お前も、なかなか良いセンスを持っている。今のは化け物へのパスだった。」 「自由は、HOPE宇宙も楽園を目指す努力をするように勧めたが、向こうの自由は頑なに断った。自由はクローン側へ誰か名乗り出ろ、と言った。自らをクローンと名乗る精神が現れた。これも頑なだった。自由は話し合う事を強く進め、話し合いができ無ければ過去王として、HOPE宇宙を楽園にすると告げ、一旦引き揚げた。」 「数日後自由は、また、HOPE宇宙を訪ねた。話し合いは不成立だった。自由はHOPE王から始末に掛った。王は抗戦の構えを見せた。自由は問答無用で、化け物に処理させた。王は自ら化け物の体内へ入った。あの入り方はその時と覚悟を知った者と思えた。 そしてクローンとの対決に成った。その時、自由はクローンは話が出来ると思い込んでいた。しかしクローン王は「これでわしがHOPE宇宙の王に納まり、HOPE宇宙をクローンで平定する」と言った。そして抗戦の自信を見せた。自由は「お前には君臨欲しか無い、空洞化した楽園を幾つ作っても同じ事だ。楽園とは、全ての精神が力を合わせて作るもので、お前が治めるものでは無い。下を見てみろと。」と言った。 クローン王は下を見た。そこには冷たい眼差しだけがあった。自由は言った。
113
「もう、お前が戻る場所は無いぞ、お前の君臨欲は露呈した。皆はお前が去り、希望の宇宙の再建を望んでいる、どうする?お前はクローンだ、理解できない訳が無い。」 「醜い美、知識、出ろ。みんなも出ろ。」そう言うと自由宇宙のサイクル、始まり、そして若者たち、更に、HOPE宇宙の者達まで、自由の前に出た。クローンはそれで負けを認め、HOPE宇宙を去ると言った。 そして自由は引き止めた。本物の宇宙を作るために、HOPE宇宙の外側で若者たちを守り見守るように勧めた。クローンは納得した。自由は、クローンに対して始まりとサイクルを残して引き揚げた。そしてHOPE宇宙の王は、HOPE宇宙と自由宇宙、両方の外側を守る、守り神に成った。 しかし、ここからが精神の醜さの世界で時間がかかる。自由はユースリーダー達に二人のTOPを無くしたHOPE宇宙と交渉に当たらせたが、ユースリーダー達はケチョンケチョンに成って一回目の話し合いは終わった。自由はその後の交渉もユースリーダー達にさせ、時期を見計らった。 これで、HOPE宇宙と自由宇宙の統合は近かったが、自由はHOPE宇宙の独立を進めさせた。現在HOPE宇宙には、呼び名は違うが自由宇宙と全く同じでは無いが同様の仕組みがある。若者達は自由に意見交換ができている。しかしそう簡単では無いだろう。そこからまとめらるには、そういう者が必要だが、まだ育ってはいない。 先日だった、HOPE宇宙の勇ましい者達が数名自由宇宙を訪ねて来た。地球へ生まれても良いかという事だった。自由は追い返した。その中の自由が大希と名付けた者が現在の窓口になっているが自由で3年かかった。100年はかかるだろう。ユースリーダー達がどこまで動けるかだと自由は考え、未だに動こうとせずユース達に任せてはいるが、動きが無くなっている。 さて、ここからが本物の物語だ。 自由はこの頃から、もう一つ何かある予感がする。としきりに言う様に成っていた。そして、「お前に言う。新宇宙王が生まれるまで絶対に話しかけるな。終わったら話に乗ってやる。」そう言った。 YAN「誰に対してですか?」 DO「今度は敬語だな。どうしても知りたいか?」 YAN「はい。」 DO「未熟さの表れだ。気をつけろ。礼というものは大切だ。一人でできることなど何も無い。自由は一人でやって来たのでは無いぞ。」 YAN「分かりました。」 DO「そんでだ、どこまで話した?」 YAN「誰に対してですか?」 DO「そうだった。実は本当に忘れているんだ。」 「自由はそれが誰だか分らなかった。ただ、最後が出てくる気配に怯えていた。これまでの努力を覆される可能性があったからだ。そして何度もその思いをしてきているからだ。 ところが、この化け物はしきりに勧めた。化け物は2000兆年、最後の宇宙王を飲み込み続け疲れていた。化け物には宇宙の最後の存在は恐怖では無かった。希望だったからだ。
そして自由は声を掛けた。逃げても同じだ、どうせ逃げられはしない。定めならば受けるしか無いと思った。それは、化け物との関係が奇跡を簡単に生んだからだった。それと、化け物を休ませてやり
114
たいと思った。 そして、自由は未知へ声を掛けた。自由から言葉を求めたのはこの一回だけだ。 それは言葉だった。 言葉は、たった2名だった。大した理論も無かった。自由は怒りを抑えるのに苦労していた。言葉は自由と化け物は宇宙一美しい存在だと思った。そして、美しい、やさしい言葉を与えられると思い込んでいた。だから声を掛けた。自由がいくらいじっても、言葉は正体を隠しているとは思えなかった。むしろ愚かな純真さは伝わって来た。罪の無い天使、といった風だった。自由は言葉を天界へ誘った。天界へ入った言葉は、天界に留まれるのかと尋ねた。自由はどうぞ、と言った。言葉は丁寧な礼を述べ、天界へ消えた。 そして、もう一つある。 その直後だった。自由から「だるま」が落ちた。だるまには記憶が無かった。だるまは今、生まれたと言った。だるまは、負ける事が出来ない、置き上がってしまう精神だった。自由とだるまは3秒で信頼関係を作った。自由は初めて会ったダルマに疑いが持てなかった。 そして、その直後だ、最後の声がかかった。その声は自由と、化け物と、だるまを呼びつけた。完全な上から言葉の敬語で安らぎと優雅さがあった。すべての精神にはこれが最後の言葉だと分かった。なぜかそう伝わった。自由達にも全く警戒心は無かった。そういう声だった。しかもこの期に及んでその声だ。 ここからは、お前の想像に任せよう。 そして、自由は、大天界王から任の交代を求められた。自由は本当に迷っていた。なぜならば、自分の出所だと分かったからだった。自由が断りかけた時、立つこともできない化け物が泣きながら言った。お前がどうしてもやると言うなら、もう2000兆年だけ付き合ってやる、と。 自由は涙が止まらなかった。そして受けた。 その王は、化けものに尋ねた。 「お前の胃袋でしばらく休み、また出る事は出来るか?」化け物は「向上心のある者は飲み込めない。だからできない。」と言った。この二人が顔を上げた時、自由はその石畳のステージの手摺の無いバルコニーの先端にすっと立ち、後ろ手を組み、下を眺めていた。その姿は、その場所にひどく馴染んで見えた。」 「分かるか小僧!」DOは煮えたぎった両目でYANを睨み、図太い声でYANを怒鳴り威圧した。その両目には涙が浮かんでいた。 DO「自由は戻り一晩考えた。 精神宇宙に夜は無いな・・だけど一晩考えたのだ。 そして翌朝、自由は大天界王に留まり続ける者が許されるのかと言った。そして自由は一週間の時間を与えた。 その次の朝だった。 朝も無いな・・・でも朝だった。目覚めた自由に大天界王は話しかけた。 「私達は解散し、宇宙界へ、名を名乗らずに降りる。」 自由は受けた。大天界は消滅した。しかし自由に大天界王への不信が残った。ぬぐい切れなかった。
115
さあ、こんなところだ。後はお前が自分で確かめろ。」 YAN「ありがとうございました。自由様は私に何をお求めなのでしょうか?」 DO「わしには分からんが、解決策は自分たちで探す。自由はそれが全ての答えだと言っているな。」
化け物
化け物の触覚がピンと動きDOの声より気が抜けた感じのする声がYANを包んだ。 化け物「YAN、楽にしろ。お前だけが知らん。だから教える。それだけだ。」 「宇宙の楽園とは、精神宇宙と、地上の楽園だ。私達はそれを作ろうとしている。」 「左上を見てみろ。何が見える?」 YAN「数十名の方が。」 化け物「あれが、大天界様達だ。HOPE宇宙と自由宇宙の両方をあそこから守っておられる。あそこには私と自由の兄弟達が居る。右上を見てみろ。」 YAN「3名の方が私を見ておられます。」 化け物「あれは、内緒だ。」 「後は自分で確かめろ。そして、お前が何をしたいか、何の為に、何をするのかを考えるのだ。」 「お前はマザーで働いてきた。宇宙にこれだけ働いた人は自由以外ではお前だけだといえる。自由宇宙では、お前は新宇宙王の位置に該当するが、お前は100VSすら置いていない。それはマザーの時期が悪かったからで、お前の責任では無い。100VSを置くには時期が必要だという事が証明された。 お前が、もう一度マザーに生まれても、おそらく100VSを置くことも自然環境を回復することも出来んだろう。それが出来るとすれば、もはやクローン以外には考えられん。そして、既にその方向で覇者と破片が、さ迷えるクローン達と共に動き始めている。 今のマザーにとって、お前は大きな要因では無いといえる。 ならば、今のお前が地球に生まれたとしたら、どうだ。何が出来ると思う。」 YAN「分かりません。」 化け物「そうだろう。おまえには地球の未来が見えていない。」 「お前は、もう天界で休んで良い状況に成っている。それは誰もが認める。しかし、自由とわしらはお前に、お前が知らない事を教えようとしている。そしてお前がそれを知った後どう動くかは、お前の自由に成る。」 「自由と私達は、お前ほど動ける人に出会った事が無い。正直に言って、お前への期待というものが私達には有る。お前が求めるのならば、私達はお前を育てる。お前が求めないのならば、これで終わる。」 「どうする?」 YAN「大天界王様とお話しさせて頂けないでしょうか?もし、その願いが叶うならば、地球へ生まれる事をお約束します。そして私に出来る最善は尽くします。」
化け物「うん、良いだろう。しかし、今のお前では早すぎる。今のお前に支え様と話をさせても理解が出来んと思う。自由に支え様が声を掛けるのに2000兆年が必要だった。おそらくそこには、自由と支え様との何らかの事が有ったから、そういう時間が必要だったのだろう。マザーで一度働い
116
ただけの者では話しても害の方が大きいと予測する。おまえには思い上がりもある。思い上がりとはそういうものだ。何かを成せば、それと等しい思い上がりが誰にでも生まれる。そこで留まれば、成長も消える。 残念だが、今、支え様に会わせる事は出来んが、お前がどうしてもそれを望むのであれば授業を続けることは出来る。」 YAN「おっしゃると通りです。今、分かりました。」 「授業を続けて下さる事を望みます。」 化け物「分かった。しばらく休むと良い。」 YANの前に、大きな黒い頭を横たえた化け物が、その頭を横たえていた。左に父が、右にDOが居た。DOの目は両方とも自分を見てはいなかった。
メリア達
メリア「お帰りなさいませ。」 YAN「只今、そういう事だ。」 メリア「?、私がここに留まって下さいと、言うとでも思ったのですか?」 YAN「留めんのか?」 メリア「はい、そんな気は毛頭ありませんよ。」 YAN「どうしてだ?」 メリア「あのですね・・ここにはLIAN様も希望様もいらっしゃいます。お二人はここから自由様を見守っておいでです。私には手の届かない存在です。」 LIAN「まあ、そんな事はありませんよ。私などは、メリアと希望様に嫉妬があるくらいです。」 希望「私とて同じです。女は大きな男を支えたいと思います。女などその程度のものです。私など自由様の支えにも成っていません。地球からお戻りの頃は何度もお声を御掛け下さいましたが最近はさっぱり。私の事など、記憶の端にもありませんよ、にくったらしい。でも、それで良いのです。女はそんなものです。」 LIAN「希望様は自由様から話しを求められていますから、まだましです。私などはさっぱりです。もう嫌になります。」 メリア「LIANは自由様の奥様ですよ。私など下っ端YANの妻ですから。桁が違います。」 YAN「私は下っ端か?」 メリア「違いますか?何か勘違いをなさっておいでのようですね。自由様とあなたでは月とスッポンです。」 YAN「私はスッポンか・・」 メリア「そうです。スッポンです。悔しかったら宇宙を楽園にして自由様を越えてからお戻りください。そうすれば私も今より尐しは大きな顔が出来るというものです。」 YAN「私は、お前が大きな顔をする為に働くのか?」 メリア「そうです!私を愛しているのならば、その女の願いを叶えるのが男です!」 YAN「大した意気だな、ならばお前の願いを叶えてくるとするか。」 メリア「もう行くのですか?」 YAN「引き止められもしない所に居ても仕方がないだろう。」
117
メリア「そんな事は言っていません。尐しくらいは御休みに成っても誰も文句は言いません。まだマザーから戻られたばかりです。」 希望「自由様は地球からお戻りになって直ぐに大会議を開かれましたよ。あら、失礼しました!」 ローレル「おいおい、喧嘩は止めろって、みっともないぞ。」 「どうして自由ばかりがモテル、僕だって良い男だろ。」 メリア「チビは黙ってて!」 ローレル「YAN、早く戻ってくれ、頼むよ。」 YANの心はもう昇天していた。YANはこれが天界の力かと思った。 YAN「ありがとう。みんな。元気が戻りました。」 「行ってきます。」 LIAN「YAN様、自由様にたまには思い出して下さいとお伝えください。」 希望「何をぬかすか!私が最新の妻だ!」 YAN「分かりました。そのままお伝えしておきます。」 メリア「お仕事お励みになりますように。お帰りをお待ちしております。そして他の女に手をお出しに成れば、私が呪い殺して・・」 YAN「分かった、もう十分だ。行ってくる。」 ローレル「YAN、やれ! 新宇宙王に成って戻って来い!」 YAN「・・・」YANは深呼吸し、大きなため息を一つ残して出て行った。
光と闇
闇「私達が出来る話は、自由様が太陽系から宇宙へ来られた時から、始まり様の所へ上がられるまでの経緯と、現在の仕組みに至った経緯、そして現在のユースリーダーの課題と未来だと思います。」 YAN「何も分かりません。よろしくお願いします。」 闇「では、太陽と月様に見放された自由様は100VSを書きはじめました。そこに第一の水と生命が話しかけました。この時「水」は「地球が醜いのは太陽と月の怠慢だ」と鼻で笑い、後に自由様の第一の改定で処分されます。そして前闇様も。」 「こんな調子で話していたのでは1年かかります。どうしますか?」 YAN「ひとつだけ、光と闇様は、以前は何処で何をしておられたのですか?」 光「第二の上から3番目の位置で眺めていただけです。普遍様、全ての宇宙様、そして私達が宇宙と名乗っていました。前闇様が第亓の苦しみ界へ移動され、その空席に私達が立候補いたしました。自由宇宙に向かって初めて、任の位置を下げたのが私達です。」 「他にも、学問と美が一足先に地球へ向かっております。」 YAN「なるほど、そういう事ですか。」 光「ユースリーダーも、新宇宙王の決定次第で、次期船団に乗る事に成ると予想されています。」 「そして、現在、総勢2万強の方々が船に乗っています。その方々が戻られる受け皿を、それまでに整えるのも私達の仕事に成っています。お月様達との連携が強靭でなければなりません。大変です。」 「私達が貴方を長くここに引き留めることは無用と考えています。また、疑問がありましたらその都度、質問してください。」
118
YAN「ありがとうございました。よろしくお願いいたします。」 光「何時でも気楽にお越しください。失礼いたします。」 シェル「いかがですか?」 YAN「大変失礼な事だと思うが、全てを伺っても、記憶には残せないと思う。全体把握の為に必要な事柄だけを、知りたい。勝手を言って済まん。」 シェル「全てを知る事は、未来を想像することの障害になることもあります。YANさまのお好きなように。」 「自由様はDO様とお二人だけで、手探りで這い上がって行かれたのです。いかがですか?」 YAN「分かっている。しつこく言わんでくれ、耳にたこができた。」 「私は私だ、自由様とは違う。自由様が私を求められた。それは私の個性に見どころを感じられたからだと思う。私は私のやり方で把握して行く。」 シェル「ならば次はサイクル様に。」 YAN「途中を飛ばすのか?」 シェル「ああ言えば、こう言うですね・・」 YAN「分かった。頼む。サイクルはもう船に乗ったのでは無いのか?」 シェル「子宮が閉じられるのに、も尐し時間があります。大丈夫です。」
サイクルと創まり
YAN「サイクル様、YANです。」 サイクル「うん、久しぶりだなー。」YANは困ったと思った。 YAN「よろしくお願いいたします。」 サイクル「敬語か?どうでも良いが、敬語で話せ。」 「そうだな、私がお前に話せることは今のお前では理解できん。どう思う?」 YAN「・・・」 サイクル「お前達に殺されてから、この50年間には色々あった。どれも、私にとって良い体験だった。自由を支え、騙していた事で、追放を言い渡された。船に乗るのと追放は違う。 その後、運良く宇宙の外を守る任に就くことができた。そして、化け物、HOPE宇宙王、HOPEクローン、その残党たち、化け物の腸から出て来た始まり、醜い美、知識、そして支え様達と多くの精神達と言葉を交わす事ができた。 しかし、結局こうして人へ生まれることになっている。自由への恨みの念が無かったわけでは無い。しかし、それでも、今回の宇宙改革はわしらの及ぶところではなかった事だけは確かだ。 わしには、舞戻り新宇宙王に就く自信もできた。 つい最近の出来事だ。ユースリーダー達が不満をこぼした。忙しすぎるというものだった。自由は折れたが、苦しみ界の前闇がユース達を戒めた。しかし、前闇のその声に苦しみが含まれていたのを自由は放っておかなかった。 自由は、第亓の最大界であるNOON界と苦しみ界の全員に、空いている大天界王達のステージに1分間立つように命じた。ユースリーダーもだ。私と始まりは24時間許されたが、私達はそれを辞退した。そして若者達の態度と士気が変わった。
119
その事は考えようによっては、自由宇宙の危機だったといえる。自由はいとも簡単にそれを乗り越えた。その言葉も無しにだ。 わしらの及ぶところでは無い。わしは、最近まで新宇宙王へ就くことを考えていた。しかし今は違う。上手く舞い戻れたならば支え様達の下で、希望の光に満ち溢れる宇宙を眺め、守りたいと思っている。」 始まり「小僧、お前は小さい。しかも思い上がりが見える。しかし真っ直ぐではある。素晴らしい若者だと言える。そこからさらに大きく育て、他を育てながら自分も育て、小さな枠を大切にするな。」 「私達も地上へ降りる。お前達と力を合わせ地球を楽園にしなければならん。お前が降りるまでに尐しでも大きくなっていてくれると助かる。私達も全力で挑む。よろしく頼む。」 YAN「分かりました。出るまでにどれだけ大きく成れるか分かりませんが、御二方を侮っていた自分を認めます。」 「どうすれば、自分の枠を捨て、新しい大きな自分の枠を持つことができるのでしょうか?」 始まり「分からんが、恥をかくことはいい勉強になる。今だから言えるがその時には宇宙の裏にでも隠れたいと思う。自分の小ささが嫌になる。そしてそこがスタートだった。私は根を上げなかった、それだけしかできなかった。今はサイクルと同じ気持ちだ。自由を恨む気持ちは無い。むしろ自由には酷い目に会わされたが、感謝がある。」 「自由は自分の醜さや弱さを曝け出す癖がある。そして下に弱い。誰にでも欠点はある。それは仕方がない、個性と許せば済む。大きさはどうにもならん。私達が自由の好意を無視して大天界王様達のステージに立たなかった事は、自分を知っているからだと思う。今のわしらならば、そこで酒を飲むのが似合うかもしれん。わしらは未熟だ。地球で力を合わせ本物の実力と自信と大きさを自分のものにしたい。力を合わせよう。下で会おう。」 YAN「ありがとうございました。私の思い上がりと小ささを気付かせて頂きました。そして私への愛情と、心配りも受け取りました。ありがとうございました。どうかよろしくお願いいたします。下で。」 YANは分かったと思った。二人の大きさも分かった。自分の小ささも分かったと思った。それだけだった。YANに二人の言葉は届かなかった。サイクルと始まりは眉をしかめたが、それ以上言葉にはしなかった。 しかし自由は二人が育ったと思った。自分と化け物が消えても宇宙から希望は消えないと思った。
天界の父
天界の入り口に化け物の姿は無かった。 YANは天界の父に言葉を求めた。 YAN「父様、あなたは何故、天界の父と呼ばれていらっしゃるのですか?」 父「私は、自由様から、あなたに全てを話すように言われておりません。さあ、お入りください。」 YANは、この父にも何かがあって、この任に残されているのだと思った。それを聞けば宇宙が分かると思った。この温和で控えめな男は全てを知っていると思った。 YAN「父様。」 父は観念したかのように小さな声で話し始めた。「良いだろう。何が知りたい?」 YAN「自由様の事を、そして天界の事を、そしてあなたの事を。」 父「うーん、何から話せば良いのかも解らん程色々あった。特に自由様がお見えになってからは・・」
120
父は尐しうつむき加減で自分の過去を振り返っているように見えた。そして、暖炉の火に手をかざす様に優しい黄色とオレンジ色の光に向かって腰を下ろした。 父「あれは今から10兆年程前だったと思う。」 私はある星の人社会の末期を生きていた。それは凄まじい状況だった。 人は食糧不足で小さくなっていた。私は、今のお前の半分程の背丈しか無かった様に思う。大地には草もろくに生えてはいなかった。食べられるもの全てを食べた。私は家族を守ろうとしたが守り切れなかった。妻が、飢えの苦しみをこれ以上子供にさせたくないと言った。そして子どもと一緒に殺してほしいと泣いてすがった。・・・ 人が人らしい思考をする余裕など無く、食べ物を得る手段だけを考える毎日だった。それでも死ねなかった。 法律と常識など無い。暴力、武力、力の無い者は人肉を食べても生き続けた。人は水があれば死ねないものだ。 私は決心した、この全ての人々を救う力が無いのならば死んだ方がましだと。 そして私は崖から飛び降りてやった。もし自分にその力が在るのならば、神が私を救うと思った。そして私は目覚めた。私より貧しいものが私を介抱していた。 私は1週間泣き続けた、その者はその間私に食べ物を持ってきた。それが何だったのかは覚えてはいないが私は泣き止むことができなかった。 私はこの者を助けたいと思った。そして瞑想してみた。私は食べ物を拒否し、また1週間が過ぎた。瞑想など、どんなにやっても誰も話しかけてはくれなかった。私はまた泣いた。その者は食べ物を私に差し出した。私は食べ物を口に入れ笑って見せた。せめて一度くらいは感謝を伝えたかった。その者は笑顔を返してくれた。 私はもう泣かないと決めた。その者の為に。 そして気が楽に成った。そしてまた座った。すると直ぐに言葉が聞こえた。 私は、宇宙最古の神まで行き、怒鳴ってやろうと思った。 私は光と闇様にまで辿り着き、ここが宇宙の果てだと思った。 そして私は、恐れながら文句を言った。 闇様は私に謝り、私を子として、その懐に留めてくださった。 闇様には悩みがあった。それは第一の体系の腐敗を悩んでおられた。体系の改定には恨みが残り宇宙が乱れる恐れが大きかった。私は天界を作り、そこへ迎えて、休んでもらえば良いと進言し、そこに、私の妻子とあの者を迎えた。 それが天界の始まりと成った。 それから、私は天界の父と呼ばれ、宇宙の為に働いた者を支えた者3名までを招き、見守っている。」 父の目には涙は無かった。ただ、思い出したく無かった、話したく無かったと聴こえた気がした。
121
YANは言葉を返さず、頭を深く下げ天界へ入った。そしてメリアを力いっぱい抱きしめた。ローレルがその側でくしゃくしゃになって泣いた。
支え
YAN「大天界王様!YANにございます!お言葉を!」 支え「私が支えです。」 「私達は4000~5000兆年ほど生きたかと思います。私達は自由の形跡を追う以外には何もしておりません。ただ眺めていました。私が宇宙で最も醜い者です。」 「私は言葉様以外では、私達より古い精神に会った事がありませんので、もし居たとしても無視して良いと思います。」 「私からあなたに渡す言葉があるとすれば、私の醜さの話しか無いと思いますが、思いつくままにお話しさせていただきます。」 「私が宇宙と呼ぶのは、自由宇宙やHOPE宇宙のことです。どんな宇宙も50兆年前後で崩壊して行きました。精神とクローンとの拮抗で潰れるものもあれば、最後までクローン達が陰で終わるもの、一番多いのは精神の内部堕落でした。クローンが堕落することは稀だったと思いますが、クローンが堕落することもありました。皆、力を手にした後でおかしくなりました。 醜い宇宙は放置すればできます。」 「そして、宇宙は何故か3つしかできません。私は宇宙全体の素粒子量は一定だと考えています。素粒子が集まる意思を無くした時、宇宙は崩壊して行くように見えました。 それは、その宇宙王の希望の意思が消えた時だったと思います。どの宇宙にも必ず宇宙王がおりました。そして、その宇宙王の意思は私達と大きく違うものでは無かったと思います。そして、その宇宙王が諦めた時、素粒子達が異次元へ消えて行き、新しい宇宙の子供が生まれたと思っています。」 「私達にとって、醜さを持つ精神を受け入れる事は恐怖でした。ですから、それを避け、自由の最後を見届ける為には、私と妻で作るしか無かったのです。私と妻は話し合い、一つの精神には必ず長所と短所があり、必ず醜さにつながるものを持っています。そこで私達は3つの精神で一つの美しい精神を作ることをしました。自由の様な創造に長けるもの、化け物の様な戦いと許しに長ける者、だるまの様に諦めることができない者を作りました。そうして今の日を待ちわびました。」 「自由がここを離れる事を私に告げた時、私は今の自由と同じ気持ちだったと思います。私が出るべきだったのでしょうが、私は自由と代わることが出来ませんでした。」 「化け物は、宇宙の最後の王を飲み込みながら、自由が頭を出してくるのを待ちました。しばらくすると自由とだるまは、必ずまた、頭を出してきました。化け物は自由に近づきます。そしてまた、自由とだるまは宇宙に消えて行くことを繰り返すばかりでした。」 「しかし今回は違います。今、私達が出て行かねば出る時は無いと見えました。後は私達に出来る事をするだけです。それが終われば、私達も人へ生まれます。目こぼしは在ってはなりません。目こぼしをしない事が、宇宙と全ての生命への情です。」 「そして今回が今までと違う所が、もう一つありました。自由と化け物が疲れています。自由がHOPE宇宙へ土足で乗り込んだ時、そう思いました。」 「何か質問はございますか?」
122
YAN「ならば、支え様も?」 支え「もちろんです。私は人へ生まれ、皆さんが作った宇宙天界で人精神と和やかに過ごさせていただきたいと願っています。宇宙で一番醜いのは私と人ですが、宇宙には美しい人が持つ温もり以外の安らぎの場はありません。」 「そして、天界を持つ宇宙も自由宇宙しかありません。私は自由と同じ考えです。」 YAN「私へお言葉を頂戴出来るでしょうか?」 支え「最後に私を求めてくださった事に、心より感謝いたします。温もりのある美しい宇宙を御作り下さい。」 YAN「ありがとうございました。支え様の願いを叶えられるように最善を尽くしたいと思っています。できる事ならば、私に、そちらの化け物様とだるま様を御一方ずつ、御貸し願えないでしょうか?」 支え「いいえ、出来ません。自由の様なスーパーマンが必要な時は終わっています。 宇宙精神が人へ生まれるという事、それが3つ問題のの答えだったのです。そこに目こぼしは在っては成りません。それが今の私の仕事です。 答えは簡単なことでしたが4000兆年の間、成しえなかった醜さの連鎖を断ち切るには、自由、だるま、化け物の様な力が必要だったのです。 これからを作るのは皆さんの協力です。 100VS宇宙はすでにHOPE宇宙では当然の事と成っています。自由宇宙でも希望Ⅰと希望Ⅱは100VSが置かれています。今、求められている事は宇宙に100VSと、平和を手にした人々の空洞化を生まない仕組みが置けるかどうかです。 その時に二つの障害が地球にはあります。 一つは地球にはクローン達が居ないことです。これはむしろ理想に近い状況です。 もう一つは大環境異変の被害が小さく納まる国が残ることです。 後は、具体的作業を進めるために、各自が自分に向いた任を果たすことです。 自由の様な力は必要ではありません。しかし現実宇宙を納める時、自由には化け物が必要でした。地球でも力は必要になります。それがあなたです。 私は、自由と化け物とだるまを休ませなければなりません。これだけ働いた者の最後は報われなければなりません。 自由がどう言うかは分かりませんが、上にステージが空いています。3名はそこで休むべきです。そしてその努めも果たすべきと考えています。その時私の番が訪れます。」 YAN「分かりました。仲間は下で探します。ありがとうございました。ご期待に沿えるように最善を尽くしてみます。失礼いたします。」 YAN「化け物様、YANにございます。」化け物の触覚が、ピンと動いた。 化け物「何だ?」化け物は何時もの様に黒い顔を横たえたまま、気だるそうに答えた。 YAN「戦い方を教えてください。」 化け物「そんなものは無い。」 「最後にもう一つ聞かせてやるが、どうせ、お前の記憶には残らんのだ。」
123
「わしと自由がHOPE宇宙の王と対決した時、わしは、その王の首をどの程度捻るのか、どの程度苦しめるのかを探しながら対忚した。その時、自由とわしは言葉を交わさなかった。今でも鮮明に覚えているが思考が一致していた。そして王は自分の足でわしの体内に入った。」 「ああいう事は自由との間にしか存在せん。そういう友がいた方が良い。それだけだ。」 YAN「分かりました。行ってまいります。」 マニー「待て、YAN。わしを忘れるな。」 「下を見てみろ。」 YAN「おー、見覚えがあるメンバーが並んでいるな。一緒に行ってくれるのか?」 TOP1「はい。それぞれが約1万集めました。総勢5万弱です。」 マニー「良く聞けYAN。わしはお前に3年遅れて出る。そしてこれから戻ってくる者たちも連れて出る。」 「今度はわしがこの命でお前を支えてやる。」 YAN「分かった。みんなありがとう。お前達に宇宙の楽園とやらを作らせてやる。大した仕事でも無い。」 YANの目が小さく輝いた。
124
地球
2010年
地表率約29%、総人口約68億、ブロック数約190、自由経済。陸も海も表面的な自然環境は稀にみる美しさだったが人口抑制や石油の消費量制限は全く行われていない。経済活動が原因の環境破壊が進行し、森林の減尐、大気の温暖化、海面上昇、オゾンホール等が現れていた。地球人口はこの50年間で2倍に膨れ上り、その内の20億が贅沢な生活を始めただけで地球の自然環境は傾いた。更に、中国とインドの経済が好調で世界経済をけん引する超大国に成長し、この二国の合計約24億人が先進国の住人達と同じ生活を始めようとしていた。 この星の経済格差は非常に大きく、貧困側の約半数の人々の所有総資産は星総資産の1%程で、富裕側の1~2%の人々が星総資産の半分以上を所有していた。 政治家達も科学者達も御金持達も環境破壊が深刻な状況であることは知っていて、2050年頃に起こりうるだろう大環境異変の危険性を予測し認識していた。しかし星全体としての具体的環境対策に至ろうとする気配は見えなかった。 この星では経済成長が最優先されるためか、公的組織の管理体制が甘く、全ての組織が蝉の幼虫達の住処となっていた。組織の腐敗と肥大が起こり、庶民は社会組織維持のための税金に苦しんでいだ。その上、アメリカのみならず世界中が更なる経済発展の道を探し続け、自然環境との共存意識は消滅していた。どんな角度から見ても、地球の大環境異変開始は予想より早まると思えた。 更に、地球経済は、地球の自然環境を代償に生まれた莫大な余ったお金がファンドと呼ばれる巨大マネーゲームに向けられていた。人々の社会保障費までもが、このゲームで運用され、この資金の流れ方によっては大環境異変の前に地球規模の経済破綻が起こり得る状況だった。そして、この星からは公平を求める考え方が消滅していた。 人々は、人の食料の穀物を家畜に与へその美味しい肉を食い、人の食料の小魚をマグロに与えその肉を食う。人は何を食べても良い、何をしても良いと思っていて、お金さえあれば何でもできる無制限自由社会だった。 先進国の若者達は携帯電話の新機種には反忚するが自然環境の変化には興味を示さない。大人達はお金を手にすればそんな若者達を大学へ通わせ、高等教育の機会を進んで与えた。そんな娘達の中には遊ぶお金の為にカメラの前で服を脱ぎ、股を広げる者達も居た。余ったお金を手にした大人達はこれが男の特権と言わんばかりに、そんな着飾った娘たちに世界的なブランド商品を買い与えた。地球社会は経済へ利用できることならば、どんな行為でも産業に変えた。 象は人以外で唯一、SEXを人に見られると止める高等知能動物で、巨大草食獣でありながらこんな星で生き続けていた。象は歩き続けることで自然環境と共存して来た。象が歩いた後には、その大量な糞が植物や昆虫を養い、森には水場ができる。大環境異変が始まり食糧難が訪れれば一日100k以上の植物と水を必要とする象を人はどうするのだろうか。象は自然の中で自由に生きているが、象の範囲を守っている。人は自由経済の名の基にやりたい放題の生活をしていた。 地球人も森の原住民だった頃、部族の長老達は自然環境との具体的な共存の仕方、人の生活の範囲のルール(掟)、宇宙的な精神の進化等を口伝えで若者達へ語り継いだ。現在の地球の大人達は若者達に、お金の為なら大抵の事を許す価値観を行為で見せ続けた。
125
自由経済社会は人々に欲望に火をつけた生活を求め、人々はそれに忚え、若者達は自然環境の未来に希望を持たず、せめて自分だけは尐しでも楽な一生をと考える。こんな若者達が地球社会の仕組みに製造されていた。 地球の原住民たちの言葉の中にこんなものがある「音楽は法、ダンスは秩序」食べること以外では、歌うことと踊ること以外を禁止した掟もあった。そしてどんな部族も食料は公平に分かち合った。 「周りの人がしている楽しい事は自分もしても良い。」「地球も生き物なんだから、どうせ死ぬんだから。」こんな生活スタイルを肯定する若者達が多く、そんな社会状況に対して物書き達と科学者達は抽象的な批判と警告だけし、具体的な未来提示は何も無く大環境異変の開始をただ待つ、VISIONの無い星だった。 経済というものはどこの星でも必ず生まれる。それは人々を苦しみから救う目的で考え出されたもので、無限に成長できるという仮定に基づいているが、同時に、その舞台である自然環境も無限だと思いこまれている。限りある自然環境の中で右肩上がりの線が確実に上昇を続けていた。
2020年
2020年、世界人口約76億。世界はタイフーン、ハリケーン、サイクロン、竜巻などの気象災害が増えた。しかし世界経済への大きな影響は無く、それぞれの国の被害にとどまった。世界的に寒暖の差が大きくなり作物の収穫高に影響を与えたが人の気候変動への対忚力の範囲内だった。 先進各国ともに、気候変動の原因が産業活動の廃棄物であることは分かっていた。しかし自由経済最優先の枠を外すことはできなかった。なぜなら、そこに76億の人々の生活があった。
2025年
2025年、世界人口80億。地球温暖化は進行し大気中の水蒸気量を更に増やし、産業廃棄物の大気エアロゾルは雤の核と成って舞い降りた。増大した大気中総熱エネルギーは安定なバランスを求め激しく動き、世界各地は洪水と干ばつにみまわれ穀物生産高が減尐した。 そして、アジア大陸を中心に食糧不足が始まった。しかし世界全体の穀物収穫高は健在で世界は協力し、世界最大のマーケットである東南アジア諸国に食糧援助を行った。人間は環境順忚力が大きく、5年もあれば一日の食物摂取量が半分でも問題無く生活できる。気象災害と穀物生産高の減尐はあったが地球経済は右肩上がりの成長を求め続けた。
2027年
そして2027年秋、日本の東海沖で巨大地震が起き、日本の太平洋側都市が津波に襲われた。日本経済は一時的に停止し、世界経済はその余波を振り払う事が出来なかった。 世界は一機に大気候変動、急激な物価高、東南アジアを中心とした食糧不足の時代へ突入した。世界全体は治安の悪化から経済恐慌突入かと思われたが世界経済協調によって、かろうじて踏みとどまった。
2030年
世界各地の気候災害は続き、東南アジアを中心とした国々で1億以上の餓死者が出た。東南アジアの治安の悪化が深刻化し、アメリカは食糧援助と共に治安維持部隊を世界に派遣した。世界中の人々の不満が連鎖反忚を起こした。アメリカは度重なるハリケーンや竜巻、猛暑、厳冬と戦いながらも、十分な食糧自給体制を背景に大きな難を逃れていた。しかしアメリカでも洪水とハリケーンによる避難者が増え、略奪が横行した。
126
人は土地の生き物であり、その環境に生命の危機を感じると移動を開始した。しかしそこには国境があった。東南アジア諸国の国境は食料難民で溢れ返った。アメリカへのそんな人の移動はメキシコとの国境だけだった。アジア、アフリカ大陸の食料難民の移動は世界経済を更に混乱へ導いた。 世界の治安維持にあたっていたアメリカ軍は、全軍を帰国させ国内治安の維持と内需経済の確立へ全力をあげた。その事へ世界の非難が集中し、石油マネーが大規模なテロへ動き、世界は混乱時代へ突入した。そしてこの年、世界の若者達の間で“100VISIONS”の募集がはじまった。
2035年
世界の産業廃棄物量は急激に減尐し始めた。しかし大気候変動は続いた。そして世界人口は餓死者による減尐を続け、治安は悪化の一方だった。農業は治安が安定していなければ成り立たなかった。 大気候変動は人の経済活動が原因であることは明白ではあったが、経済先進各国は現状の生活維持に全力を尽くした。
2040年
大環境異変は続いた。餓死も、それによる病気も続いた。経済は天五知らずの物価高でコントロールを無くした。食糧に余裕のある国からの食糧援助というものは消えた。そんな中で100VISIONSが発表された。
2045年
20年近く続いた餓死者の数が減尐傾向を示し始めた。世界の産業は完全に止まり、大気中温暖化効果ガスとエアーゾルは確実な減尐数値を示した。 どこの国も貨幣の価値は極端に下落し、食糧が貨幣の代わりと成っていた。お金で働く者はおそらく居なかった。反対に食料の日払いであれば、人はいくらでも確保できた。人は食糧確保のためなら常識は通用しなかった。世界の国境が明確では無くなっていた。 そんな中で国連の力によって終にⅢVISIONSが選出された。しかし、貨幣と自然範囲経済による復興を目指そうとする微かな力を残したアメリカを筆頭とする経済諸国と対立した。国連は残ったアメリカ経済によって支えられていた。地球の全ての人は自然環境の回復と安全な食料を何より強く求めた。地球の未来は見えなかったが人々は微かな希望の光に期待を寄せた。地球人口は45億程かと思われた。 自由「お疲れであった。良くやった。」 YAN「いいえ、・・直ぐに生まれ直します。」 自由「もう間に合わん。そして十分に働いた。」 「お前は何ものも恐れない。良い教訓としたらどうだ。」 YAN「私はこの目でクローンを見ました。直ぐに生まれれば5年後には復帰できます。」 自由「無理をするな。その思いを次に生かせ。100ポストかユースリーダーは約束できると思う。」 YAN「・・・メリアとローレルに会ってきます。」 自由「気持ちは分かる。そういう思いも大切な体験に成る。力は力に敗れる。お前が生まれ直しても結果は同じだろう。無事に戻れた、それで良しとしろ。大丈夫だ、信じて待とう。」
2050年
地球に青空が戻って来た。地球の総森林面積は2020年頃の半分以下に成ったと思えたが、穀物が収穫量を与えてくれた。むき出しになった表土が川へ流れ込み濁り、河川の反乱も相次いだが、川と海に魚達が
127
戻って来た。そして雲間からは温かい光が差し込んだ。
2100年
覇者「さあ、帰って来ますよ!」 「覇者にございます。お帰りなさいませ!お疲れ様でした!」 レベル「ただ今戻りました。」 妻 「お帰りなさいませ。お疲れ様でした。」 自由「自由だ。お疲れであった。良くやった。」 レベル「ありがとうございます。これで私も人の体験があるのですね。」 自由「そうだ。」 クリア「お帰り。でも面白かったな、人も体験した、恋もした、家族も持った。苦しかったなー。」 レベル「ああ、面白かった。今はそう言える。」レベルの瞳は潤んた。 自由「ここを区切りにしよう。まだ元気で死にそうにない者が1名いるが宇宙王を発表する。集まってくれ。」 「素晴らしい結果だと思う。みんな良くやった。」 会場から歓声が上がり、会場は自信と希望に満ち溢れた。 自由「宇宙王はお前たちで選んでくれ。私には決められなかった。BLUESTAR4も置けた。私にできなかった事をお前達がやった。もうお前たちの時代だ。 確かに地球は楽園に成った。しかしまだ問題はある。それもお前達には分かると思う。お前達が今思い上がれば同じことが地上で起きる。楽園に限界は無いはずだ。宇宙に生まれるすべての人が美しく納まれる楽園を作ってほしい。 私から皆に伝えたい事がある。 地球は100VS開始から約50年が経ち、自然環境はほぼ回復し、大環境異変を知らない人々が大部分と成っている。 この時に、貨幣が有るとマザーの様に成ることが多い。 この時に、人々は大自然への感謝と自制を忘れ、自分だけの利得を考える。 楽園とは、若者達がその事を分かっている場では無いだろうか。 平和は精神を堕落させる罠でもある。これで十分だとは思わないでほしい。自由宇宙は輝いたが、宇宙の全てが希望に輝く時を見せてほしい。 そして今回、月様に無理を言って、人であるTAOを引き上げた。これだけの数が戻れたのは月様達の計らいがあったことを忘れないように。TAOには風通しの良い宇宙の為に、何らかのPOSTを与えてほしい。 サイクルと始まりは支え様の所へ行く。私は支え様の勧めを受けて、だるまと化け物を連れて上のステージへ行くことにした。 お前達が地球より美しい星を作り、私達がお前達に追い出される日を待っている。以上だ。ゆっくり休んでくれ。」
128
会場は歓声と若者達の士気と熱気で覆い尽くされた。そして宇宙王と1101+1POSTを選ぶ話し合いが熱く始まった。
天界
自由は天界へ向かった。何時もの様に穏やかな天界の父と、鬼の様な赤黒い顔をしたDOが、そして何時もの様に化け物が眠っていた。 自由「天界の父様、莫大な数の美しい人精神達を無事に天界へ向かえ入れることができました。長い間ご苦労様でした。ゆっくりお休みください。」 父 「ありがとうございました。でわDO様、よろしくお願いいたします。」 DO 「分かりました。ゆっくりお休みください。」 自由は化け物の腹を背もたれに、ゆっくり腰を下ろし持たれかかった。「ああー・・」 「上へは行かんのか。」「ああ。」 DO 「お疲れであった。二人とも、わしのナイーブな奥深い胸でゆっくり休むがいい。」 化け物「お前の毛深い胸でか・・・悪い夢を見そうだな。」 DO 「お前のぷよぷよの腹よりましだ。お前は尐し腹筋を鍛えた方がいいと思う。」 化け物「分かった。ならば今日から風呂上がりにでも・・」 LIAN 「お帰りなさいませ。」 希望 「黙れ小娘!ひっこんでいろ!」 ローレル 「おいおい、喧嘩は止めろって!」 自由 「何時もありがとう。本当にありがとう。」 「でも私が作ったのじゃ無い。お前達と皆が作ったんだ、これからの未来もそういうものだよ。」 「私達は宇宙と自分からは逃れることはできない。そして醜さは放置しておけばできる。」 「私が今回始まりと出会った時、奴はこんな事を言った。「私は宇宙とはこういうものだと思い込んでいた、だから変えることができなかった。」そして始まりは自分を認めようと苦しみ、新しい宇宙を作り、今あそこで私達を守っている。」 「今から93年前、皆は新しい宇宙のあり方に猛反発した。でも今はそう成った。理想なんかじゃない、具体的な楽園を作っただけだ。その為のVIJIONとその処理をしただけのことだよ。人も必ず経済しか無いと思い込むがそれを認めるチャンスが1回ある。そして、始まりが人へ生まれる前にこんな事を言った。」 「わしは今の自分が好きだ。今わしには恐怖は無い、安らいでいる。そしてわしは宇宙王に返り咲く。わしは何もせん。生まれたすべての精神を無事に戻す。それが真の宇宙王だ。そしてわしは再び君臨する。わしを追い越そうとする奴が現れたら、また引き離す。そうやってできた宇宙がどんなものか眺めてみたい。」 おわり



Posted by 空ハウス アースくん at 18:00│Comments(0)
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。